第5話



「いとこは……リアは、とにかく甘いものが好きでしたよ」


 甘いパンを食べたからか、そんなことを不意に思い出した。探偵はバゲットを食べながら、ふーんという顔で聞いている。

「砂糖菓子とか、今思えば、たぶんあんまりもらえてなかったんでしょうね。甘いお菓子をあげると、飛び跳ねて喜ぶことこそなかったですが、無言ながらに目の色を変えて食べてたように思います」

「砂糖は愛情の代わりって、確かによく言うよね。なるほど、なるほど。じゃあ何か、よく一緒にした遊びとかはなかったかい?」

「遊び、ですか……」

 指についたジャムを舐めながら、ふとまた記憶が蘇ってきた。

「アテレコごっこ、ですかね」

「ほお。というと?」

「家とか庭とか、そこらへんにある何かを持って、その心の声を適当にアテレコする遊びです。まあボールペンとか、スコップとかを手に持って、勝手なキャラと物語をでっち上げるだけなんですけど。アテレコするのは大概僕で、リアはいつも質問する役でした。リアは何をしていても白けてるような子でしたけど、その遊びだけは、面白がっていた気がします」

「そうか、そうか」

 探偵はバゲットの残りを食べてしまうと、コーヒーを胃に流し込んだ。

「いいお兄さんだったんだね」

「そんなことはないです」

「謙遜しなくてもいいさ」

「あの、ひとつ聞いてもいいですか」

 窓辺の林檎を気にしながら、尋ねた。

「なんだい」

「柊木さんは、ご結婚されてるんですか?」

 探偵はそれを聞くと一瞬黙ったが、すぐに快活に笑い始めた。

「残念ながら、ずっと独身だよ。過去に結婚したこともない。どうして?」

「そうですか。気になっただけです」

 探偵がマグカップを流しに持っていき、その場からいなくなると、僕は林檎の方を無言で見つめた。林檎は不服そうに「な、何よ。向こうが嘘をついてるだけよ!」と唇を尖らし、窓の外を向いた。

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