第11話 噂のアイツ
それを知ったのは、わたしが漫画家だと知っている親友とお茶会している時のことだった。
「ねぇねぇ、ヴィオレット、知っている?」
「なにが?」
親友、カレラ・アンバレーは首を少し傾かせて、にっこりと笑った。
「コンラッドが、あなたの婚約者を腰抜け呼ばわりしていること」
「はぁ?」
おっと、思わず素で言ってしまった。まあ、いっか。カレラだし。
「え? どういうこと? 説明ちょうだい」
「新作のネーム」
「よし、あと五日待ってちょうだい。さあ、情報を!」
カレラ曰く。
なんでも、コンラッドがメルにわたしを賭けた決闘を何度も申し込んでいるらしい。
それをメルが断り続けている。理由は勝手に人の人生を賭けるのはダメだろ、ということ。アイツらしいし、その理由はわたしも賛同だわ。人の気持ちと人生をなんだと思っているんだ、あの野郎。
負けるのが怖いか、というコンラッドの挑発にも乗らなくて憤ったあの野郎はメルのことを、あいつは腑抜けだ、と周りに吹き込んでいるらしい。
「なにそれ、情けない」
「ほんと、醜い」
ほぼ同時に、呆れた溜め息をつく。
「で、ヴィオレットはどうするのかしら?」
「そんなの決まっているじゃない」
わたしはにやっと笑う。
メルは前世と変わっていない。だから、どうせその事をわたしに言うつもりはないし、言う必要性も感じていないと思う。必要性を感じたら、わたしに言うはず。つまり、コンラッドの敵意は今のところ、メルにしか向いていないということ。
コンラッドのことは、うぜぇなコイツ、としか思っていないだろう。メルは興味ないやつはとことん興味ないし、自分の名誉とかも気にしない。
だが、わたしが気にする。でも、本人に言ってもはぐらかせることに違いない。
と、いうことで。
「現場に乗り込もうじゃないの」
ということで、張り込みをしています、先輩。
先輩は誰かって? そういう設定の方が場が盛り上がるので、空想の人物です。
さてさて、わたしは空き教室で張り込みをしています。
コンラッドは我が友、カレラの情報によると、この空き教室の前で二人が擦れ違う予定らしい。コンラッドがメルの行き先を読んで、ここに来るらしい。
ストーカーかな??
そして、カレラの情報収集力半端ねぇっす。敵に回したらあかんわ~。友達で良かったわ~。
と、友達の恐ろしさを噛み締めていると、メルが来た。なにか探しているようで、キョロキョロしている。前を見た瞬間、顔を顰めた。
その視線の先を見てみると、コンラッドがいた。ああ、多分角に待機していて、待ち伏せしていたんだな。
わたしが通ったら、声を掛けてくるはずだから、わたしが空き教室に入った後に待機していたのかな。
わざわざ待ち伏せ……あ、その分わたしにアタックする時間が減るか。メルは犠牲になっていたか。南無。
「やぁ。オーランシュ」
コンラッドがにこりもせず、メルを睥睨しながら挨拶をする。対してメルは、挨拶をすることもなく、踵を返して、無視して去ろうとしている。
「待て待て! 帰ろうとするな!!」
「俺、決闘する気ないですしおすし。何十回も言っているけど、人の人生を勝手に賭けるのはいかがかと思うわけですしおすし」
「人の台詞を先取りするだけじゃなく、変な語尾を付けるな!! 腹立つなぁ!!」
「俺はお前の傲慢さに、腹立てていますしおすし」
メル……煽るなぁ。
「ふ、ふん! そう言っていられるのも今のうちだ。貴様が決闘に応じぬ腰抜け野郎だと、学園中に広まっている。ヴィオレット嬢に相応しいのは、貴様ではなく僕だということを、前生徒が思うのも時間の問題だ」
「大半は俺の言葉に賛同している件については、知らないのか。お前が俺の悪評を広めるのは別にいいけど、逆にお前の器の小ささが露見しているみたいだけど、いいのか?」
「ぼ、僕のどこが器が小さいんだ!?」
「あ、器が小さいんじゃないんだ。中身が矮小なんだな」
「似たような意味のように聞こえるんだが!?」
「つまり、器が知れているってことだな。お前が堂々と俺の悪評を広めるたびに、お前の仲間が減っていき、そして誰もいなくなった」
「過去形にするな! 今も仲間いるからな!!」
煽っているんじゃない。めっちゃ煽っておるなぁ。自分のペースに巻き込んでいるし、さすがメル。いいぞもっとやれ、と言いたいけど、逆上しないか? コンラッドの奴。たしかにアイツ、器が小さいから逆ギレされるんじゃないの? 大丈夫?
あ、よく見ると、周りに人が集まってきている。ざわざわしている。これはまた噂広まるな。
どのタイミングで出ようか迷っていると、隣の空き教室から勢い良く扉が開いた音がした。
「争っているようだねぇ! ここは、私に任せなさい!」
金髪イケメンが出てきた……って、あの人第一王子のジン様じゃないかぁ!! なんで、そこから出てきたぁ!? 神出鬼没王子と、影で言われているけど、マジだったの!?
王子登場に、さらに野次馬が騒ぎ出した。メルとコンラッドもぽかんとしている。
「いえ、王子が関わるような大事なことではないので」
メルが果敢にも、王子に言う。お前ってそういうところあるよね!
「いやいや。生徒会長として、学園の大きな事件から小さな事件まで、解決したいのでね。悪いけど、首を突っ込ませてもらうよ。それに、コンラッド君はオーランシュ君の悪評を広めていることは、私の耳にも入ってきているよ。決闘のこともね。決闘はともかく、悪評を広めるのは下手したら苛めになるからね。これは首を突っ込まざるをえない」
尤もなことを言ってらっしゃるけれど、なんだろう。瞳が好奇心で彩られているような気がするのは、気のせいかな?
「では、決闘を」
「コンラッド君。私はオーランシュ君の意見に賛成なんだよ」
コンラッドの言葉を遮って、王子が続けて言う。
「私も勝手に人の人生を賭けるのは、駄目だと思う。だからさ、本人に決めてもらおうよ」
……ワッツ?
本人って、わたしのことかい??
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