第2世界 先生

 授業開始のチャイムが鳴った。

 教室の中はまだ休憩時間の延長だった。

 先生が入ってくるが、生徒は誰もみていない。

 先生は黙って、教室を見渡した。

「授業を始めます」

 そのまま黒板に向かって、教科書を見ながら何かを書く。そして説明をする。

 ほとんどの生徒は、聞いていない。

 先生はやっと言った。

「静かにしなさい」

 一瞬だけ教室は静まる。だが、すぐにざわめきが戻ってくる。

 先生はひたすら板書し、説明しする。たまに注意する。

 その繰り返し。

 授業は成り立っていない。

 生徒の一人が言う。笑いながら。

「ほんと、あの先生もよくやるよな」

 やがて終了のチャイムが鳴る。

 先生は教科書を閉じ、来たときと同じようにひっそりと出ていった。

 毎日がそんな繰り返しだった。



 ある日、突然のことだった。

 人々は何が起こったのかわからないまま、この世から永久に去った。

 人だけではなく、生きているものはすべて死んだ。

 最新の兵器が使われたのか、あるいは宇宙規模の変動があったのか。それを知る者は誰もいない。

 そして授業開始のチャイムが鳴った。

 先生が入ってくる。

 教室を見渡す。

「授業を始めます」

 いつもと同じように、一生懸命、授業をするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る