11話 スライム達の集落。ボロ儲けの企み。


 俺はスライムじいさん達とともに、彼らの住処というダンジョンの一室にやってきた。……まあ、二部屋のうちの一部屋なんだけど。


「さ、カンナギ殿。何もないところで申し訳ないですが、どうぞお好きに座ってください」


 本当に何もない。それもそうだ。昨日再生成したばっかりだしね。

 流石に人間大のスライムが大量に居るには、ここは狭かったらしく、じいさんとスラ以外は、元のスライムに戻った。


「それで、カンナギ殿の提案についてですが……」


「ああ。俺の考えている通りには、ある程度ダンジョンを変えることができる。それができれば、あとはじいさん達に協力してもらうだけできっと上手くいくさ」


 俺がニヤリと笑うと、じいさんも嬉しそうに笑った。


「ほっほっほっ……もしや、このダンジョン自体を集落にしようだなんて、考えてもみませんでしたぞ!」


 ーーそう、俺は彼らにこう提案した。


 もういっそ、このダンジョンにスライムの集落をつくっては? ……と。


 ダンジョンでは、人間が持つ触媒しょくばいとして、高価な鉱石やアイテムが発掘できるようになる。

 さらに、地面奥深くにダンジョンを広げて行けば、大地に貯まった魔素と混ざりあい、さらにレアなアイテムが入手できるようにもなるのだ。(ダンジョンマニュアル調べ)


 じゃあ、いっそ、それらのアイテムを人間に売れば、ボロもうけできるのでは?


 そう考えついたのである。


 ーーできれば同じ人間は殺したくはない。

 かといって、誰にも相手にされないままのダンジョンなど、ダンジョンでないのに等しい。あの神も、クリスも納得しないだろう。

 最弱ダンジョンとはいえ、多分、完全攻略されることはない。何故なら俺はチート持ちだし、兵器とも呼ばるオートマタのスイもいる。……あと、一応邪神のメリルも。


「まずは人に擬態したスライムの集落をつくって、人間たちと交流できる場をつくろう」


「ふむふむ」


 じいさんが頷く。


「ダンジョンにある集落というのは多分他に無いから、きっと商人の好奇心を引きだせると思うぜ」


「ほほう」


「あとは簡単だ。人間に擬態したじいさん達がいくらでもぼったくればいいさ。なんせ新興ダンジョンだ。相場は誰にもわかるまい」


 俺がそう言うと、じいさんはほっほっほっと笑った。


「カンナギ殿も悪よのぅ。いや、むしろ善人ですかな。人間を殺さぬダンジョンなんて聞いたこともない」


「よしてくれ、俺は善人でも悪人でもない。ただ平和に暮らしたいってだけさ」


 そして俺らは笑い合う。


「ーーちょ、ちょっとまってよ!」


 そして、スラが焦ったように口を挟んできた。


「ん? どうしたんだ、スラ」


「冒険者の中には、対象の正体を見破るスキルを持ってるのが居るんだよ? 一回見破られちゃえば終わりじゃない!」


 スラは心配そうに反論してきた。


「ああ、そこは安心してくれていい。スライムは基本的に無害で、まったく脅威にならないモンスターだよな?」


「うっ、ま、まあそうですけど」


 あ、ごめん。地味に傷つけちゃった?


「なら、いっそ、人間に友好的なモンスターって位置になればいいんじゃないか?」


 そう、つまりはこういうことだ。スライムは基本的無害だ。人間から見ればそこら辺の雑草に近いだろう(失礼)。

 しかし、意思疎通さえできればどうだろうか。特に敵対もしないならば、人間からしても気にする必要はないだろう。だって脅威になり得ないのだから。スライムは弱っちいからなぁ!!(失礼)


「…………な、なるほど!」


「いい考えだろう?」


 そう言うと、スラはブンブンと首を縦に振って肯定する。


 いい娘だなぁ。……咄嗟とっさに考えたとはいえ、核心をついた答えができた気がする。


 「じゃ、そうと決まれば早速始めるか!」



   ~   ~   ~



 まず俺は、集落の基礎となる、二階層目を生成した。初めてダンジョンを生成した時と同様、30分ほど行動不能になったが、特に問題はなく、ちゃくちゃくと集落作りが進む。

 途中スラが、森の中から角の生えたうさぎのモンスターの群れを連れてきてしまい、一時騒然となったが、一匹のスライムが殺されそうになったところを俺が間一髪かんいっぱつ救出(兎を蹴っ飛ばしただけ)。スライムからの拍手喝采を受けた。

 休憩時には、スイがメリルと一緒にお昼ご飯を持ってきてくれた。もちろん、めちゃくちゃおいしいご飯である。

 スイ達と挨拶を終えたスライム達は、スイが人間でないと知って驚いていた。


 ……だよな? 俺の感覚は間違ってないよな?


 一方メリルは、その庇護欲をそそる姿に、女性型スライムにもみくちゃに可愛いがられていた。


 ーーそして、外の日が傾いてきた頃、やっと集落が完成する。


 スライム達はヘトヘトに疲れていたが、皆、達成感に満ちていた。

 俺もフルにMPを消費し、頭がクラクラしている。


「……よし、これで完成っ!!」


 ーーうおぉぉぉ!!ーー


 できた集落は、如何にも人間の集落らしく、石レンガ造りの家々がいたる所に建っていた。

 上から差す光の光源には、疑似太陽という、魔力で外にある太陽と連動した動きをする光の塊を、ダンジョンの高い天井てんじょうに生成(MP6000消費)して、昼と夜を再現した。

 一応、敵対するような何者かが侵入してきた時には、スライム達の記憶(旧最強ダンジョンであったここの記憶)を元に、ドラゴンやワーウルフなどの擬態で威嚇いかくできるようにしておいた。


「おお、集落だ。どう見ても集落だ」


「素晴らしい出来ですな。……カンナギ殿。我々の故郷を救ってくれるだけでなく、このようにスライムのことを尊重してくださって……」


「お礼はいいよ。これで平和が得られるなら素晴らしいじゃないか」


「カンナギ殿は珍しい人間ですな」


「えっ?」


 珍しい?


「わしも長く生きてきましたが、カンナギ殿のような人間は見た事がないですのう」


「……前の管理人はどうなんだ?」


「いえ、我々は前の管理人を見たことがないですよ。強いモンスターから隠れるのに精一杯でしたから」


 ……なるほど、先輩には会ってないのか。


「じいさん、俺はこのダンジョンをできるだけ平和に守ろうと思う。もちろん、何もかも正しい選択ができるとは思ってないけどさ、それでも俺、このダンジョンが好きみたいだから」


「ほっほっほ、それは頼もしいですな」


 俺とじいさんは笑い合う。

 既に外の日は沈み、ダンジョン内の疑似太陽も沈んだ。

 広場では若者スライム達がキャンプファイヤーをして歌っている。


 ーー聴いたことがないはずの彼らの歌声は綺麗でいて柔らかく、何故か俺は懐かしさを覚えた。

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