獅子と英雄 2
おお 勇敢なる騎士オルディーン 東軍の英雄
振り上げたるは鋼の剣 強大なる敵を見据える
迎え打つは誇り高き獅子ゼグナ 荒地の主
憤怒の咆哮響き渡り 愚者を滅せんと跳ねる
いずれも強靭なる勇士 しかし生き残るは片方
金の瞳に臆した者に 最早勝機はありもせず
王たる獅子の一閃に 喉を裂かれ倒れ伏す
かくして雌雄は決し かくして騎士の命は散りぬ
英雄の死と勝者たる獅子の咆哮 東西を睨むその雄姿
東軍は嘆き悲しみ 西軍は恐れおののく
かくして両軍が退き かくして荒地は無音となる
おお 勇敢なる騎士オルディーン
悲壮なる決意 その勇気に敬意とこの歌を捧ぐ
願わくば汝の魂よ 安らかであれ
『ベイドリールの獅子と王冠 第三章 獅子と英雄の戦い』より
****************
まだ歌の余韻も残る中、私は執務室に戻り、大量の仕事を黙々と片付けるテア様の近くで、完成書類を整理していました。
「何故、騎士オルディーンは獅子に挑んだんでしょうね」
突然何の脈絡もなく発された私の問いに、書類の中から面倒くさそうにテア様が答えます。
「…何だ、いきなり」
「ベイドリールの獅子と王冠、ですよ。何故戦争の真っ只中に、荒地の王に挑むような真似をしたんでしょう」
さっき聞いた歌物語。私が知らない部分がありました。私が知っているのは、英雄オルディーンが華々しく散り、獅子王の強さを印象付ける、勇壮で劇的な部分だけです。でもオルシャさんが歌ったものは、どちらかというと悲劇的な色合いを帯びています。
テア様は軽く息を吐くと、淡々とした口調で教えてくれました。
「色々な説があるが、大体この3つだろう。ひとつ、只単に獅子王に勝ってみたかった。ふたつ、獅子ゼグナの強さを全軍に思い知らせ、荒地から退かせるため。みっつ、自軍と獅子を戦わせたくなかった」
「それまた何故?」
「獅子ゼグナは強い。自軍と衝突すれば同胞が犠牲になり、軍が混乱し、ともすれば西軍が攻めかかって来る。更にいくら最強の獅子とて数を相手しては生き残れないかもしれない。オルディーンにとって獅子王ゼグナは憧れと敬意を抱く存在であると同時に、打ち倒してみたい相手でもあった…他の誰かでなく、自分が」
そういう気持ちなら、私にも覚えがありました。
「ああ、私にとってのお師匠様みたいな」
師であり、目標でもある私の師範。何度戦いを挑み、何度敗れたか知りません。結局、正攻法では一度も勝てたことが無いのですが、いつかは超えてみせると固く誓っています。
「…お前に師が居たということ自体が初耳だが…」
そうでしたっけ、と惚けてみると、そうだ、と返されました。心なしか不機嫌ですね、テア様。
「兎に角、人と人…この場合獅子だが、それぞれの間には色々な思惑があるんだ。誰もがお前のような単純な思考回路を持っている訳でもないだろう」
「今のは悪口ですね。反論しても?」
「異論は認めない」
「横暴賢者!」
「ならお前はとぼけ秘書だな」
思わずへの字口になって軽い暴言を吐いてしまいましたが、もともとテア様はそういうことを気にしない人なので特にお咎めはありません。テア様が少し楽しそうな雰囲気を滲ませたので、逆に軽口を叩くのは正解だったようです。
上司の機嫌が上昇したことに、私の機嫌も自然と上昇します。不機嫌なときのテア様はなんだかとてもやりづらいので。
「ところで何故いきなりそんな小難しい話を持ちかけてくるんだ」
素朴な疑問といった感じで投げかけられた問いに、私も普通に答えます。
「ああ、それは旅士のオルシャさんたちに歌物語を披露して頂いたからです」
「…成る程、それでか」
言った瞬間、また何かを思案するように沈んでしまったテア様の顔を見て、私は内心やってしまったかと焦りました。何故かは分かりませんが、オルシャさん達の話はテア様を悩ませてしまうようです。何とかテア様の気分を向上させねばと、少しでも明るい方向に話を持っていこうと私は殊更に明るい声を出します。
