第3話 信頼は……


「負ければ何もかも失い、命令に背けば一生奴隷、最悪の場合は……死か……」


よくある異世界ラノベみたいなハーレムやもし無敵の最強ヒーロー、チート能力で異世界無双したり、ほのぼのした幸せな異世界ライフなんてのを期待していたのに待っていたのは、絶望的な異世界生活

突きつけられた現実は生き延びる為に戦う事で、避けることは到底出来ない

思ってたものではなくても受け止めるしか無い

そんな心境を目の当たりにしてどうすれば良いのか、途方に迷ってしまい朝日眩しかった外は今では朱色に輝く夕日が沈みかけ、闇夜を迎えようとしていた



「どうぞ」


コッというコップのタップ音

目の前に一杯の水が置かれる

コップを口に近づけ一気に飲み干す

喉を通る水が渇きを潤す

背後の窓から風が強く吹きテーブルのロウソクの火が消える


「イグニス」


リルが人差し指をロウソクに向け唱えた

突然ロウソクに火がついた


「え、今のって……」


「……イグニスですが?」


「違うよ!ポッて火がついたじゃんか!」


「何を言ってるのですか、燃えてください

跡形もなく、綺麗さっぱり燃えちゃって下さい」


「何でだよ!絶対嫌だよ!……なぁ、もしかして今のって、魔法だよな……」


「はい、魔法です」


“魔法”その言葉がリルの口から出た瞬間

心の奥底から興奮と歓喜が湧き上がって来た

今この絶望の状況の中唯一の救いとも言える魔法という言葉

少年の様な好奇心が沈んだ心から解放してくれる



「……それってさ、俺も使えるのか?」


「はい、もちろんですとも」


「頼む、教えてくれ!!」


両手を顔の前で合わせて頼む

リルの顔を見ると冷たい視線を送っている

小さくため息をついて一言


「……からかうのもいい加減にしてください、その下りはもう飽きました」


「……え、いや、大真面目なんだけど……」


リルはゴミを見るかのような目で見てくる


「ハル様いたずらにも限度があります」


「……」


「これはいたずらが過ぎています」


「……いや、いたずらじゃないんだけど……」


リルが大きく振りかぶった両手をテーブルに叩きつけこちらを睨みつける


「……」


「……」


沈黙が二人を襲い、時計の音が響く


「……リル。俺は……その……嘘ついてる訳ではないんだ。何か気に触ったなら謝るから」


話しかけてもなおリルは静かにこちらを睨み続ける

リルの視線は蛙を睨む蛇のように鋭く目を背けたくなるでも、ここで目を背けてたらだめだと自分に言い聞かせてなけなしの勇気を振りしっぼって話を続ける


「もしも、もしも理解……出来ないなら……それで良い。……ただ、嘘ではないこれだけは信じてくれ……頼む」


椅子から立ち上がり、少しでも誠意が伝わるように深く深く頭を下げる

リルはどんな顔をしているだろうと考えると頭を上げるのが怖くなる

静かな間が怖いくらい続く


「……頭を上げて下さいハル様」


「……」


「主人であるあなたがそこまでおっしゃっるのなら……私は信じます」


「本当か……」


「ええ、もちろんです。だってあなたは私の主人なのですからね。従者が主人を信じないで主従関係は成り立ちませんので」


「ありがとう……本っ当にありがとう……」


心地よい夜風が窓を通りリルの金糸の様な煌びやかな髪をを軽やかになびかせる

彼女の顔はなぜか晴れやかで、尊い何かを感じた

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