第5話 十六から二十
【十六】
山路を歩いていると、奇妙なものを見た。木に点々と巨大なミミズなようなものが引っかかっているのだ。しかしミミズにしては形が妙な気がして、近くに寄って見れば、全て鱗を失った蛇であった。道奥にちらりと蛇の鱗を身につけた何かを見て、私はすぐ来た道を引き返した。
【茂木怪異録 鱗剥ぎの怪 より】
【十七】
ある女性が左側の耳鳴りを訴えて私の元を訪ねて来た。憔悴し切った様子の女性は、耳の中に何かがいるのだと訴えた。私は半信半疑で彼女の左耳に自らの耳を寄せ、すぐに後悔した。何十人もの老若男女のざわめく声が押し寄せて、私の耳の中へ入って行ったのだ。
【茂木怪異録 耳騒の怪 より】
【十八】
真夜中、台所の勝手口から帰る時に下駄で何かを踏んだらしく、ぱきりと音が聞こえた。落とした野菜だろうと思った私はそのまま寝たが、その晩、巨大なものに踏み潰される夢を見た。ぱきりと骨が折れるような音に目覚めると、枕元のお守り鏡が割れていた。
【茂木怪異録 己を踏んだ話 より】
【十九】
常に帽子を被って、絶対に取らない男がいた。身寄りのないその男が死んだ時、供養した村の者たちは、帽子の布が男の頭に直接縫い付けられていたことに気付いて気味悪がり、そのまま火葬にした。火から上げた頭蓋骨には、帽子の骨が生えていたと言う。
【茂木怪異録 帽子の怪人 より】
【二十】
近頃顔を見ない友人の家へ出向くと、中から美しい歌声が聴こえてくる。半ば無理に押し入って問い質すと、友人は自慢げに、桐箱に入った猫の首が歌う姿を私に見せた。是非譲ってくれと頼むと友人は激昂し、私を外へ追い出した。身も心もあの首の虜となったのだろう。後日再び電話をかけた時、彼の声を聞くことはできなかった。
【茂木怪異録 首憑きの怪 より】
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