「はい。オルシャさん、歌が凄くお上手ですね!弟子のキーシュさんも素敵な歌声でしたし…」
「弟子も、歌ったのか」
「歌いましたけど、それが何か?」
また、何かの地雷を踏んでしまったのでしょうか。いい加減やりづらいのでいつものテア様に戻るよう、切実に願います。
「……いや、何でもない。あの人も、よい弟子に恵まれたのだろう」
こんなやりとり、もう何度目でしょうか。テア様の胸襟を掴んで上下に揺さぶるか前後に揺さぶるかして、先日からの微妙な態度の説明をして頂こうかと思いましたが、流石に踏みとどまりました。それにしても、幼い頃好奇心の権化と呼ばれた私に隠し事をしたままで済ませられると思っているのでしょうか。だとしたら、砂糖菓子よりも甘すぎますよ、テア様。
私には、何でも知っている心強い友人が居るのですから。
***************
2日後、雨の季節の先取りでしょうか、珍しく朝から雨が降っていました。
私の今の気分を象徴しているようで余計に気鬱になりますが、そもそも何故いつも明るいのが基本の私を気鬱にさせているのか。そうですこの人ですこの人が全部悪いんです。 ちょうど私の目の前の机で延々とひたすら羽根ペンを動かしているこの人が!
しとしとと降り続く雨の音がする中、明らかに量の増えた書簡と書類の束を抱え、私は顔をしかめていました。
「テア様」
「何だ」
「何でですか?」
「…何が」
「だ・か・ら!」
ずどんと大量の書物を書き物机の上に置くと、音に驚いたテア様の体が大きく揺れました。次いで、面倒くさそうにゆっくりと振り返ります。
「なんで、わざと仕事を大量に背負い込むようなまねをしているんですか?」
「別にいつもこうだろう。気のせいだ」
「私はテア様の秘書ですよ。尋常じゃない仕事の量ぐらい分かります。私に隠れて、他の人の分までやっているんじゃないですか」
今度は、質問ではなく確認の意味を込めてテア様の顔をじっと見つめますが、ふいと目をそらされてしまいました。
「…気のせいだと言ってるだろう」
「…何故、会ってあげないんですか」
テア様はここ数日、訊ねてこられたオルシャさんたちに、『忙しい』と言う理由で面会しませんでした。それどころか、殆ど執務室から出てさえいません。何故、そこまでしてあの方達を避けるのでしょう。だって、オルシャさんは。
「オルシャさん、テア様のお師匠様なんでしょう」
下を向いて呟くと、再び仕事に戻ろうとしていたテア様が弾かれたようにして顔を上げました。
「お前、何故それを…あの人がそう言ったのか?」
「違います。レヴィから聞きました」
苦々しげなため息の音が、執務室に響きます。
「…お喋りめ」
「お喋りめじゃなく!」
思わず机を叩いてしまいましたが、この際そんなことは重要ではありません。
「別にいいだろう、お前には関係のない話だ」
ついに開き直ることに決めたらしいテア様の瞳は頑なです。
「あれから、オルシャさんたち、何度も神殿を訪れてるんですよ?悪いと思わないんですか」
「話は間接的に聞いた。随分と立派な弟子が居るそうじゃないか。キーシュとかいう」
「はいキーシュさんは立派なお弟子さんですじゃなくって!!」
いらつきのままに頭を大きく振り、私はきっと顔を上げました。
「会ってあげて下さい、速やかに!仕事も少しくらいさぼったっていいです」
「断る。そんなことお前に命令される筋合いは無い」
「…そうですか」
あくまでも頑なに拒む態度のテア様は、押しても退いても動かないように思えました。どうしてここまで師と会うのを拒むのか、私には分かりません。一応事の顛末はレヴィから聞きましたが、それでもここまで会うのを拒む理由にはなりませんし、むしろ逆な筈です。
