13話 ドラゴン討伐への準備。替えのパンツがない。
パンツがないことに気がついた。
いや、急に俺の頭が変になったんじゃなくて。
ただ、論理的思考の帰結として、この気づきが得られたのだ。
もう一度繰り返そう。
ーーパンツがない。
〜 〜 〜
ーー成り行きでドラゴン討伐することになった。
うん。ドラゴン。
……さあ、想像してほしい。
いま、君の目の前に6階建てのビルがあるとしよう。そのビルには大きな
さらに、そのビルが、屋上辺りから、炎を吐きながらこちらに迫ってきたとしようか。
ーーそう、一般的な日本人であれば、もはや一歩も動けないだろう。当たり前だ。
しかし、俺はただ動けないだけでなく、「漏らす」というプロセスも加わる。ほぼ確実に。ジュワッと一発。ええ、もちろんですとも。
これは実際にスライムとはいえ、本物同様のドラゴンを見たという経験からはじき出される、極めて精度の高い予測だ。
……もう言いたいことはわかったと思う。
ーーそう、漏らしたときの替えのパンツがないのだ。
今、俺の手持ちパンツは、いつの間に履いていた白いパンツ(ぴったり)一着のみだ。
よって、ドラゴン討伐に行く際、多分行って帰るまでに2、3日はかかると思うが、その間はパンツを履き替えられないのだ。
「ーー実にゆゆしき事態だ。確実に漏らすとわかった以上、ノーパンを覚悟しなければならない……? いや、まてよ、俺は既に全裸を野に
俺がパンツについて深刻な表情で思考を巡らせていると、スイがなにやら大きな箱を持ってやってきた。
ーードサッ。
「タクト様、二階にあった物置から使えそうな物を持ってきました」
「……ん? あ、おお、ありが……ハッ! ぱ、パンツ! パンツあるか!?」
セーフハウスに二階があったのも驚き(←家主)だが、ともかく、俺の思考はパンツに占領されてしまっていてそれどころではなかった。
しかしそれを聞いたスイは、フルフルと首を振る。髪の毛がサラサラと動いた。
「いえ、ないですが。とりあえず剣などの装備があります……しかし、なぜパンツを?」
「え、だ、だってドラゴン倒す旅だろ? 替えがいるじゃないか」
漏らしてしまうからとは言えない。
「タクト様、旅はいたしません。私のテレポートで竜の
「……へ?」
お、おいおい。
そ、それじゃあ……。
「いままで考えてたこと全部無駄だったじゃん……」
何だったの、今の時間。
「タクト様、パンツならば私がしっかり洗うので、もし漏らしてしまっても問題ありませんよ」
「エスパー!? さては貴様エスパーだな!?」
……って、パンツ洗ってくれるだって!? 最高! すみません調子乗りました。口にだしてないだけマシだよねっ!
「エスパー? ではないと思いますが、私はタクト様の魔力で動いておりますので、少しだけ思考や性格がわかるのです」
なんのことはない、というように無表情で答えるスイ。
「……さ、さいですか」
初耳なんですが。
「そうですよ。だから私はタクト様のこと……」
「ん?」
「……いえ、なんでもありませんが?」
「は、はい」
なんだかなぁ。何か人間らしいこと考えてそうなんだけど。まあ、そこらへんは今じゃなくても考えられるからいいか。
……とりあえずはドラゴンだ。正直、チートで俺自身のステータスは頭おかしいから、多分なんとかなるんだろうけど。……うーん。いろいろ経験不足で不安だけど、やっぱ行ってみないとわかんないかぁ。
「タクト様。装備をお選びください」
スイがそう促してきた。
「あ、そうだな。……ふむ、剣か……あっ、そういえば」
俺はあることを思い出し、アイテムボックスからとある物を取り出した。
「……タクト様、それは? ……
俺の手元を不思議そうに見てくるスイ。
「まあそりゃそうだ。……聖剣だからな」
「……タクト様、お言葉ですが、もしそれが本物であれば、むやみに
「え? なんで?」
「使用者の魔力が強ければ強いほど、威力が増しますので。多分、タクト様の魔力……私の測定器でも測れないほど強大ですから……」
おお、やっぱ聖剣ってすごいんだな。
「……多分、2発ほどで世界が消し飛び」
「
俺はそのままアイテムボックスに突っ込んだ。
ーー冗談じゃない。これ、剣だぞ? 消し飛ぶって、おい。特大爆弾すぎて対処できん。
……あんのくそ神、俺に大量破壊兵器プレゼントしてどうすんだよ! この世界がヤバいっていうから、俺来たんだよ!? ……ってか魔剣とか魔弓とかもあった気がするんだけど!?
