好きな場所

狭い所が好きだ。

棚と壁の間、クローゼットの中、机の下。膝を折って背中を丸めて呼吸をすれば安心した。人の脚の間に納まるのも落ち着く。


いつから狭い所が好きになったのかはわからない。それが安心する場所だと認識してからは、広い所に放り出されるのが怖くなってしまった。

だから今も狭い所に身を落ち着ける。ソファーとローテーブルの間、体育座りでテレビを観る。両脇には人の脚。頭を傾けるとズボンの硬い生地が髪に触れた。


ソファーに座る人は長い脚を持て余しているのか頻繁にローテーブルに膝をぶつけていた。それでも膝を広げることは無く狭い空間を保っていてくれる。

狭い所が好きだ。脚を折って背中を丸めて、内臓を温めるみたいにくつろぐのが好きで、安堵する。

前世は卵の中で死んだ雛だったのかもしれない。



ソファーに座ると必ず脚の間にやってくる人がいる。一緒に座るでもなく脚の間に入って、時に自分の太股に頭を乗せてくる。前に「一緒に座ればいいのに」と言ったが、この位置が落ち着くと返されたのでそれ以降、何も言わないようにしている。


テレビでは南極での映像が流れていた。ペンギンが卵や雛をを足元で温める光景を観て、床に座っている人は「いいなぁ」と呟いた。

狭い所が好きだという人がいる。自分が脚を広げて立つと、いつも間に収まってくる。まるでペンギンの雛のように。

なぜ安心する場所を求めるのか、理由は聞き出せないままだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る