QUEST.4 1/100のリビングデッド B

 そんな鬱屈した日の午後――

 いつもの『保食亭』で、いつものメンバーで食事をとる。それは変わりのないことなんだけど、なぜか僕の視線が後ろの席へと向かう。

 後ろで一人静かに食事する、清水さんに。

「くーっくっくっくっくっく! 他人の不幸で飯がうまいわ! ワルキューレ9の清水エイルの凋落! 今日もぼっちで吹かしイモたべてるわぁ!」

 そういって食欲旺盛にかつ丼を書き込む沙菜さん。凋落する清水さんを沙菜さんは自分と照らし合わせて同情……するどころか、それを肴に上機嫌となっている。

 ほんとうに、このままでいいんだろうか。これは僕にも原因があるんだ。僕が決闘に勝ったからこうなっているわけで、どうも清水さんを見ているといたたまれなくなるのだ。

「まーあんなぼっちの勇者なんてほっとこうよ晶くん」

「姫ちゃん……でも」

「そんなことよりさぁ晶くん! 明日は休日だろう。ぱぁーっとさ、晶くんの勝利を祝って遊びに行こうよ!」

「遊びに、ねぇ」

 姫ちゃんはもはや清水さんを視界に入れていなかった。

「勇者たるもの休息も必要だろう! というわけでショッピングモールでお買い物だよ!」

「買い物なんて、ネットショッピングで済むもんじゃないの」

 ちなみにここ高天ヶ原にも、宅配の類は届くそうだ。まったく便利な世の中だ。

「なぁーに言ってんのさ晶くん! 買い物は過程を楽しむものなのさ! ほらほら、女の子の誘いには四の五も言わずフクジューする! というわけで晶くん日曜開けといてねー」

「ああ、うん。まぁ日曜ならいいけど」

「じゃあ了解だよ晶くん! ボクとのデート、楽しみにしておくがいい」

「で、デート?」

 なんで買い物という単語がデートという言葉に変換されてるんだろうか。

「だめだこりゃ、せっかく決闘で一皮剥けたと思ったのに、鈍感さは相変わらずかぁ、晶」

「ほーんとおままごとみたいね。あんたたちのカンケイ」

「えーと、お二人はなにを話してらっしゃるんですか」

 僕にはさっぱりわからない。姫ちゃんはすごく上機嫌で牛丼を掻き込んでいるみたいだけど、そんなに僕とのお買い物が楽しみなんだろうか。

「まーったく、晶、お前には恋心ってのがわかっちゃいない。俺の至高のギャルゲーを5本貸してやるから、それで勉強しておけ!」

「ぎゃ、ギャルゲーって……」

「幼なじみでロリでボクっ子で、それを攻略しない道理はないだろうが!」

 なんだかよくわからないけど、二人はまた僕たちのことをからかっているんだろうか。

 まぁ今週の休日は、どうか平和で楽しい一日になることを祈るばかりだ。


***


 そして土曜日。姫ちゃんの妖魔退治に付き合ってクタクタとなった夜のこと。

 いつものように僕は布団に潜って、姫ちゃんのツイッターを確認(『休日はダレかと遊びに行きたいなー』なんて意味深なことをつぶやいている)。そして明日の楽しいデート……いや、買い物に思いを馳せて眠る。

 そう、僕はいつものように不用心で眠りについていた。

 自分の“未来視ちから”のことなんか、すっかり忘れて。

 

 夢の中で――僕は視てしまった。

 最悪の未来を。訪れる、災厄が――


『もし、お主の未来視がホンモノなら、誰かが死ぬ未来を視てしまう――やもしれん。その覚悟をしておくんじゃぞ』

 その総長の忠告がこうもあっさりと的中するなんて。

 僕は夢の中でショッピングモールにいた。姫ちゃんと一緒に、デートをしていたんだ。

 姫ちゃんといっしょに店を巡っていくなか、どういうわけか周りの人たちが青白い肌の、黄色い目のカイブツに豹変して、僕らに襲い掛かってきて――

「姫ちゃん――!」

 周りの人たちが僕たちを飲み込んでいく。そして姫ちゃんが1階イベントフロアのステージに立たされて、そこで伯爵風の男に。

 がぶり、と。

 肩を噛まれた。そして姫ちゃんは――

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