第9話

青葉、歌を歌っている。そのメロディはラベンダーズブルー。


青いお空にはお日様

藍色綺麗な飛ぶ鳥

緑の木々には赤い実

花で憩う紫の蝶


そこへ、真白がやってくる。


青葉 …あら、真白ちゃん?


真白 こんにちは、青葉さん。素敵な歌ですね。


青葉 でしょう~?


可憐な花咲くオレンジ

天を彩るレインボー

星が浮かんでる夜空も…

…みんな愛しい色たち


青葉 …ふふっ♪


真白 本当…色がたくさん。


青葉 そうよ~とても綺麗だわ♪


真白 …私、目を瞑っていただけなんですね。こんなにたくさんの色が、見えてなかった。


青葉 誰だって、瞬きはするものよ?


青葉 ⋯ねえ、今の真白ちゃんは、昔とは違うかもしれない。でも、どんな真白ちゃんも、空っぽだろうとなんだろうと、私は大好きよ。だから⋯もう、あなたの心に宿る愛を、忘れないで。


真白 青葉さん。


緑子 あなたはあなたにしかなれない。けれど、あなたは何者にもなれる。


真白 あっ。


黒斗 やあ、二人とも。


青葉 奇遇ね~。


緑子 で、真白。あなたは結局、取り戻せたんですぅ?


真白 …自我を。


緑子 ええ。


真白 …正直わからないけど…なんとなく、ここにあるような感じがする。


青葉 あらあら。


真白 みんなが優しく接してくれたから…。⋯でも、どうしても気になるの。疑うとか、そういうのじゃなくてね、ただ⋯理解ができなくて、それが悔しくて。


青葉 何をそんなに思い詰めているの?安心して話してごらんなさいな〜。


真白 ⋯どうしてみんなが優しくしてくれるのか、わからなくて。


緑子 ⋯あなた、そんな簡単なことで悩んでたんですかぁ?


真白 だ、だって⋯わからないものはわからないの⋯!


緑子 あなた、赤音みたいなことを⋯。


黒斗 うーん⋯理由なんてないと思うけどなあ。


真白 ない?


黒斗 優しくするのに理由なんてない。冷たくするのにも理由なんてない。僕たちはその大して変わらない二つから、前者を選んだだけ。結局、やりたいようにやっているだけなんだと思う。


真白 じゃあ、どうして…どうして、優しくしたいと思ったの?


黒斗 何かをするにも、思うにも、理由や意味が必要なわけじゃないよ。僕たちが生きていることにだって意味はないんだから。


真白 意味がない…生きることにさえ。


緑子 ⋯私、わからなくはないですよぉ?黒斗の言うこと。


青葉 そうね、私も。


緑子 どうせ命なんて、徒に咲いては徒に散る、桜のように儚いもの。そこには理由も意味も価値もない。だったら私は、私のために生きたいんです。


青葉 私の場合はね…目の色髪の色肌の色、生まれた土地、育った環境、信ずるモノに、属する場所。全て、どうでもいい事なの。私はたくさんのものを愛したいから、愛しているのよ〜。


真白 ⋯三人とも、なんだか似てますね。


黒斗 確かに…そうかもね。


緑子 私たちは私たちのやりたいようにやっているだけ。だから真白も好きなように生きていいんですよ。⋯私が言いたかったのはそういうことです。


青葉 素直にそう言えばよかったのに〜。


緑子 うるさいですぅ。そんなの私の勝手じゃないですかぁ。


真白 ⋯あのね…私、やっぱり、絵が描きたい。


緑子 そうですか。


真白 …理由はない。もう描けなくなっちゃったけど、それでもまた描きたいんだ。


青葉 …描いてみる?


真白 描けるかな。また、描けるようになるのかな。


黒斗 …大丈夫だよ。だって、真白は綺麗な色を、こんなにたくさん持っているんだから。


黒斗、真白の頭を優しく撫でる。


真白 あ、れ?


脳裏に蘇る記憶。


真白 ⋯お兄ちゃん?


真白、その場から駆け出す。


黒斗 真白⋯!

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