第2話 俺領主なの!?
「何をそんなに驚いているのですか?」
不思議そうな顔でこちらを見ているメイド
端正な佇まいに見惚れ、うっかり眺める
ふと、呼び名に違和感を感じた
「え、いや、ご主人って……そうか!」
昨夜のことを思い出して、一人納得する
昨夜、異世界に行けるという噂に興味を持ち試した
そして、成功して今異世界にいる……
「やっばいな……」
顔が不意ににやけてしまう、こんな体験宝くじ当たる何億倍も高い確率だぞ……
それに偶然、とんでもなく偶然当たるなんて……
「やっべ、テンション上々だろこれ」
嬉しさが胸の奥からひしひしと湧き上がってくる
メイドがそれに冷ややかな視線を向けてくる
相当気持ち悪いニヤケ顔だったのだろう……
まるでゴミを見る目である
「……まぁ、おかしいのはいつもの事なので心配しなくてもよろしいですね。とりあえず、汗を流してきてください」
メイドはため息混じりに毒をはく
メイドに指摘され、身体を触ってみると寝汗をかいたのか、シャツと肌からじんわりと湿気を感じる
「あ、はい……えーと、名前何でしたっけ?」
「誰のですか?」
「いや、あなたの名前ですけど……」
「……はぁ、何をふざけているのですか?ふざけるのは、顔だけにして下さい」
「……」
「……まさか本当に覚えていないのですか?」
「そのー、何というか……はい」
「……本当に大丈夫ですか?」
メイドの澄ました顔が不安の色を浮かべる
が、少し考え直ぐに状況を理解し一人納得する
「……私は貴方の領土に使えるメイド、リル・マクリルですよ」
「リルさん……」
聴こえて無いのか返事が返って来ない
「リルさん、いや、えーと……リルさん……」
何度か彼女の名を呼ぶと見るもおぞましい何かを目撃したように顔をしかめてこちらを見る
「……」
「あの……リ、マクリルさん」
「……」
「お、おーい……あ、あのー、リルさん……む、無視は辞めて貰いたいんですけど……」
「ご主人様、”さん“ずけはおやめください、気持ち悪いです。いつもの様にリルとお呼びください……本当に気持ち悪いです。」
「あ、はい……」
「本当に覚えて無いみたいですね……とりあえず汗を流してきて下さい、話はそれからしましょう」
ベッドから出てリルに案内されて浴室に来た
浴槽は旅館にある温泉くらい大きく、ワクワクしてついついはしゃいで泳いでしまった
風呂から上がると、新しい洋服が丁寧に畳まれて籠の中に置いてあったので着替えて浴室を後にした
リビングに案内され、テーブルに用意されていた高級ホテルで出される様な朝食を食べ、一息つく
「どこまで、覚えているのですか?」
唐突にリルが質問して来た
「な、何がですか?」
「ハル様の身の回りの事についてです」
「え、あ、えーと……ほとんど、覚えてないです……」
「なるほど……では、説明いたします」
「あ、はい……」
それからリルから、この国について色々教えてもらった
……時々彼女の吐く毒が心に刺さりまくった
ここはアイテール皇国といい
領主と呼ばれる各領土の主が百人ほど存在し、
この国は領主たちの中から最も領地を持っている領主がアイテール皇王、いわゆる王様となるとらしい
また、この国では領主同士の領地の奪い合いが容認されており、領主たちの合意により領地戦争が勃発している
戦争に負ければ、勝者に言いなりになりその命令に背くことは出来ず、もし背けば奴隷か死の選択を選ぶ
そして俺はその領主の一人となってしまっていた……
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