3話 称号は全裸迷子。廃墟同然のダンジョン。
森の中をクリスと共に歩いている途中、俺はふと、ある疑問が浮かんだので、クリスに
「なあ、クリス。さっきお前、単独実地調査とかなんとか言ってたよな? いったい何を調査してるんだ?」
クリスは、チラッとこちらに視線を向けたのち、こう答えた。
「実は、いまから私たちが行こうとしている旧ダンジョンに用があってだな」
ん? 旧ダンジョンだって?
「それって、もしかして最近完全攻略されたとか、なんとかいうダンジョンのことか?」
「もしかしなくても、そうだ。もしやお前、よく知らないな? ふっ、さすがクズトなだけあって情弱だな」
「うるせぇよ……で?」
クリスはニヤリとこちらを
「ふっ……でだな、そのダンジョンはかなり強い冒険者パーティーによって完全攻略されたんだが、通常は攻略された時点で、ダンジョンを管理しているという『管理人』と呼ばれる存在が死んで、すぐに新しい『管理人』に変わるらしいんだ。そして、また新しいダンジョンに生まれ変わるはずなんだ」
「ふむふむ」
「しかし、そのダンジョンは攻略されてからというもの、まったく新しくなることなく、どんどん
「2ヶ月!?」
おいおい、あの神はそれまでなんの対応もしてなかったってことか? つまり、俺以外にも候補者がいた可能性が高いということだ。……おい、つくづく最低な野郎だな、あいつ。
「そうだ。2ヶ月もだ」
クリスはさらに続ける。
「ダンジョンの荒廃は、『管理人』が不在のままであるのが原因らしいのだが、この世界で『管理人』を見たという者はほとんどいないらしくてな。真相はまだわかってないんだ」
……今までの説明でわかったことがある。そのダンジョン間違いなく俺の目的地じゃないか。
「ん? お前どうした、冷や汗かいて」
いかん。ここで俺が新しい管理人だなんてバレたら、どうなるか見当がつかない。
「い、いや、なんでもない」
「……そうか、まあいい。とにかく、そのダンジョンは現在、スライムしか
「なるほど」
「ダンジョンの
「へー。大変なんだな」
「お前、他人事のようだが、これはかなり深刻な問題なんだぞ? 1つダンジョンが無くなれば、1つ国が消えるといっても過言ではない。今はまだ世界にダンジョンは沢山存在しているが、ある一定数無くなってしまえば、もはやこの世界全体の経済は破綻してしまうんだ」
そりゃ本当に大変だな。しかし良かったなクリス。多分、俺が来たおかげでダンジョンの消失は防げるようだぞ。
俺は声に出さず、心の中でつぶやいた。
そうこうしているうちに、前方に洞窟らしい、大きな穴がある崖が見えてきた。
「あれが旧ダンジョンだ」
クリスはそう言うと、またどこからか紙とペンを取り出した。
「クリス、お前さっきからそういうのどっから出してきてるの?」
「どこって、普通に
「臨時アイテムボックス?」
「おいおい、タクト。そこまで常識が無いなんて思わなかったぞ」
「すまないな。田舎者で」
クリスは、田舎者の次元を超えている気がするが……と
「この臨時アイテムボックスはな、登録した場所にあるアイテムをいつでも出し入れすることができてな。今この臨時アイテムボックスは、森の入り口にいる、私が乗ってきた馬に積んだ荷物とつながっているんだ」
そう言うと、クリスは俺の目の前でペンを出し入れしてみせた。
何も無いところから出し入れしているところを見ると、さすが異世界という気が改めて湧いてきて、ワクワクした。
「どうだ、便利なものだろう? 超激レアスキルの中には、無限に物を収容でき、さらに入れた物の時を止めるという『アイテムボックス』というものがあるらしいが……まあ、そんなスキルを持ったやつ、グロース王国じゃ見たことがない。もし居るとしても、そいつは英雄かなにかだろうな」
そう言うと、クリスは何やら書き始めた。
しばらく
……ふむ。この世界にはスキルがあるのか。だったらステータスとか見れないのかな。
そう思った途端、
「ステータス、オープン」
自然に俺の口から声が出た。
すると、目の前にステータス欄と、その横に俺の正面からの姿が映し出された。
うーむ。多少整った顔をしているが、特別イケメンってわけでもないんだな。残念。
それはさて置き、俺は目の前に表示されたステータスを見てみる。
ステータス:
体力:∞ 攻撃力:MAX
耐久力:MAX すばやさ:MAX
MP:∞
スキル:アイテムボックス・ラーニング(自動で発動)・神の知恵
称号:全裸迷子
……流石チート。やばいなこれ。ステータスが異常すぎてもはや何も言えん。
……ん? 神の知恵? これ、絶対あの自称神に会うやつじゃん。……これは無視。
えーと、それから……おい、称号:全裸迷子ってなんだよ! これ絶対あいつが入れたろ! ほんっとむかつく野郎だ!