レヴィに聞いたことを整理すると、テア様は賢者になる前、オルシャさんとあちこちを旅をしていたそうなのです。その頃から魔法の才に恵まれ、豊富な知識を持っていたテア様は本当なら、オルシャさんの跡を継いで旅士になる筈でした。ところが、一度見た物を忘れず、膨大な量の知識をとりこめるテア様は、それより前から、ほぼ強制的に賢者になることが決まっていたそうです。
神殿に束縛される賢者になるということは、当然、旅士になるという道も閉ざされます。テア様はとても悩んで、それでも結局は自ら、賢者になるという決断を下したのだそうで。
それが何故そこまでオルシャさんに会うことを阻むのか、矢張り私には理解できません。
結局テア様との会話はそこで終わってしまい、私はまたオルシャさん達が訪れたという報せを聞き、すぐにテア様に伝えましたが、どうやら無駄なようでした。仕方なくまた例によって私が下に降り、彼らに残念な報せを届けに行きます。
「…すみません」
「そうですか…ううん、仕方ないよ」
謝ることしかできず、情けなさが押し寄せている私に、オルシャさんは笑ってくれました。
「元々、具体的に何かって用があるわけでもないし。ただ、久しぶりに顔を見られたらと思っただけで」
「でも…」
それでも申し訳なくて、下を向いて肩を落とす私の頭に、ぽんと大きな手のひらが乗りました。私があまりにも落ち込んだ様子だったからでしょうか。テア様より少し大きいくらいの手のひらで、私の頭のてっぺんをぽんぽんとあやすように軽く叩きました。
「きみは、とてもいい子だね…ありがとう」
そういえばテア様も時々、私が凄く落ち込むと頭に手を置いて落ち着かせてくれます。やっぱり師弟だからでしょうか、行動まで似ています。私の師範のかきまわすような乱暴なものとは大違いで、なんだかとても癒されます。
「いいえ、いいえ…」
その優しさについ泣きそうになってしまったとき、傍に佇んでいたキーシュさんが沈黙を破りました。
「…ところで、エアルさん、ちょっとお聞きしたいんですが」
「えっ?あ、はい…どうぞ」
思わずも感情を溢れさせかけていたことに少し慌てながらも、今更ながら秘書らしくを心がけ、耳を傾けました。
「一応、確認しておきたくて。賢者様はこの人に会いたくないと思っているんですよね?」
「キーシュ君!」
たしなめるようにオルシャさんが声を飛ばしますが、キーシュさんの試す様な目は変わっていません。琥珀色の目をつい睨み返しながら、私は毅然とした態度で応じました。
「それは違います!だって、師弟なんでしょう?オルシャさんはテア様の師匠、ですよね?」
「知っていたんですか」
そこまで知られたくないわけでも無いらしく、わずかに目を丸くしながらも、キーシュさんは特に悪びれず答えました。
「友人から聞きました。何故旧知の仲、なんてぼかして言われたのかわかりませんが」
僅かに混じる抗議の響きを受けて、キーシュさんは至って平常な態度で応じます。
「この人がまた、要らない気を利かせて『触れ回ると色々厄介だから、師弟と言う関係は表に出さずにいよう』と言っていたくせにぽろりと口を滑らせそうになったので」
「…そうだったっけ…」
じろりと睨まれたオルシャさんは目を虚空に泳がせ、キーシュさんは軽くため息を吐くとこちらに視線を戻しました。
「言いたいことは分かりますが…でも、本人もそう思っているんですか?」
そう言われると、テア様の正直な気持ちを未だ聞けていない私は苦しいです。でも、言い返さなければ。秘書として、このままテア様を極悪非道で師匠不孝で弱虫な駄目人間の印象を持たせたまま彼を行かせる訳にはいかないんです。
「会いたくない筈がありません。テア様はちょっと…いいえ、とっても素直じゃないだけで…本当は、凄く会いたい筈なんです…」
最後は少し自信なさげにくぐもってしまいましたが、言った言葉は本物です。必死に琥珀色の瞳を見つめ返すと、固く、冷たさすら漂っていたキーシュさんの表情は、緊張の糸を解いたように、ふっと柔らかくなりました。
