第12話 プロポーズ合戦!

「と、いうわけで」



 王子が笑顔を貼り付けたまま、わたしがいる空き教室に入ってきた。 ほわっと??


 何故、ここにいるって知っているの?? わたしが待ち伏せする前に、王子も待ち伏せなうだったの??


 と、疑問符を浮かべたまま、王子に引っ張り出された。



「ヴィオレット嬢!?」


「そこにいたのかよ!」



 二人とも、わたしが現れてすごく驚いた。まぁ、そうだよね。つまりさっきの会話聞いたってことも加えているもんねぇ。


 そして、わたしもびっくりだよ! まさか王子に引っ張り出されるとは思わなかったもん!



「さて、本人も出たことだし、勝負の内容を説明しよう」



 え? 勝負をする流れなの? わたし、本人に決めてもらおうっていう話しか聞いていませんけど。



「勝負の内容は至ってシンプル。オルタンス嬢にプロポーズすることだ」


「はい!?」



 思わず、声を張り上げてしまった。けど、王子はわたしの言葉を気にせず、いや無視して話を進める。



「オルタンス嬢にプロポーズを受けてもらったほうが勝ち。勝負の判定は、もちろんオルタンス嬢に決めて貰おう。コンラッド君はとりあえず勝負をしないと納得しないようだし、オーランシュ君の意見にも沿う内容だとは思うんだが……オルタンス嬢はどうかな?」


「え、ええと……殿下の御心のままに?」


「よし、二人もいいね?」


「は、はい」


「殿下がそう仰るのなら」



 二人とも、戸惑いながら答える。なんか怒濤の展開すぎて、おばちゃんついてけない。なんか野次馬も増えてきたし。



「諸君らは、この勝負の承認となってくれ。いいかい?」



 王子が周りの野次馬に問いかけると、拍手が送られた。つまり、いいですよ、ということだ。



「と、いうわけで、まずはコンラッド君からいこう」


「はい!」



 状況に慣れてきたのか、戸惑いから打って変わって意気揚々とわたしの前まで進む。


 自信満々だなぁ。振られ続けているのに、一体どこからそんな自信が出てくるのか。謎だ。



「ヴィオレット嬢」



 わたしの前で傅いて、手を差し出す。



「殿下の前で誓いましょう。僕は一生を掛けても、貴女を幸せにします。ですから、どうか僕の手を取ってはくれませんか?」



 うん。嘘くさい。舌が乾かない内に、他の子に目が行きそうな感じ。なんかデジャヴ。前世の彼氏と全く同じ雰囲気だわ。君だけだよ、と言いながらすぐに浮気した奴と、同じ雰囲気と目。


 白けていると、痺れを切らしたのか、さらに言い続けやがった。



「知っていましたか? オーランシュは漫画という低俗な物を読みふけっているとか。貴女にそんな男は相応しくない。その点僕は」


「は?」



 思わずものすごーく低い声で唸った。


 コンラッドが目を見開いて、わたしを凝視する。王子を含めた周りのみんなも、え? という顔で、わたしを見ている。メルは見えないけど、きっと、あーあ、という顔で見ていることだろう。


 そう、わたしはぶち切れた。


 今なんつった?? この屑男。



「低俗? 漫画が?」


「そ、そうです。あんな野蛮で、ふしだらなものを侯爵家であるオーランシュが読んでいるんですよ? 妖精と詠われるほどの貴女に見せられるようなものではゴフッ!!」



 それ以上は言わせねぇよ!! というばかりに、わたしは傅いていたコンラッドのブツを思いっきり蹴り上げた。


 その場に転がり、悶えるコンラッドを見下ろし、わたしは足を上げた。



「今なんて言った!? この年中頭花畑男おおおぉぉぉ!!」


「ヴィー、どうどう!」



 止めの一発を食らわせようとしたら、メルに後ろから押さえられた。



「うおおおぉぉぉ!! 離せえぇぇぇぇぇ~!! この男の遺伝子を残したら子孫が可哀想でしょおぉぉぉ」


「気持ちはすっごく分かるけど、不能にさせるな! 慰謝料を払わなくちゃいけなくなるだろう!」


「この男の遺伝子を後生に残っちゃうことを考えると、それくらいはした金でしょうがあぁぁ!!」


「落ち着けって! 擬態が剥がれているから!! 皆の目の前で!」


「ハッ!!」



 メルの言葉で我に返った。


 おそるおそる周りを見ると、ぽかーんとわたしを凝視していた。うわぁ……いたたまれない。


 だんだんと、冷静になってきたよ。



「ごほん。取り乱しておりました。醜態を晒してしまい、申し訳ありません」



 取り返しのつかないことをしてしまったが、とりあえず誤魔化そう。と、淑女の礼を取る。


 再び、コンラッドに視線を向ける。


 未だに悶えているコンラッドを見下ろしながら、わたしは先程の返事をした。



「コンラッド様。わたしは、あなたと相まみえないことが分かりましたわ」



 ぴくり、とコンラッドが揺れる。



「あなたが漫画を低俗の物として、扱うのは結構。ですが、それを見下した上に、漫画を愛する者に対して侮辱するのは許しがたいですわ」



 前世でもさ、漫画を馬鹿にする輩はいたよ。でもさ、そういう奴らは何も分かってはいないよ。


 読んでいる奴は正常じゃない? 根暗だ? 現実を見ていない? リアルのほうが絶対に良い? 子供の読み物だ? 子供に悪影響だ?



