第2章 セーフハウスにて
4話 セーフハウス。地雷だった公爵家の娘。
シュワンッ。
「……こ、ここはどこだ?」
クリスが腰にある剣の柄を
俺は周りをぐるりと見渡してみる。
どこかの部屋だろうか、四方を壁で囲まれている。本棚、机……その上には開いたままの本やノート、水晶球のような物などが置いてある。木製の
……どうやら、俺たちのテレポート先はこの部屋、いや、
「部屋……書斎か?」
クリスも同じ結論に至ったようだ。
「どうやら危険性は無いようだな」
そう言ってクリスは警戒を解いた。
……そして、そのままこちらに向き直り、ズカズカとこちらへ向かってくる。
「ヒッ!?」
俺はクリスの発する
ジリジリと後ずさる俺。
構わず向かってくるクリス。
……ゴツッ。
とうとう俺は部屋のすみに追いやられた。
そして、クリスの顔が、お互いの鼻が触れそうになるほど、ずずずいと
「……説明しろ」
俺は観念した。
「わかった……わかったから、ちょっとどいてくれ……ん?」
あまりの近さに気恥ずかしくなった俺が、クリスの足元に目線を向けると、何かが目に映った。
「ク、クリス、そこに何かいるんだが」
「ん? なんだと?」
クリスは視線を下に向けた。
……プヨプヨ。
「なんだ、ただのスライムじゃないか」
どうやらスライムが一匹、紛れ込んでいたらしい。プヨプヨ、フヨフヨと水色の丸い塊が揺れていた。
「おお、スライムかぁ」
俺は初めて見るモンスターに、思わず感嘆の声を
……ジャキンッ!
クリスが剣を引き抜いた。
「ふっ、
そのままクリスは剣を振り上げる。
キランッ、と剣先が光った。
……ブルブル。
スライムが激しく揺れ始めた。
「……ゴクッ」
俺はその様子を
……ブルルッ。
……プニュン。
そしてスライムが何かを
わけがわからない。
「……お、おいクリス、こいつから何か出てきたんだが?」
「ぬ、なんだろうか。……紙?」
俺とクリスは、チラとスライムを見た。
……プルプル。
スライムはその場から動かず、じっとこちらを見ている(気がする)。
どうやらこのスライムは
クリスもそう感じたのか、剣をそっと
「どれどれ……」
クリスが声に出して読み上げた。
『ここはダンジョンとは別次元上に存在しているセーフハウスの中です。ここに存在するいかなる生物も、互いに
「…………」
「…………」
クシャ。
クリスが紙を
「貴様、なぜこんな重要なことを隠していた!?」
バレました。
「おお、おちおち、落ち着いてくれ。そ、そんなこと言われてもだな、バレたら何されるかわからなかったから仕方ないだろ?」
俺はビビりつつそう答えた。
「……クソッ、最悪だ。まさか貴様が管理人だったなんて。……まさか本当に存在していたとは……」
その
「な、なんか
俺がそう言うと、クリスは何もわかっていない、というような顔をして俺に
「いいか、カンナギ・タクト。お前に悪意は無いと知っているからあえて言うがな、『管理人』は魔王の手先とも言われているんだぞ!? もしそれが本当ならば、ここまでお前と一緒にいた私は、もはや魔族の関係者だ!」
「ク、クリス聞いてくれ。確かに俺はこのダンジョンの管理人になったが、俺は魔族のことは何も知らないし、関係は一切無いはずだ! 信じてくれ!」
俺は必死に説得した。
「……はぁ。わかった、いまのところは信じてやろう。しかし、お前が魔族の関係者だと判明したら、私はお前を切らなければならなくなる」
「わ、わかった」
…………。
「「……はぁ」」
俺とクリスは同時に
「……で、タクト、その机にある水晶球に触ろと書いてあったが……」
クリスがそう言って、机の上を指さした。
「おお、そうだったな。……どれ」
俺は机に近づき、透き通ったガラス玉のような水晶球に手を触れた。
ポワァァァ。
水晶球が白く光り出し、俺の目の前に何かが表示された。
『このダンジョンの管理権をあなたに
……まあ、ここで No を選択したら下手するとあの自称神に殺されかねないからな。
俺はたいして
ピコンッ。
『カンナギ・タクトの
俺この文章を確認した直後、俺の頭に合成音声のような
ピコンッ。
『スキル:ダンジョン管理を
ピコンッ。
『称号:新米ダンジョンマスターを獲得しました』
おっ、今度はまともな称号だ。
……ってあれ?