「……よく分かりました。その答えが聞けただけで僕としては満足です。さあ、行きましょう師匠」
先ほどまでの張り詰めた空気が嘘のように、にこにことした表情で師匠の首根っこを掴み、引き摺っていきます。
「ちょっと待っ…キーシュ君!!…じゃあ、またね、エアルくん」
なんとか体勢を立て直したオルシャさんはにこと笑って別れを告げ、夕焼けの街へ消えていきます。
どうしようもなく物足りない気持ちがあって、私は影になっていくオルシャさん達に、大きな声で叫びました。
「わ、私、絶対ぜったいテア様のこと説得しますから!!」
影は立ち止まると、大きく手を振ってくれました。
************
このままではいけないという気持ち。それが、今の私の思考を占領していました。
色んな感情の行き違いから誰かが悲しい思いをするのは、納得がいきません。
でも、オルシャさんに会うよう説得するにも、テア様が何にこだわっているのか分からなければ、説得の言葉はむなしく響くものになってしまいがちです。そもそも私とテア様では頭のつくりが違うんですから、私がいくら考えたところで正解にたどり着くのは困難。ならばそれを知っている人に聞くべきです。
私は荒い息を吐いて、時計塔へと駆け込みました。
「レヴィ!!テア様のことで、教えて欲しいことが…」
勢いよく扉を開けて求める人の名を呼びましたが、鐘楼台へと続く部屋の中にレヴィの姿が見当たらず、私は部屋の中心へ歩み、きょろきょろと周りを見回しました。
変ですね…いつもならこの時間、ここに居るはずなのに。
「…ここだよ」
突然の声にぎょっとして扉の方を振り返ると、扉の裏にレヴィが立っていました。
「そんなに急いでどうしたのかな」
流石レヴィ、扉にぶつかっても優雅です。街を歩けば皆が振り向く美人です。私が勢いよく開いた扉に強かに打ちつけてしまったのでしょう、額が少し赤くなっていますが、いつもと代わらぬ微笑みを見せてくれました。
「ご、ごめんなさい!気づきませんでした…」
「うん、友たる私の存在に気づかないほど大変な相談ごとなら仕方ない」
その、微妙によろしくない感情が込められた喋り方は、レヴィ…もしかして。
「怒ってますか…?」
「ううん、全然。ただ、毎度毎度そうやって君に気を回させる賢者殿が気に食わないな…どうせまたオルシャ殿に会わなかったんだろう?」
そっちでしたか。どうやらレヴィはテア様で遊ぶのは好きですが、テア様に関することで自分や私が煩わされるのは嫌いなようです。…でも、今はそんなことは言っていられません。
「…お願いします、テア様とオルシャさんについてもうちょっと詳しく、レヴィの個人的感想も含めていいですから、教えてください!!あの石頭をなんとかしなきゃいけないんです!」
「うん。賢者殿はどうでもいいが、友の頼みとあればいくらでも」
この人は、相変わらず私に甘いです。それを知って甘えてしまう私も私でしょうか。でも、普段頼っている分、レヴィが辛いときは絶対私が助けるんだと心に決めています。ただレヴィはしっかりしているし、謎が多くて私に弱みを見せたことが無いような。むしろレヴィのこと、私もしかしたら何も分かってないんでしょうか。
「その、理由なんだけどねぇ」
ふと気づいた新たな事実に愕然としていたとき、レヴィが話し始めました。いけないいけない、今はこっちです。
「エアル、賢者殿が自分で決めて神殿へ入ったって話はしたね?」
「はい」
「でも、高位の賢者ともなれば、旅士であるオルシャ殿より身分は上だし、立場上、師弟の誓いも破棄しなければいけなかった」
「そんな事が!?」
だから、今は師弟ではないと。
「別にそれくらいいいじゃないかと思うんだけど、当時のトーシス神殿のお偉いさんは恐るべき堅物だったんだよ。多分、旅士への夢を捨てきれない賢者殿が神殿を逃げ出して師のもとへ戻るのを恐れていたんだろうけど」
「……それは…」