 うるせええええええええええええええよ!!!



 気に入らないからって、人の好きなもんを詰るなよ!!! いいんだよ、わたしたちはそれで人生救われているんだから!!


 漫画好きでなにが悪い!? 子供の読み物だ? ならなんで青年向けの漫画とかあーるじゅーはちとか、耽美な漫画があるの!?


 つうか、漫画家は大体大人が描いているものだ、大人が描いているものが全部子供向けなわけがなかろうに!! 子供向けの漫画とかあるけど、ハマる大きな友達もいるわけで。


 大人になっても漫画漫画……って、子供も限られた小遣いの中で一生懸命やりくりしているけれど!! グッズにしろBDにしろ、経済力がある大人がいっぱい買うからこそ、経済が成り立っているんだろうが!! 子供だけの経済だと、世知辛いことに衰退するだろうよ!! そこに大人子供関係ない!! あるのは作品に愛する愛情だろうよ!!


 ……ふぅ。ちょっと、前世の親に言われたことを思い出して、脳内でめっちゃ愚痴ってたわ。クールダウン、クールダウン。


 とりあえず、何が言いたいかと言うと。



「漫画とか関係なく、人の趣味を馬鹿にする人とは、馴れ合いたくもありませんわ」



 それから、とさらに続けて言う。



「あなたはわたしの趣味を馬鹿にした。わたし、漫画を読むことを止めるつもりは毛頭ありませんことよ? だから、他を当たってくださいまし」



 にっこりと嫌みっぽく笑う。コンラッドはようやく頭を上げた。なんか絶望した顔をしていたが、別に罪悪感は芽生えなかった。


 視線を逸らし、王子を見る。



「殿下。もうよろしいですか?」


「うーん。せっかくだから、オーランシュもプロポーズしたらどうだい?」


「はぁ」



 メルが困ったように、頬を掻く。


 あ、珍しく照れている。さりげなく言うのは恥ずかしくないけど、改めて言うと恥ずかしがるからなぁ、メルは。



「そうですわね。婚約者になろうと言ったのは、わたしからでしたし、この機に言ってほしいですわね」


「そうなのかい? なら、言ってごらんよ」



 いらんこと言うな、とメルに睨まれた。

 だって、あのメルが告白とか、ちょっと好奇心が~。


 腹を括ったのが、メルが溜め息を吐いた。



「ヴィー」


「はい」



 メルがわたしのほうに歩いてくる。

 さぁ、どう出る。



「俺、実は……」



 実は?



「お前を一生支えるように、背景の勉強をしているんだ」


「メル、愛してるぅ!!」



 思わずメルに抱きついた。


 わたし(の漫画家ライフ)のために、わたしの苦手な背景を練習しているなんて……お前は良妻かよ! あ、違った。良夫かよぉ!



「意味は分からないけど、オルタンス嬢が愛しているって言ったので、この勝負、オーランシュの勝ち!」



 わぁ、と周りの生徒から大きな拍手を送られた。


 妖精の名に傷が入ったけど、これでコンラッドが諦めてくれればいいな。



「ヴィー、多分しばらくコンラッドにちょっかい掛けられるぞ」



 耳元でメルが囁く。拍手に包まれているから、この会話を聞き取れるのはわたしたちしかない。



「なんで?」


「多分だけど、コンラッド、多分お前の前世の彼氏」


「へ!?」


「覚えていないみたいだけど、言動と行動がアイツと全く同じだ」



 言われてみれば確かに。見た目は似ていないけど、それ以外は同じだ。でも、あれはわたしの前で、人を貶すことはしなかったけど。あれか、わたしの前では仮面被ってて……ん? ということは、前世でもアイツ、勝利にちょっかい掛けていたってこと?


 まあ、それは追々と追及するということで、先に。



「ていうか、メル。さっきの誤魔化したでしょう」


「誤魔化したって?」


「とぼけないの。背景の勉強をしていることは本当だろうけど、照れ隠しで告白したの、バレバレよ」



 メルの目線が泳ぎ始めた。これは図星ね。


 ふふふ……わたしの目は誤魔化せないぞ。前世のことだとしても、幼馴染み舐めないでもらいたいわね。



「皆の前で言えるわけがないだろう」


「そう。なら、いつか言ってね」


「ああ。その時が来たら、伝えたかったことを言う」


「待っているわよ」



 メルがなんて伝えたいのか分からないけど、まあ、言える時が来るまで気長に待とう。こいつが照れるなんて、滅多に見れたもんじゃないしねぇ。


 愛の告白じゃないだろうけど、その方がわたしたちらしいよね。










 と、思っていたけど、数年後。わたしは知る。


 あの時は、単に皆の前でプロポーズっていうのに照れているだけだろうと思っていたけど、実はマジなプロポーズになると、前世云々の話になるから言えない、という意味だったということを。


 そして、伝えたかったことが、マジで愛の告白だったということを。


 結婚式を挙げた後の初夜で、知ることとなるのだった。

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