12話 俺渾身のドヤ顔(Part2)。ドラゴン討伐フラグ。
スライムの集落が完成した。
しばらくは、人間の商人と交易を行う為に、このダンジョンで採れる特産品を集めなければならない。
しかし、いくら最弱ダンジョンとはいえ、王都から半日ほどで辿り着けてしまうほどの距離にあるのだ。ふとした時、冒険者や近隣の村人にダンジョンが復活しているのを見られてしまうかもしれない。
もちろん、いずれは人目に触れなければならないが、交易の準備がある程度整うまでは人目を避ける必要がある。
「じいさん。そういやここに居るみんなは、元々最強だったこのダンジョンに住んでたんだよな?」
「ええ、そうですぞ」
それがどうしたのですかな? と、視線で問いてきたじいさん。
「その時に居た、強いモンスターに擬態ってできるのか?」
「もちろんですぞ。カンナギ殿。ステータスこそ上がりませぬが、動き等は完璧に再現することができますじゃ」
ーーそれはいいことを聞いた。
「そうか、じゃあじいさん、ここにいたモンスターの中で一番強かったやつに擬態してもらえないか? 理由はあとで話す」
「ほう、わかりました。では、これなんてどうですかな?」
そう言うと、じいさんは「ふんっ!」と気合いを入れーー。
「……グルァァァアアアアアッ!!」
ビリビリと空気が震えた。驚いた他のスライムが、一斉に振り向く。
「ゴァァァァァッ!!」
赤く固そうな鱗に包まれた巨大な身体に、影だけで集落をまるまる覆ってしまいそうな大きな
ーーじいさんはレッド・ドラゴンに擬態していた。
「…………」
あっ、死ぬ。
脳では「これはスライムなんだ」とわかっていても、本能が逃げろと
それ程に、じいさんの擬態は完璧だったのだ。
俺はドラゴンなど見たことがないが、その鱗の質感と、威圧感のある黄金の瞳は、まるでそれが本物であるかのように、圧倒的存在感を放っていた。
「…………」
正直ちびった。
……いかん、完全に
俺は文字通り、開いた口が塞がらない状態にあった。
「うえぇぇぇぇん!」
ほら、ごらん、メリルも泣いている。
ーーシュインッ。
「……如何でしたかな?」
元のスタイルに戻ったじいさんが、ドヤ顔で聞いてくる。
「……しょ、正直、これほど完璧だとは想定外だった」
「ほっほっほ、それはスライム冥利に尽きますのう」
やはり、使えるぞ……この擬態は!
ちびったけど。
~ ~ ~
「いいか、今は準備期間と捉えてくれ。この間は絶対に人目に触れることは避けなければならない。だから人除けをしないといけないんだ」
「ふむふむ」
俺は約束通りに、ある作戦をじいさんに話していた。
スラには、メリルをなだめに行ってもらっている。スライムになだめられる邪神とは。
「……そこで擬態を使おうと思っている。さっきみたいなドラゴンを見せれば、大抵の人間は逃げ出すに違いない。俺もちびった」
「しかし、それでは逆に脅威として認識されてしまうのでは?」
即座に質問するじいさん。しかしそれは全く問題ではない。
「その通りだ。しかし、そこをあえて利用するんだ。……いいか、あんなドラゴン、本物ならば、どんな奴でも討伐するのに準備を必要とするに違いない」
「ええ、それが普通でしょうな」
「2、3日あればこっちのもんだ。それまでに交易の準備は整っている」
「ほほう」
「討伐隊がやって来る頃には集落も整ってる。できればそのまま、討伐隊=この集落の宣伝隊って流れに持っていければと思っている。討伐隊に大きな宣伝をやってもらうってわけだ」
ふふん、どうだ、完璧だろこのプラン!
「……しかし、カンナギ殿。肝心のドラゴンはどうするのですかな?」
……えっ?
「どゆこと?」
擬態すればいいじゃん。
「ドラゴンや、その他の強いモンスターは、基本的にねぐらが決まっておるのです。討伐隊が来たのに、ドラゴンがいないとなると、流石に怪しまれると思うんじゃが……」
…………。
あれっ、まずったか?
「……カンナギ殿?」
じいさんが不安げに見てくる。
「あ、ああ、もちろん、そういう想定もしているさっ!」
想定してません。
「おお! 流石カンナギ殿。一体どんなことを考えてるのですかな?」
「えっと、えー。そうっ! 首を出せばいい、俺達が倒したことにすればいいんだよ。そうすれば信用も一気に跳ね上がって、一石二鳥だ!」
「ほう」
の、乗り切ったか?
「それはカンナギ殿がすでにドラゴンを倒し、それらの素材を持っておるということですな! 素晴らしい、これは絶対に成功させねば!」
「お、おう、も、持っているぞ! ドラゴンくらいなんのことはないさ!」
普通に乗り切ってなかった。
……う、嘘ついちゃった。
てへぺろっ♪(むかつく効果音&神の受け売り)
~ ~ ~
「ーーということでドラゴンがいるところを教えてください」
当たり前のように、スイに泣きつきましたよ。ええ。
「倒しに行くのですか? タクト様、それならば喜んでお手伝いさせていただきましょう」
「た、助かる!」
俺はじいさんに、ドラゴンの首を持っていると嘘をついてしまった。
もちろんそんな物は持ってないし、そもそもモンスターを倒したことがない。せっかくチート持ちなのにね。
流れとはいえ、いきなりドラゴン討伐という問題が浮上してしまった。
ーーああ、他にも策はあったろうに……。
しかし、もはや時すでにお寿司。
そこらへんで肩慣らしする時間もない。
俺がドラゴンを倒すことは必須事項になってしまったのだ。
そこら辺にドラゴンの首転がってないかしらん。
「チート能力があるとはいえ……あの怖さは尋常じゃなかった……」
本物はどんなに怖いか、想像がつかない。
もともと平和ボケした日本人なうえ、童貞かつヘタレな俺は、精神面でどうしようもないことに気がつく。
ーーできるか、俺。
「タクト様。ご心配なさらず。私は元々戦闘用オートマタです。ドラゴンはおろか、様々な邪神をも倒すことが前提で設計されておりますので」
邪神と訊いて、チラッとメリルの方を見てみる。
「すぴー」
メリルは泣き疲れて寝ていた。よっぽど怖かったのだろう。元に戻ったスラちゃんをきつく抱きしめ、決して離そうとしない。
スラちゃんは逃げるのを諦めているのか、メリルのすべすべとした腕に包まれて、じっとしていた。
ーー平和な光景であったものの、それ以上に、スイが頼もし過ぎて涙が出そうになる俺であった。
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