責任感の強いテア様がそんなことをするなんて、私にはあまり想像できません。そもそもテア様は誓いを曲げるような人ではないのに。
「理不尽かもしれない。でも、テア様の決意は固く、彼は師弟の誓書を神殿長の前で燃やして見せた。そうしなければ、断ち切れなかったのかもしれないね…旅士になる道や、親子同然に過ごした師への未練を」
テア様が10の時から、神殿へ行く16まで、ずっと二人で旅をしてきたのですから、絆が強いのも当然かもしれません。幼い頃父親を亡くしたというテア様にとっては、父親代わりのような存在だったのでしょうか。
「でも、それで会わないんですか?そんなのおかしいです…たとえ師弟じゃなくたって、お二人の間に強い絆があることは確かじゃないですか」
「うん。だからひとつはそういう理由」
急ににっこりと微笑んだレヴィに少しぎょっとしながら、私は友の顔を覗き込むようにして問い返しました。
「じゃあ、もうひとつは?」
「一言で言うと…負い目、だったろうね」
「…それは、跡を継げなかったという負い目?でも、もう今は新しい弟子のキーシュさんが居るでしょう」
「そうだね。ガキだから」
レヴィは曖昧に笑います。これ、誤魔化すときの笑い方でしょう。いい加減覚えてしまいましたよ。曰く、嘘は『あまり』つかないけれど、真実の一部を敢えて言わないことは大好きなのだそうで。そういうお茶目なところ、ときどき厄介ですよレヴィ。
「…あとは、やっぱり断ち切れてないってこと。なんて呼んだらいいのか分からないんだよ」
「へ?」
「賢者殿はずっと、オルシャ殿のことを師と呼んできた。師と呼ばないということは、今までの関係を自ら否定してしまうことだと思ってる。それが怖いんだろうね」
「…じゃあ、断ち切れてないんじゃないですか…やっぱり、本当は会いたくて仕方ないくせに」
「だろうねえ。だってもう、最後に師と別れてから5年近く経っている。本当なら積もる話もあるはずなんだけど」
「5年…」
長いような短いような。
…いえ、やっぱり長いです。家族のように共にあった人と再会するまでの時間としては、長すぎます。私だって、そこまで里心が強いほうではありませんが、まとまった休みがとれたら家族に久しぶりに会いに行きたいです。兎に角、それがテア様の個人的な我侭なら、なんとかしなければ。だって、このままじゃ。
もどかしさに俯くと、それを代弁するようにレヴィが呟きます。
「このままじゃあまりにもオルシャ殿が可哀そうだ。元弟子にここまで邪険にされて、もう明日には王都へ行かなければいけないのに…あの堅物じゃ」
すっと視線を虚空に流したレヴィが呟いた言葉に、私はぎょっとしました。
明日…王都!?ここから王都までは歩いて2日かかります。それだけの距離、もう行ってしまったら連れ戻せません。
「じゃあ、もう時間がないんじゃないですか!!」
慌てて思わず叫んでしまいましたが、これはゆっくりもしていられません。もう、これが最後ならそう言って下さいよ、オルシャさん達!テア様といい…何でみんな、隠し事が好きなんですか。
「そうだね。国をゆっくり回ってきたら、次に会えるのはまた5年後かもしれない」
どうする?と問うように首を傾けたレヴィに、私は決意の眼差しを送りました。
「……レヴィ、私、行って来ます」
「どこかの素直じゃないお馬鹿さんの目を覚まさせに行くんだね…行ってらっしゃい」
簡単じゃないかもよ、という忠告に、強気の笑顔で答えます。大丈夫、いざとなったら。
「引き摺ってでも連れて行きます!」
「君のそういうところが好きだよ、エアル」
にっこり笑って開けてもらった扉から勢いよく飛び出し、向かったのは勿論執務室です。
階段を飛ぶように駆け下り、他の神官や秘書が振り返るのも構わず、長い廊下を駆け抜け、扉を破らん勢いで中へ飛び込みます。
テア様、大人しくお縄についてください。
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