第4章 ドラゴン討伐

14話 ドラゴンさんこんにちは。やっぱさようなら。


 ーーシュィンッ。


「タクト様、着きました。ここが竜の渓谷入り口です」


「んな真顔で言われても……ドラゴン倒しに来た感じが全くしないんだけども」


 あまりに呆気あっけなく目的地に到着。


 俺の装備は、腰にごく普通の剣を提げただけで、格好は管理人になった時と同じまま。白衣っぽいローブ……いやよくわかんないからいいや。

 スイは何も装備せず、メイド服のまま、両手をそっとスカートの上にえている。


 正直、風情もくそもない。


 パ~ファ~とか、角笛を吹かれてもいいミッションなのに。


 ーーピコンッ。


「はいぃ!?」


 いきなりのシステム音に声が漏れてしまった。


「どうかしましたか、タクト様」


「い、いや、なんでも」


 なんだなんだ? いきなり。何かしたかしらん?


『スキル:テレポート を獲得しました。今後、訪れた所は、どこへでもテレポートによる移動が可能です』


 みんなに報告。ラーニングがチートすぎて人生がぬるくなりすぎてしまいそうです。


 ーーもうさ、他のチート能力もろくに使ってないんだし、どんどん増えても素直に喜べないんですが。

 もっと、こう、普通のやつがいい。


「タクト様、参りましょうか。適当に飛んでるドラゴンでも落としましょう」


 スイの発言にも、そこはかとなくチートの匂いがプンプンするんだよね。

 適当に落とすて。俺にはハトも落とせる自信がないけどね。

 でも、もしかしたら、ここで俺の実力がわかるかも。


「さ、そこが入り口ですので、渓谷に入ってしまえばドラゴンだらけです。早めに終わらせて帰りましょう。メリル様とショウギをやる約束がありますので」


 そう言って、スイはスタスタと渓谷へ入っていく。


 メリルと仲良いですね。いいことだ。……っておいおい待て待て。


「ス、スイ、いきなり行って大丈夫か? ちょっと心の準備があれっていうか」


「大丈夫です。私がいます。参りましょう」


「あ、はい」


 怖いよう。



   ~   ~   ~



 ザッ、ザッ、ザッ。


 俺とスイは、並んで歩いていた。


 渓谷内は、ビュォォォと風が通り抜けるため、少し寒さを覚えた。


 ザッ、ザッ、ザッ。


 俺とスイの足音と、風の音以外、なんの音も聞こえてこない。


 かれこれ10分ほど歩いている。


「……あの、スイさん」


 しばらく無言を貫いていたが、さすがに気まずくなってスイに話しかけた。

 敬語になったのは、もちろん、生前から身についてる俺のぼっちスキル故だ。


「なんでしょうか、タクト様」


 淡々とスイが返す。


「えっと……ドラゴン、いなくない?」


「いえ、いますよ?」


「へ?」


 辺りをぐるりと見渡してみるが、どこにも生物らしき影は見えない。


「タクト様。ドラゴンは基本、人里から身を隠すために隠蔽いんぺいスキルを持っています。これは気まぐれに人間を殺す際にも、よく使われていますね。奇襲で驚いた人間をプチッと潰すのが、彼らの趣味です」

 

「え、なにそれヒドい。怖い。帰る」


 じゃあ、もう、絶対そこらへんにいるじゃん。俺たちに気づいてるじゃん。


「タクト様。安心してください。私がいる限りはタクト様に指一本触れさせませんので」

 

「で、でもこれちょっと俺のハートが持たないっていうか、」


「「「ゴァァァァァアアアアアアア!!」」」


 レッド•ドラゴン、三体いらっしゃい。


「うぎゃぁぁぁぁ!!! ででででたっ!? あっ、あっ、これっ、死ぬっ、死ぬっ、無理、無理無理だってなんで三体いるのこいつらおいなめてるの? 殺しちゃうよ? いや殺されちゃうよ」


