第13話



「な……」


 一瞬で西野の顔から血の気が引いた。彼の胸からは血が噴き出していた。そのまま膝をつき、床に倒れる。ナイフとスタンガンが手から落ちる。探偵は呆然とその場に立ちすくんでしまっており、動く気配がない。

「にし、の、」

 僕は力を振り絞って上体を起こし、彼の方へ這って近づいたが、西野は既に息をしていなかった。即死だ。倒れ伏した彼の胴体のそばに、真新しい血溜まりができている。

「なん、で……」

 次の瞬間、胸に熱い感覚が走った。西野の血液でできた血溜まりの中に、僕は倒れた。服があっという間に赤く染まり、口にいくらか血液が入りこむ。

 打撲とは違う、焼けるような痛みが、胸の一点を中心としてじわじわと押し寄せてくる。

 視界が、だんだん白く霞む。

「あ、」

 死にたくない。

 そう口にする気力もなく、言葉を発しようとした口からは、代わりにどろりとした液体が溢れた。目が見えない。色の判別ができない。ごぼごぼという音が聞こえる。かすむ目で、僕は探偵を見上げた。表情など、もうわからない。僕はきけない口で訴えた。

 リア。

 リアはどうなる。

 もう、あの子を傷つけないでくれ。

 頼むから。

 力尽きて再び床に倒れ込んだそのとき、薄れていく視界の中に、血とは違うひときわ鮮やかな赤が映った。

「やっぱり、そうよね」


 慈しむような、憐れむような。


 なにを言っているか、酸素の足りない頭ではもう何一つとして理解できなかった。けれど僕の耳に最後に届いたのは、悲しげにぽつりと呟く、女の声だった。


「愛っていうのは、こういうものよね」

 

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