第10話

青葉 全て思い出したのかしら、あの子。自分がここにいる理由…。何のために絵を描いていたのかも。


緑子 だとしたらあの子はもう…。あなたも、そろそろ結論を出さないとですね。


黒斗 …分かってる。でも、まだ迷っているんだ。


緑子 あれもこれもと欲しがるのは、心あるものの性ですねぇ。


青葉 これからを預けられる選択をするのよ。


緑子 けれど、立ち止まっていても、あいつは待ってちゃくれませんよ。


青葉 もう、答えは出ているのでしょう。


黒斗 僕は…。


黒斗、意を決して走り去る。


緑子 ⋯驚きました、私たちに自ら心の内を話すだなんて。


青葉 自我と愛情、そして大切な思い出⋯。心を許すには充分だわ。


緑子 ⋯私たちの姿が、あの子の目には映っていた。


青葉 そうね。嬉しいわ。私たちのこと、思い出してくれて。


緑子 ええ。


青葉 ⋯あの子なら平気。あなたも、そう思わない?


緑子 ⋯⋯⋯ふん、私は最初からそんなこと知っていますから。


青葉 あら、そう?



空を飛ぶような感覚。風にでもなったような気分だった。


どこで拾ったかもわからない、その手には筆があった。


しっかりと目を開いて世界を見渡す。


今まで見えていなかったものが、映し出されていく。


筆を振る。


美しい色が踊る。


眩しい色が舞っている。


世界を彩る鮮やかな光が、筆の先から溢れ出す。


大空を翔け、

陽の光を浴び、

鳥と歌い、

木々の間を通り抜け、

鮮やかな果実を手に取り、

蝶の舞をくぐって、

やがて夜になり、

浮かぶ星を見上げる。


「私は、空っぽなんかじゃない!」


私が目を閉じていても、みんなは側にいてくれた。


私を支えるために、ちゃんと寄り添ってくれていた。


見えていなかった。忘れてしまっていた。いつもいつも、ずっと一緒にいてくれたのに。


私の中に、確かに色は存在していたのだ。

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