 いきなり雄叫びがした方を振り向くと、レッド•ドラゴン達が我先にと、俺たちに向かって飛んで来る最中だった。


 それを認識した瞬間、俺は躊躇ちゅうちょなくダッシュでその場から逃げだした。


 ーーいやいやいや、無理ですから、やっぱり僕には早かったので帰りますんではい。さようならっ、さようならっ、人生っ。


 もはやロクに思考していない。

 あまりの恐怖で、動けなくなるものと思っていたが、とりあえず走れたようで安心する。その分、走りながら涙が溢れ出てきていることは気にしないで欲しい。


 そして俺は風にな……る…………。


 って、あれっ? スイはーー。


「ーーインペリアル•ファイアッッッ!!」


 ゴォォォォォォオオオオオオッ!!


「「「ギャァァァァァンッ」」」


 メイドの女の子を置いて、自分だけ真っ先に逃げようとしたゴミが、それに気

づいて慌てて振り返ると、目の前に真っ赤な炎が広がっていた。


 スイが放った魔法は、レッド•ドラゴンを巨大な炎で包み込んでいた。


 ーーシュゥゥゥゥ。


「「…………」」


 炎がすぐに消え、俺は茫然と、スイは無表情に、そこへ視線を向けている。


 スイが見事に仕留めたレッド•ドラゴンの身体からは、プスプスと煙が立ち上っており、少し良い匂いがしている。


 ーー上手に焼けていました。



   ~   ~   ~



「さ、タクト様。取りあえず目標はクリアできました」


「…………」


「タクト様?」


「…………」


 ……なんだかなぁ。俺の存在意義とは。


 これ、正直スイさえいれば、ダンジョンもどうにかなる気がするんだけど。


「タクト様、お気になさらず。タクト様には、これから活躍することが増えるはずです。このような雑用でお力を発揮なさる必要はありません」


「は、はい」


 俺のこと過大評価しすぎじゃないか? 今回も実力はわからなかったし、なんとも言えないんだけど、元のメンタルが弱すぎて正直これ以上強い敵とか考えたくない。


「それでは、ドラゴンを回収して早く帰えりましょうか」


「あ、そ、そうだな」


 んじゃ、アイテムボックスでーー


「「「「キシャァァァァアアア!!」」」」


 ドラゴンさん。いっぱい登場。


「ああ。おしまい」


 そう声を漏らす俺。

 回収のために膝を地面に付いていたので、もちろん回避行動に移れず。

 ついでにちょびっとアレも漏らす。


「やれやれ、もうトカゲに用はないのですが……」


 スイが、へたり込んだ俺の横で、すくっと立ち上がる。


 そのまま手をドラゴンの群に向かって突き出しーー


「「「「ギャァァァァッ!!」」」」


 ドラゴン達がふっとんだ。


 ーー金色に光るドラゴンによって。


「!?」


「……ッ」


 思わず目を見開いた。

 迫り来るドラゴンの真横から、黄金に輝くドラゴンが一体、彼らを蹴り飛ばしたのだ。それは驚くというものだろう。


「あれは、仲裁役の、ゴッド•ドラゴンですね」


 攻撃モーションを解いたスイが、冷静に判断する。


「……い、今のがメリルが言っていた……」


 野蛮なドラゴンの仲裁ちゅうさい役か。今のも、暴れるドラゴンを抑えに来たんだろうか。


 なんにせよ、滅茶苦茶助かった。精神的に。ぜひ、御礼を言わねば。


 俺がそう考えて、モウモウと砂煙が舞い上がる地点を見やると、なぜか、女の子の声が聞こえてきた。


「君たちっ!! 面白半分で人間を潰そうとするなって言ったでしょうが!! 我々は魔力を含む鉱石さえ食べていればいいんだから、もうちょっと冷静になりなさいよっ!!」


 …………だ、誰なんだ……?


 新たな人物登場の予感に、少し不安を覚える俺である。


「この世界に来てから、いろいろと展開が早すぎてついていけないんだよなぁ」


「?」

 

 小首を傾げるスイ。


 気にしなくていいよ。こっちの話さ。

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