「タクト様は強いはずですので、普通の剣でよろしいかと」
「……はぁ。そうします」
……剣、かぁ。
結構憧れがあったんだけど、もう、ちょっと嫌いになってきた。
平和が一番であるなぁ。
……クイッ、クイッ。
「……ん? なんだ、メリル」
気づいたら、メリルがスラちゃんを片手抱えて、服の
ーーおい、メリル、スラちゃんが床に付くほど、ぐってりしてるんだが。……まさか死んでないよな?
「タクトタクト、ドラゴンたおすのか?」
少し不安そうに聞いてくる。
「ん? そうだけど、なんで?」
「あのな、めのいろがあかいドラゴンがいるけどな、たおさないでな? な?」
「どういうことだ?」
俺がそう疑問を口にすると。
「タクト様。ドラゴンにはいくつか種類があります」
ーーほう。
「主に、金色の瞳で、赤い鱗をもつ
黒い瞳で、緑色の鱗をもつ
……そして、赤い瞳で、金色の鱗をもつ、ドラゴンの中でも最強といわれる
メリル様が言うドラゴンはこのゴッド•ドラゴンにあたると思われます」
「へぇ、じゃあ、なんでメリルはそのドラゴンを倒してほしくないんだ?」
俺がそう言うと、メリルが少し瞳を潤ませて、訴えてきた。
「あ、あのあの、あのなっ、コバヤシといっしょに、ドラゴンとけーやくしにいったときになっ? みんなやさしかったのだ! 妾がおなかすかしてたら、ごはんとかくれたのだ。……そ、それでなっ、コバヤシもにんげんだけど、たべちゃうのか? ってゆったらな、われわれはにんげんをたべないって。もしも、ともだちになれるなら、なりたいよって……」
必死に訴えてくるメリルは、いつも以上に幼く見えた。
多分その時に契約したドラゴンが、レッド•ドラゴンであり、あのスライム達が旧ダンジョンで見たドラゴンなのだろう。
……先輩、怖くなかったのかな?
……しかし、なるほど、ゴッド•ドラゴンは特に倒す必要はなさそうだな。
「タクト様。メリル様の言うように、ゴッド•ドラゴンは寛容な精神を有しており、私の持っているデータベースによれば、野蛮な紅帝種、緑王種の暴走を引き止める役目を担っているようです」
「そうか、じゃあ別に倒す必要ないな。ってか、もともと俺らが倒すのはレッド•ドラゴンだけだしな」
すると、メリルがほっとしたように顔を緩めた。
「ほ、ほんとうか? よ、よかったのだ」
「ああ、心配かけたな」
俺はそう言って、メリルの頭を撫でた。
「ううん、だいじょうぶなのだ。……それにしても、スイはあたまがいいな!」
そう言って、メリルはメイド姿のスイへ飛びついた。
「……ええ、私は機械ですので」
そう言うと、スイは淡々とメリルを撫で始める。しかし、メリルは満足そうに、「スイすきー」と顔を誇ろばせた。
ーーああ、よきかな、よきかな。やっぱ、平和が一番であるなぁ。
俺はその光景を見て、腕組みしながらウンウンと頷いた。
「タクト様、では参りましょうか」
……平和が一番であるなぁ。
「タクト様」
……平和、が、一番である、なぁ(泣)。
「テレポート」
「うぁぁぁぁ!? スイっ!? いきなりなにをっ……こら、しゅ、主人だぞ!? 俺はご主っ、あっ、もう行っちゃうっ、あっ、あっ、ああぁぁぁぁダメぇぇぇぇっ……!」
ーーシュンッ。
そして俺はスイに連れられ強制的にテレポートさせられた。
「ーータクト、スイ、がんばるのだ! ……あっ、ねえねえ、スラちゃん。コバヤシのオセロやらないか?」
俺らがドラゴンを倒しに行っている一方で、セーフハウスでは二人(?)がオセロで一喜一憂していたのだが、それはまた別のお話である。
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