ふと、自分の身体を見ると、俺の身体を包んでいたオークの布が消え去って、いつの間にかまともな服を着ていた。
ローブのような、白衣のような……うーん、たぶん、管理人用の服なのだろう。ズボンもかなりしっかりしている。いずれにせよ、身体にピッタリだ。
「……どうだタクト、終わったか? っていつの間にそんな服に着替えたんだ?」
クリスが、俺の肩越しに水晶球を覗いてくる。
「いや、多分正式に管理人になったからだ。今最終契約が終わったよ」
俺がそううなずくと、クリスは少し感動が混じった声でこう言った。
「そうか。……しかし、まさか私が本物の『管理人』に会うとはな。……人生わからんものだな」
「確かにな。俺もまさかダンジョンを管理することになるなんて思わなかった」
すると、クリスは
「……ん? どういうことだ? タクトは自分から望んで管理人になったんじゃないのか?」
クリスがそう疑問を口にした。
ああ、普通はそう思うよな。自分から望んで管理人になったって。
俺は信じてもらえるかわからなかったが、まあこの際、すべて言ってしまおうと思い、これまで俺の身に起きたことを
……もちろん、自称神のネガティブキャンペーンも大いに
「……ふむ、ではタクトは転生してきたのだな。どうりでこの世界の常識に
どうやらネガティブキャンペーンは成功したらしい。ザマァみやがれ。
「おう、俺も言わないよう気をつけようと思ってる。……ってか、あまり驚かないんだな」
「まあ、転生自体ありえない話ではなくてな。強大な魔力をもつ
「ふーん。まあどちらにせよ、悪かったな、
「ふんっ、まったくだ」
プイッ、とそっぽを向くクリス。
……お、な、なんかちょっと可愛いかったないまの。
俺が少しドキドキしていると、クリスはそのままボソボソと話し始めた。
「今日一日くらいはお前と居てやってもいいが……」
クリスは、クルッ、とこちらを向いた。
「明日の夕方までには戻らないと、おそらく私の
……ん?
「……えっ、それってここまで来るってこと?」
俺がそう聞くと、この金髪碧眼美少女騎士、クリスティーヌ・フォン・ヴァンゼッタはとんでもないことを告白しやがった。
「そうなるな。なんせ私は、グロース王国の
「こ、公爵ぅぅぅ!?」
「ふっ、そうだ。驚いたか?」
当たり前だろ! 公爵とかめちゃくちゃお偉いさんじゃねーか! ってか、こいつなんか
……いや、そこを突っ込む前に聞かなくてはならないことができた。
「な、なあ。こ、これ、捕まったら、もしかしなくても俺って……」
「ふっ、処刑だな。私に
「……え、お、おい」
「もちろん、捜索隊は国の
「お、おま」
「ふふふ、安心しろ、捕まったとしても私がお前の
「え? う、あ、ありが」
「最低10年は
クリスは何故か両手で口元を
「ねえっ! あんまありがたくないね!?」
「ふふっ、か、軽い冗談だっ、ふふふっ」
「全然軽くないし冗談に聞こえないんだけども!」
「……ぷっ、あっはっはっはっ!」
とうとう笑いを
「ああ、タクトをいじるのは
こいつ、さっきから俺をからかってたのかよ、腹たつ!! てか俺はまったく笑えないんだが!?
「……いや、ということは、捜索隊の話は嘘だったのか?」
「いや、それは本当だ」
「冗談になってねーじゃんか!」
「それもそうだな、あっはっはっ!」
ひっぱたいてやろうか、この金髪。
……ってか、これってマジでやばいんじゃないか?
ハッ、そうだ! ダ、ダンジョンの方はどうなっているんだ!?
「ダンジョン・セッティング」
またも俺の口から自然と声が出てきた。
ダンジョンステータスと、ダンジョン内部のボロボロになった通路のライブビューが表示される。
どうやらライブビューは自分の見たい所を自動で映してくれるようだ。
……だがそれは今どうでもいい。
ス、ステータスはどうなっている?
ステータス(ダンジョンLv.1):
一層目:2部屋
状態:
Notice:早急にダンジョンの再生成を
…………。
「とんでもなく大ピンチじゃねぇかぁぁぁ!」
あのクリスがビクッとするほど大きい声で絶叫した俺は、その場に
クリスが大丈夫かと聞いてくるが、もはや俺の耳に届いていなかった。
……ダンジョン管理人に就任して、最初でこれとは……さすが最弱ダンジョン。……
床にへたり込んだ俺の脳内では、赤いランプがくるくると回りながら、
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