第7話

あれから、いくらかの時が流れた。


美黄 真白、随分明るくなったね。


橙香 そうね。笑ってくれるようになった。


美黄 ⋯でもやっぱり、絵が描けないだなんて悲しいよねー。


橙香 ええ…どうにかしてまた描いてほしいところだけど。


美黄 筆を握らせてみちゃえば、案外描けたりして。


橙香 そうだとしたら、すでに解決しているんじゃないの?


美黄 前向きに考えようって。可能性はあるじゃん。


橙香 あなたねぇ、過度な期待をして、裏切られた時を考えなさいな。


美黄 何さ、本当橙香って慎重すぎるよねー。叶う希望も叶わないよ?


橙香 安全な道を歩くことの何が悪いの?


美黄 だってつまんない!どうせ終わりが一緒なら、試せることは試した方が、わくわくするよ。


橙香 わくわく?知性の欠片もない。身を危険に晒したって、どうせ私にできることなんて限られているわ。


美黄 どうせなになにだからっーてさあ、何にも挑戦する勇気がないだけでしょ?


橙香 逃げることが必ずしも悪いとは限らないのよ?


美黄 君は逃げてばっかりじゃないか。


橙香 …。


美黄 …。


真白 ふ、二人とも!


橙香 あら、真白。


美黄 びっくりした。どうしたの?


真白 あ、あの、喧嘩はやめてください!


橙黄 喧嘩?


二人、顔を見合わせ笑う。


真白 え?あれ?


美黄 あはは、あたしたちは喧嘩していたわけじゃないんだ。


橙香 ええ。じゃれ合いみたいなものよ。


真白 じゃ、じゃれ合い?


橙香 似た者同士って、よくぶつかるのよね。


美黄 そうそう、しょっちゅうこんな感じだよ?


真白 似た者…同士…?


赤音 こらこら、真白を置き去りにして話すんじゃない。


赤音、真白の後をついてきていた。


美黄 え?


橙香 あら、ごめんなさいね。


真白 いえ…確かに置き去りにされましたが…。


橙香 ⋯要は、私たちは心をいかに楽にするかっていうのを考えていてね。


美黄 結果が違うだけで、根っこは似ている気がするんだよねー。…わかる?


真白 …わかったような、わかってないような?


赤音 …まあ、それでもいいんじゃないか。


美黄 そういえば二人とも、何してるの?


赤音 喋りながらふらふらしていただけ、かな。


真白 そんな感じです。


そこへ、安紫と藍衣がやってくる。


藍衣 ええ、鶏の体内組織について調べたのよ、確かだったわ。


安紫 でもでも、ぜーったい、生き物の変化は卵の中で…あれ。


藍衣 あら、みんな。ごきげんよう。


美黄 ごきげんよー。


橙香 鶏とか卵とか、いったい何の話を…?


赤音 お前ら、まだその議論をしてたのか…飽きないな。


安紫 まあ、てへへ。


藍衣 こいつにしては、説得力のある意見なのよね…だから、面白くて。


真白 私も覚えてますよ、あの時はよくわかりませんでしたけど…。


美黄 ???


赤音 ああ、この前な、鶏か卵、どっちが先かって話をしたんだ。


橙香 へえ、絶望的に答えの出なさそうな議題ね。


安紫 俺は卵が先派!藍衣の意見もわかるんだけどさー。


藍衣 難しいのよね。生物学とか因果論とか。


橙香 面白そうね。


赤音 …私もさ、ずっと考えていたんだけど、もっと簡単なことだと思う。


藍衣 あなたも気になっていたのね。


安紫 俺たちのこと言えない!


赤音 い、良いだろ別に。


真白 ま、まあまあ。それで、もっと簡単なことって…つまり?


赤音 ああ。まず、卵が私たちで、鶏が色だとする。それでさ。はい。


赤音、上着を脱ぐと真白に渡す。


真白 あ、はい。


赤音 …ねえ、今の私って、赤音だと思う?赤を捨ててしまったけど、ちゃんと赤音じゃない?


安紫 うん。え?


美黄 なるほどー!


橙香 ⋯あなた、こういうことには察しがいいのねぇ。


美黄 えー?


藍衣 ええと、つまり?


安紫 ただの上着を脱いだ赤音だろ?


真白 それはそうなんですけど、そうではないというか⋯。


赤音 私は赤を纏う以前に、私なんだよ。


安紫 え?


赤音 だーかーらー、卵も、自分がどんなものになるのかを自分で決めるだろ?


藍衣 そうとも言えるわね。


赤音 たくさんの可能性の中から選んでいって、そうして自分自身を定めていく。そう考えたら、可能性に満ちた卵の方が先って思ったんだ。


安紫 なるほど!


赤音 またわからんとか言うんじゃないだろうな。


安紫 わかった!


橙香 あら、良かったわね赤音。


赤音 ⋯ま、まあ。そうだな。


真白 あ、上着どうぞ。


赤音 ああ、ありがとう。


美黄 と、こ、ろ、でー。あたしたち、この後おやつを食べようと思ってたんだけど、よかったら一緒にどう?


橙香 美黄⋯そうね、それがいいわ。


安紫 おやつ!?(興味津々)


美黄 たくさんあるから、みんなにもおすそ分けしたくて!


赤音 いいのか?


橙香 二人とも、来る?


安紫 行く行く!


赤音 じゃあ⋯私も行ってみようかな。


橙香 真白と藍衣は?どう?


真白 私は⋯遠慮しておきます。


藍衣 私も。あまりお腹が空いていなくてね。


橙香 ふふ、わかったわ。それじゃあ四人でおやつパーティーね。


安紫 おやつパーティーだ、いぇーい!!


美黄 そう!ゆでたまごパーティー!(満面の笑み)


安紫 ゆで…たまご…!?(引)


橙香 ちょっとたくさん茹ですぎちゃって。何十かは軽く超えるわ。


藍衣 計画性を持ちなさい!


橙香 美黄に言ってちょうだい。


美黄 えへへ、在庫消化にご協力お願いしま~す!


安紫 嵌められた!


赤音 美黄だと思って油断していた⋯!


橙香 あら、美黄は結構賢いのよ?


美黄 へっへーん!


藍衣 ⋯二人とも、ご愁傷さま。


赤音 くっ⋯食べてやる!こうなったら食べ尽くしてやるさ!


橙香 頼もしいわ。


美黄 それじゃあ、二人とも。またねー。


安紫 またね~。


真白 はい、また。


藍衣 食べ過ぎて動けなくならないようにね?


四人、ゆで卵に合う調味料を議論しながら去る。

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