第11話

真白、虹の描かれた絵を持って歩いてくる。


その足取りは重いが、それは強い意志によるものである。


それを追いかけ、黒斗がやってくる。


黒斗 真白。


真白 ⋯黒斗くん。


真白 ⋯私、思い出したよ。


真白 この絵、私がお兄ちゃんに描いたんだ。


黒斗 ⋯。


真白 受け取ってもらえることなんて、ないと思ってた。でも私は、この絵を完成させた。⋯よかった、ちゃんと最後まで描いて。


真白 ⋯はい、返すよ。黒斗くんのだもんね。


黒斗 ⋯ありがとう。


真白 大切にしていてくれてありがとう。これからも⋯


黒斗 もちろん。これからもずっと、僕の宝物さ。


真白 ⋯うん!


真白 ⋯あのね、黒斗くん。私、外の世界に帰ろうと思う。


黒斗 そっか。


真白 私はここに逃げてきたんだよね。


真白 失われていくのが怖くて、ただ闇雲に塗りたくった。でも濁っていくばかりで、涙と一緒に、色が流れていくような気がした。それで私は、逃げ出したんだ。私自身の中へと。


黒斗 ⋯そうだったね。


真白 ⋯だけど、もう大丈夫。赤音さん、橙香さん、美黄さん、安紫くん、藍衣ちゃん。青葉さん、緑子ちゃん、そして黒斗くんも。私、忘れてしまっていたのに、みんなはちゃんといてくれた。だから、二度と忘れたりしない⋯忘れたくない!


黒斗 それで十分さ。君は、君だけのキャンバスに、思うままに色を塗ればいい。もし気に入らなければ書き直せばいいさ。絵の具はたくさん持っているんだろう?毎日違う服を着るように、毎日新しく描けばいい。誰がなんと言おうと、真白は真白なんだ。


真白 うん、わかった!


真白 ⋯ねえ、この絵も、受け取ってくれるかな。


黒斗 僕にくれるのかい?


真白 うん。


黒斗 ⋯ありがとう、とっても嬉しいよ。


真白 ⋯あのさ、黒斗くん。これからも、一緒にいてくれる?


黒斗 もちろん。⋯だよね、みんな!


真白 え?


世界に、鮮やかな虹が架かる。


美黄 真白ー!


真白 みんな⋯!どうして。


橙香 水臭いことを言うわね。貴女を見送りに来たに決まってるじゃない。


赤音 そうそう。黙って行っちゃうだなんて冷たいぞ?


真白 ⋯ごめんなさい。でも、ありがとう。


藍衣 私たちが背中を押しているのだから、心配は要らないわ。


安紫 大丈夫、俺たちは真白ちゃんを信じてる!


青葉 真白ちゃん。また一緒に絵を描きましょう?


真白 はい、もちろんです!


緑子 私には描けませーん、だなんて。次言ったら許しませんからねぇ?


真白 緑子ちゃん⋯、絶対言わないよ!


背中を押すような七色の⋯いや、八色の輝き。


真白 ⋯みんな。私、そろそろ行くね。


黒斗 うん。


真白、前へ踏み出す。力強い一歩。


緑子 もう迷うんじゃないですよ!


青葉 ずっと、見守っているからね。


真白、外の世界へと帰っていく。


希望を抱き、悲しみを払う勇気を持って。


黒斗 ⋯そう、君は一人なんかじゃない。こんなにも素敵な色たちがいるのだから。もっとたくさんの世界を見て、もっといっぱい絵の具を集めてほしい。こんな意味も価値もない世界でも、美しい色で溢れているんだ。だから、またいつか、僕に絵を描いてほしい。何年先でも構わない。ずっと、待っているから。


虹は消えていく。


光が眠るように、暗くなる。


しかしそれは、消滅を意味するものではない。


虹は再び現れる。私の心に、みんながいてくれるから。

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