第7話


「ここら辺は全然変わってないなあ」


 落ち合った公園でペプシを飲みながら、西野は言った。こんなことを思うのも何だったが、これほど青空とTシャツとペプシが似合う人間もそういないな、と思った。

「元気だったか?」

「はあ、まあ……」

「何だ、あんまり元気じゃなかったっぽい返事だな」

 海外にずっといたからなのか、西野の喋り方はストレートで、裏表がなかった。変に笑顔を見せたりとか、卑屈になったりとか、そういうのがない。

「ま、色々あるからしょうがないよな、人生は」

「そう、ですね」

「あのさ」

 西野はにわかに真剣味を帯びて、体ごとこちらを向けた。

「こんなこと、急に言われても迷惑かもしれないんだけど」

「はい」

「三波って昔、よく見せてくれたよな?」

「は?」

 戸惑う僕をよそに、西野はバックパックから小さな箱のようなものを取り出し、僕の手に握らせた。

「これなんだけど」

 これをどうしろというのだ。

 訝りながら西野を見つめ返すと、彼は静かに語り始めた。

「このオルゴール、母方のばあちゃんの形見なんだ。俺、ばあちゃんの死に目に会えなくてさ。もっと一緒にいればよかったって、最近はずっと後悔してるんだ」

「それで、僕に何をしろと……」

 西野はわずかに考えあぐねるような表情になって俯いたが、やがて決心したかのようにこちらを再び見つめた。

「ばあちゃんの声、聞いてみてくれないかな」


「は?」

 思わず大声をあげていた。なんの話か全くわからない。やっぱり頭のおかしい人なのか。

 西野は慌てて言った。

「三波は覚えてないかもしれないけど。俺が昔3歳くらいの三波と一緒に遊んでて迷子になった時、お前、持ってたおもちゃになんか話しかけてたんだよ。それでお前についていったら、家に帰れたんだ」

「そ、それが?」

「俺がびっくりして『どうして帰り道がわかったんだ?』って聞いたら、『おもちゃが教えてくれた』って笑っててさ。俺怖かったけど、そういうこと、そのあと結構あったんだよ。うちの父親のルアー触って、『これで最近大物を釣ったでしょ』とか言い当てたりさ。子供ならおもちゃと遊びで喋ることくらいあるだろうけど……三波のは、それとはなんか違ってた」

 西野のあまりの真剣さに、僕は少し笑ってしまった。

「そんな、たまたまでしょう……超能力者でもあるまいし」

「もし超能力だとしても、そういう力って、完全に存在しないとは言い切れないだろ? ダメもとでいいからさ、やってみてくれないかな。人助けだと思って」

 人助けか、と僕は思う。情けは人のためならずというからには、やってみて損はないだろう。突拍子も無い頼みではあるが、こんなに必死に頼んでいるのをやってみもせず無下にするのも、あんまりだと思った。

「そういう専門の人に頼んだ方がいいと思いますけどね……」

 オルゴールを開きながらぼやくと、「やたら叫ぶ怖い婆さんよりは、歳の近い幼馴染の方が頼みやすいから」と西野は笑った。

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