第6話

赤音 楽しみだな。どんな絵になるだろうか。


美黄 そうだねー。賑やかなのがいいな!


橙香 私のクレヨン知らない?


藍衣 ああ、これ?


橙香 あらどうも、ありがとう。


黒斗 真白ー。


真白 今行きます!


青葉 あら危ない。


安紫 わ、危ない。


藍衣 二人とも危ない。


美黄 緑子ー?


緑子 はいはい今行きますよ。


キャンバスが広げられる。


赤音 ここに描くのか。


橙香 みんな一斉に?


美黄 そう!


緑子 ぐちゃぐちゃになりませんか?


青葉 そうねえ、それじゃあ…景色を描く、とだけ決めておきましょう。


藍衣 それだけ?


安紫 いいんじゃない?描くことが決まっていないからこそね。


真白 …なんだか、不安。


黒斗 何を描いてもいいって、逆に難しいね。


安紫 ようし、じゃあ真ん中に俺の自画像を!


藍衣 景色じゃないの!?


安紫 ちぇーっ。んじゃ、ちょうちょ!


青葉 綺麗なお空をえがきましょ~。


美黄 あたしはそこにお日様でも描こうかな~。


藍衣 じゃあ、私は鳥を。


緑子 ここらへんに木でも描いてみますか。


橙香 果物を実らせましょう。


赤音 いいね、果物か。


黒斗 な、何描いてるの?


安紫 だから花だってー。


藍衣 さっき蝶って言ってなかった⋯?


安紫 いいだろ別にー。


赤音 ちょ、もう少しそっちに。


橙香 あなたがそっちに。


各々、絵を描きだしている。しかし、真白は動かない。


緑子 黒斗は何か描かないん…


黒斗 真白?…どうかしたの?


真白 私…、描けない。


黒斗 え?


真白 無い…私の中には。


真白 どうしよう。


美黄 自信が無いの?


真白 違います、ただ…。


橙香 ただ?


真白 色が全部、なくなってしまったんです…!


安紫 そんなことないって。ちゃんとあるじゃん。


真白 ありません…。私は、もう二度と絵を描くことなんてっ…!


世界が動きを止める。


そこには真白だけ、ただ一人。


声が響いている。


(お兄ちゃん、見て見て!お空の虹を描いてみたんだ!)


(上手?やったぁ、お兄ちゃんに褒められた!)


真白 お兄ちゃん。


(ねえ、次はこっちも見て⋯)


(お兄ちゃん…?)


真白 …嫌。思い出したくない。


「どうして私を置いて行ってしまったの?」


真白 そんな記憶、知らない!


世界にヒビが入る。再び時が流れ出す。


うずくまる真白。


緑子 ちょっと、真白。


橙香 真白、私たちはここに居るわ。


真白 わからない。どうやったら絵が描けるの?私は、一体どうやって絵を描いていたの?何のため、誰のために?ねえ、黒斗くん。私、何にもわからないの。色が、何も無いの…。


藍衣 …自分が空っぽ。そう、感じていたのね。絵も描けないくらいに。


真白 ごめんなさい。


赤音 誰もお前を責めちゃいないよ。


安紫 でもさ、あんなに綺麗に描けたんだよ?


真白 今の私にはできません⋯。


美黄 空っぽって思うなら、また注げばいいんじゃない?


橙香 コップに水を注ぐのとは違うのよ、簡単に言わないで。


美黄 同じだよ。それに、沈んでるだけじゃ駄目だって。


藍衣 私たちが、導く…。


橙香 真白にとってそれが苦しいことだったら?


赤音 相手がどう受け取るかなんて、こっちにはわからないことだ。


藍衣 真白のために、私たちが考えないと!


青葉 藍衣ちゃん、落ち着いて。


橙香 真白をもっと傷つけてしまうかもしれないわ。


藍衣 正しく歩ませてあげないといけないの。


橙香 私たちが働きかけたところでよくなるだなんて⋯


美黄 どうなるかなんてわからない。結果を変えるなら、信じて行動しないと!


橙香 私だって、どうにかしたいわ…けれど!…間違えたときが怖いの。何が最善なのかわからないの!


黒斗 …きっと、一番わからないのは真白だ。


重たい間。


安紫 ……どうするのが、いいのかなぁ。


緑子 ……はぁ。わからないなら、放っておけばいいじゃないですか。


真白 わからないまま?


緑子 ええ。わかるようになるまで待てばいいじゃないですか。


赤音 …今、無理に理解する必要はない。


緑子 ま、あなた次第ですよ。あなたの好きにすりゃあいいんですから。


青葉 そうね。私たちがなにかしなくてはならないわけではないのだから。


真白 私…私が。私の…意思で決める。


橙香 私たちは…何もせず、見守るだけ。


美黄 真白のやりたいように。


藍衣 そんな危ないこと…。


緑子 私たちが手を取って、赤子のように引っ張っていくと?


藍衣 そんなの危険だわ。


緑子 あなたの選ぶ道が、絶対に安全だと?


藍衣 選ばれなかったくせに⋯!


緑子 ええそうですねぇ。ですが、こうなったのはどうしてなんですぅ?


藍衣 ⋯欲に任せた行動は破滅を招くわ。絶対認められない!


緑子 それこそ欲望じゃないですかぁ?


藍衣 いいえ、理性的な思考よ。どうして真白を危険に晒すようなことができるの?


緑子 だって。私はあいつの選んだ道を信じますから。


藍衣 根拠は。


緑子 あるわけないじゃないですかぁ。どうせわからないのですから、好きな方を信じるだけです。


藍衣 もし、間違えたらどうするのよ?


美黄 そしたらさ、また塗りなおそうよ!


橙香 ⋯ふふ、あなたはいつもそんなよね。


安紫 …きっと、それがいい!俺たちが縛ることはできないよね。自分を縛れるのは、自分だけなんだから!


青葉 あら、決まったわね~♪


安紫 だろー!


美黄 楽しいこといっぱいしてさ、もっともっとあたしたちのことを知ってほしいし!


赤音 うんうん、そうだな。


青葉 藍衣ちゃん。心配はいらないわよ~。


藍衣 …そう、そうよね。


藍衣、納得しきれていない様子。


橙香 焦ることはないのだから。


緑子 いつも通りお茶でも飲んで、のんびり待ってりゃあいいんです。


安紫 突然フッて思い出したらラッキーって感じで!


緑子 黒斗も。文句ありませんよね?


黒斗 もちろん。でも、真白。一つだけ…。


真白 ?


黒斗 白。君は白を空っぽだと思うかもしれないけど…僕にとっては、とても大切な色だよ。


真白 ⋯うん。

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