第1章 ダンジョンへ行こう!

2話 金髪女騎手との出逢い。迷子の全裸。

 

 ……パチッ。


 目が覚めた。

 目の前には真っ青な空が一面に広がっていた。視界の端には、光に当たった木の葉がチラチラと映っている。

 どうやら俺は横たわっているらしい。

 ムクリと体を起こし、座った状態で自分の身体を見てみる。


「……いや全裸かよ」


 全裸だった。

 ……あの自称神悪魔のことだ。もう、そこら辺は気にしないことにしよう。

 はぁ。と溜め息を吐いて、改めて身体を見てみると、俺の新しい身体は細身でいて、それなりに筋肉が引き締まっているようだ。いい塩梅に腹筋が割れている。

 間違いなく、もと居た世界とは違う身体だ。嬉しい。

 元の世界の身体は全く割れてなかったからな。握力とか21くらいだったし。


 ……あ、髪は何色かな、もしかして黒じゃないかも。


 プチッ。


 いてっ。


 ……いや、ふつーに黒だわ。そこは変わらないのか。


 しばらく、そうやって自分の身体をしげしげと観察していると、いきなり後ろから声を掛けられた。


「おい、そこの変態」


「うひっ!?」


 急に声を掛けられて思わず飛び上がってしまう。


「うひじゃない、変態」


 振り返ってみると、そこにはピカピカに磨かれた銀色のよろいに身を包まれた、いかにも女騎士らしい、金髪碧眼きんぱつへきがんの美少女が立っていた。


「おい、変態、見るな」


 ……ほほう。いやはや、いやはや。素晴らしいじゃないか、異世界。さっそくこんな美少女が出迎えてくれるなんて。わかってるじゃないか。


「おい! 聞いてるのか、露出狂の変態!」


「うるせー! さっきから変態変態! 誰が露出狂だ! 俺は野外で露出したことなど、人生で一度も……」


「一度も?」


 女騎士が先を促す。

 

「い、一度……も……」


 チラリと下を見てみた。

 俺の股下に、新たなる相棒、ジョニーさんが「寒みぃゼ」とでも言いたいかのように縮こまっていた。


 …………ソウイヤオレ、ゼンラダッタ。


「…………」


 俺はゆっくりと、なるべく平静を保つようにして、女騎士を見た。


「……おい、へんた」


「後生ですからお巡(まわ)りさんだけは勘弁してくださいお願いします何でもしますから!」


 バッ! っと頭を下げて、俺は猛烈もうれつに謝り、懇願こんがんした。


「お、おまわ? ……わ、わかったから早く服を着ろ! 私にそ、そんなモノ見せるな!」


「ごめんなさい服は無いんです! 気づいたらここに居たんです! すみません! 失礼します!」


 あまりの恥ずかしさに、とにかくこの場から逃げようとする俺。


「ちょ、ちょっとまて、おい! こら! こっち来い!」


 無理です。ぼくは逃げます。もうお婿むこに行けないかも……グスッ。


「そっちの方は凶悪な魔物だらけだ! そのまま行ったら100%喰い殺されるぞ!」


 ピタッ。

 クルッ。

 テクテクテク。


「……もうお巡りさんしてもらっていいので、助けてください」


 俺は足をガクガクさせながら、震える声で女騎士に頼んだ。

 魔物とか絶対怖いに決まってるじゃん。


「な、なんということだ。どうやら私は相当やっかいな変態に出会ってしまったらしい」


 すみません。やっかいな変態で。


「と、とりあえずこれを身に着けろ」


 そう言って、女騎士は大きなボロ布をどこからか取り出し、こちらに放ってきた。


「……あ、ありがとう」


 俺は、その布を受け取って身に着けた。

 ……しかし、なんでこんな物持ってたんだ?


「よし、変態にはちょうど良いようだな。オークの腰巻きは。道中で狩っておいてよかったみたいだ」


「お、オークのですか」


 どうりで、ちょっと匂うわけだ。


「なんか文句あるのか、変態」


「ないです」

 

「そうか。……で、だ。変態、お前ここで何をしていた?」


 とても疑わしい目をしながら聞いてくる女騎士。


「い、いや、俺もよくわかんなくて、気づいたらここに居たっていうか」


 本当は転生した直後で、神がここに送ってきたのだということは、あえて言わないでおこう。

 よけいなことを言って、キチガイとまで思われたくない。


「……わかった」


 おお、何故かわかってくれたようだ。


「まあ、大方、盗賊から追いぎにでもあったんだろう。それで、ここに捨てられたんだな。すまなかった。変態ではなかったようだ」


「わ、わかってもらえたようで嬉し……」


「それで、貧弱冒険者」


 ……くない。

 ひでー言いようだなおい!? 毒舌過ぎだろこの金髪!


「……なんだ?」


「名はなんという? 私はクリスティーヌ・フォン・ヴァンゼッタという。今日はここに単独実地調査に来ている。グロース王国の騎士団所属だ」


 やはり騎士だったようだ。

 

「俺の名前はカンナギ・タクトだ」


「フッ、変な名前だな……では、カスナギ・クズト、このままではお前は死ぬだろうから、私に同行しろ」

 

「誰がカスナギ・クズトだ。カンナギ・タクトだ!」


「盗賊に敗れた分際でよく反論できるな。騎士団員ならばとっくにクビになるレベルだ。……もう一度言う、貧弱。一緒に来るか、ここで死ぬか。どっちか選べ」


 この毒舌野郎。

 ……仕方がない、ここがどこだかわからない以上、こいつについて行った方が良いようだ。


「わかった。ついて行く」


「そうか。では、そうと決まったらさっさと行くぞ、タクト!」


 今度は呼び捨てかよ。まあ良いけど。なんかちょっと嬉しいし。


「ああ、よろしく頼むよ。……クリス」


「な、馴れ馴れしくあだ名で呼ぶなっ!」


 少し赤面しながらも、クリスは長い金髪を揺らしながら歩き始める。

 その後ろ姿を見ながら、俺はこう思った。


 ……そういや、俺が管理するダンジョンってどこだよ。

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