15話 ドラゴン少女ノイル。里への招待。


「今度人間を潰そうとするなら、君らの頭を潰しちゃうんだからねっ!」


 砂煙の中、未だに説教を続ける少女の声。


 ツンデレっぽいと思ったけど、全然ツンデレじゃなかった。怖すぎるセリフだよこれ。


 ーーサァァァ。

 

 風が吹いて、砂煙が払われて行く。

 うっすらと小さな影が浮かびあがり、その影から、また少女の声が聞こえきた。


「お~い、そこの人間くんたち! 怪我はないか~い?」


「「…………」」


 俺とスイは顔を見合わせた。


 返事をするべきだろうか。


「タクト様、彼らは基本温厚ですが、人間をどう思っているのかデータがありません。お返事をなさるなら、そこらへんを考慮こうりょなさると良いでしょう」


「う、う~ん」


 ーーまあ、救ってくれたわけだし、感謝ぐらいしとこうかな。

 俺がそう思って口を開こうとした瞬間、


「あれっ、死んじゃたかな……だいじょ~ぶか~いっ!?」


 ほぼ払われた砂煙の中から、口に手を添えて声を張る、少女の姿が現れた。


「ありゃ、生きてるじゃん、よかったよかった。君たち2人だけかい? 他には……いなさそうだけど」


 その声の持ち主らしい、気丈でいて、華麗かれいな雰囲気をまとった少女であった。


「……あ、あれっ聞こえてる?」


 金髪、というよりかは、黄土色をしたショートカットの髪で、頭の両サイドには羊のように丸まった、黒い角が生えている。

 すらっとした、女性にしてはかなり高身長な身体。170cmはあるだろうか。

 腰のあたりから、いかにもドラゴンらしい太い尻尾が生えているから、一目で人間ではないとわかる。


 ーーわかる、が。これまためちゃくちゃ可愛いのだ。


「……お、お~い?」


 うんうん。この世界は美少女しかいないのだろう。よきかなよきかな。


「言葉通じてるかな?」


「それはタクト様をけなしているのですか? そうであれば、いくらゴッド•ドラゴンであれ、容赦ようしゃなく消します」

 

「君いきなり怖いね!? わたし、いちおう君たちを助けたつもりなんだけど」


「タクト様、金色トカゲの目はどうやら節穴ふしあなだったようです。オートマタと人間の区別もつかないなんて想定外です」


 いや、俺に報告しなくていいけど。

 ってか、この子もお前を人間だと認識してるんだけど、本当にあなたはオートマタ?


「ええっ!? 君オートマタなの!? 全然そうには見えないっ! 君、すっごい人間くさコペッ!?」


 ドラゴン少女が驚いて何かを言おうとした瞬間、青い髪がサラッと視界に映ったと思ったら、スイがいつの間にか少女の顔面を両手ではさみ、180°真後ろに回転させてーー。


「ーーっておい!! スイ!! それ死んじゃうから! 変な音聞こえちゃってたからね!?」


「タクト様、これはトカゲを調子に乗らせないための必須事項です」


 もがく少女の顔をは両手でガッチリはさみながら、顔だけこちらを向けて応えるスイ。


「いやいや、いいから離してあげて!? もしかしなくてもその子瀕死ひんしだから!」


「……承知しました」


 そう言ってスイは、そっと手を下げ、こちらに戻ってきた。


「ーーねえ、死にかけたんだけど!? わたし生まれて初めて背後を直接見ちゃったんだけど!?」


 ほんとすみません、うちのメイドが。


「あー、すまないな。……さっきは助かったよ。ありがとう」


「本当に感謝してるのかなぁ!? ……ま、いいんだけどさ。君たち他のドラゴンにも襲われてたよね? その子たちはどこ? お仕置きしなきゃだから」


「…………」


 彼らはスイによって調理済みですよ。いい焼き加減でした。ほら、僕の後ろに。


 なんて言えない。絶対に。


「……ねえねえ、ちょっと聞きたいんだけどさ、君の後ろに積んであるものはなあに? ものすごく気になるの」


 そう言って、まっすぐ俺の背後を指差す少女。もちろんその先にはドラゴンの死体がある。


「お肉です。このメイドが上手に焼いちゃいました」


「そ、そうなの。……わたし、なんだか背筋がゾワゾワしてきたんだけど」


「当たり前です。何故ならこの肉塊はあなたと同じ種族ですから。そんなのもわからないんですか」


 このメイド普通に言っちゃったよ。


「そうだよね!? 信じたくなかったけど! そうだよね!? ほ、ほんとに、君たち本当に人間なの!?」


 戦慄せんりつする少女。口元がヒクヒクしている。


「こいつはオートマタだが、俺は普通の人間だよ。……じゃ、もう帰んなきゃなんで、さよなら。助けてくれてありがとう」


 俺は面倒事を避けようと、早々にここを立ち去ろうと思った。


「行かないでね!? ちょ~っと君たちのお話が聞きたいの」


「いやです」


「即答やめてほしいな!」


 だって完全に面倒くさい事になりそうなんだもん。


「わたし、一応ここのドラゴン達のトップだからさ、ちょっとお茶でもしてってよ。ね。ね?」


「トカゲ。黙りなさい。タクト様は今忙しいのです。私もメリル様の夕飯も作らなければならないのです」


 スイが毒を多めに込めてそう言うと、少女がピクッと反応を示した。


「メリル? ……もしかしてメリルちゃんのこと?」


「え、メリルのこと知ってるのか?」


 あれか? メリルが話してたドラゴンって……。


「それはこっちのセリフだよ! なんでメリルちゃんのこと知ってるの? ……一応聞いておくけど、その子って幼女?」


「幼女」


 ああ、こいつっぽいな。メリルが言ってたドラゴンってのは。


「ど、どうやら人違いではないみたいだね。でも、一緒にいたコバヤシちゃんはどうしたのかな?」


 コバヤシちゃん。もちろん先輩のことだろう。


「……えっと、つい最近亡くなった。メリルは俺が引きとったって感じかな」


 俺がそう言うと、ドラゴン少女の表情が険しくなった。


「その話、詳しく聞かせて」


 ーーああ、フラグ回収しちゃった。


 でも、先輩の事だしな。向こうも知ってるらしいし、報告くらいはするべきだ。面倒事ではあるが、致し方がないだろうな、こればっかりは。


「ああ、わかった」


「うん。……じゃあ立ち話もなんだし、わたしたちの里に来てよ! よろしく! わたしはノイル! 君たちは?」


 少女、もといノイルは、さらっと自己紹介し、話を進める。


 つか、里て。もう帰れないの確定じゃんか。


「このメイドはさっきから聞いていると思うが、スイだ。んで、俺はカンナギ・タクト。好きに呼んでくれ」


「じゃ、カンちゃんとスイちゃんね。よろしく!」


 好きに呼べとは言ったが、誰だ。カンちゃん。


「……ああ、よろしく。とりあえず話だけして帰るからな」


「わかってるって。……あっ、わたし達の里って、人間にとってはかなり珍しい物があると思うから後で案内するよ!!」


 わかってねーじゃん。


 ーーうろこのついた尻尾を揺らし目の前を歩くノイルを見て、ため息をつく俺であった。

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