俺が
……あいつ、実はかなり真面目なやつだな?
まあいいや。
よし、じゃあ次はこれを試してみよう。
「アイテムボックス、オープン」
俺がそう唱えると、目の前に白く光る空間が浮かび上がった。そして、その隣にはアイテムリストと思われる欄が。
その
アイテムリスト:10000000000G・魔剣ロエルソード・聖剣ヒースソード・魔弓カラニティ…………他数百点。
俺は何も見なかったことにして、アイテムボックスを閉じた。
「……ふぅ。こ、こいつぁ、とんだプレゼントだなハハハハ」
だいたいなんで、魔剣と聖剣が一緒に入ってるんだよ。2つもいらねーよ。
にしても、問題は100億Gだ。こちらの世界のお金にどれくらいの価値があるのかわからんが、間違いなく大金であるのはわかる。
……ってかこれ、チートなくても遊んで暮らせるじゃん。
すると、頭なかに突然声が
「
お前いきなり出てくるなよ気持ち悪い。
「でもキミ、本気で約束破りそうな
あー悪かったよ、いいから消えてくれ。頭が変な感じがして気持ち悪いんだよ。
「まったく、約束破ったら、こ、殺しちゃうんだからねっ!」
お前さらっと怖いこと言うな!?
「あはは、冗談冗談。でも、ちゃんと約束は守ってね? 必要あれば、いくらでも手助けはするからさ」
いや、なんかもう、これ以上必要ないほど充実しちゃってるからもういいよ。
「そお? まあいいけど、何かあったら言ってね、スキル:神の知恵 を使えばいつでも会えるからさ。んじゃ、じゃーねー♪」
自称神はそう言って、どうやら去っていったようだ。
というか予想通りだったな。……神の知恵は使わないでおこう。
そうやってダンジョンの前で過ごしていると、辺りが暗くなってきた。
しかし、いまだにクリスは何かを書き続けている。
……ちょっと長くないか?
そう思った俺は、クリスに声をかけようと、口を開こうとした。
「よし、終了! ……ん? どうしたタクト、そんなマヌケな顔して」
「な、何でもねぇよ。それよりやけに長かったな」
「ああ、調査報告と、ついでに私の日記も書いていた。なんせタクトが一人遊びで楽しそうだったからな」
「ひ、一人遊び言うな! お前を待ってただけだ!」
「まあ、確かに
俺の反論を当たり前のように無視し、クリスは言った。
「え、大丈夫なのか? 帰りもあるんだろ?」
俺がそう言うと、クリスは大丈夫だと返事した。
「どうせ調査はすぐ終わるだろうし、最悪ダンジョン内で野営すればいいだろう」
「そうか」
「では、行こうか」
そう言って、クリスはダンジョンに入っていった。
俺も後からついて行く。
中に入ると、俺は目を見張った。
壁はボロボロに崩れ、もはやほとんど通路が続いていない。
「相変わらず
クリスは入って早々に特に変化がないと判断し、すぐに外へ出ようとした。
「お、おいおい、そんなんでいいのかよ」
「構わない。だいたい生きているダンジョンは、基本的に内部が常に明るく照らされているんだ。ここはずっと前から暗いままだし、このまま帰っても大丈夫だろう。奥に行ってもどうせスライムくらいしかいないだろうしな」
「そ、そうか」
でも、このまま帰るわけにいかないんだよなぁ。だって俺、今日からここに住むわけだし。
俺がそう考えていると、クリスは外へ歩き出した。
次の瞬間。
ボワッ。
ダンジョン内が急に明るくなった。
振り向くと、通路の奥の方まで、至る所にロウソクが灯っていた。
俺よりも、クリスが驚いたようだ。
「な、ななんだと!? だ、ダンジョンが復活した!?」
あー、これ、多分俺のせいだなー。
「お、おい、タ、タクト! これはどういうことだ!?」
「い、いや、俺に聞かれても」
「いやしかし、私が来た時は一度もこんなことはなかったぞ! ……ハッ、も、もしかしてタクト、き、
や、やばい気づかれる!?
「い、いやなんでもないです俺はなんでもないです!」
「なんでもないわけないだろ! 言え! 一体貴様は何者なんだ!?」
クリスが俺の胸ぐらを
ビリッと、身に着けていたボロ布が
ああ、バレた。これはまずいぞ。
そう思った時、俺たちのまわりが青く光り出した。
「……ッ!? テ、テレポート!?」
クリスがいよいよ目に見えて
「や、やばい、タクトっ! 準備しておけ! どこに飛ばされるかわからないぞ!」
「お、おう」
もう、何がなんだかわからない。
みるみるうちに、青い光が
……ああ、そうか。これが異世界か。
続けざまに起こる事象に、もはや俺の頭は思考停止していた。
そして、青い光で完全に周りが見えなくなった瞬間、俺たちはすさまじい浮遊感に身を包まれた。
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