夏の水底

魚を飼っている。我が家に水槽は無い。


それは風鈴に生息するものだという。透明なお椀をひっくり返したような硝子の中をくるくると、まるで回車で遊ぶハムスターのように泳いでいた。時々、薄い尾びれが中心に当たり、音が鳴って舌が揺れた。夏の権化のような、そういう魚を飼っている。


正直な話、夏というものがよくわからない。しかし、図鑑には夏の権化のような魚と記されてあったので、そうなのだろうと思う。

このところ、触れる水温は一定で少し冷たくなったら冬が来たんだな、と思う程度である。


地上というものがあった頃ならば夏についてもっと思うことがあったのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る