第10話 乙女ゲーについて

「なぁ、ヴィーさんや」


「なんだい、メルさんや」


「前言っていた、ゲームの悪役どうのこうのの話だけどさ、現実的に考えて、それは有り得ないんじゃね? あっても、小説くらいじゃね?」


「薄々それは思っていた」



 メルの言葉に、わたしは深く頷いた。



「乙女ゲームはわたしもやったけどさ、悪役少女は出てこなかったわ」


「悪役は男で、たまに攻略対象だもんな」


「それそれ。女の子キャラは、主人公の友達か良きライバルよね」



 良きライバルの代表は、やっぱり元祖乙女ゲーのあの方よね。設定上妨害してくるけど、競っている内容が内容だから仕方ない。


 貴族だから庶民の主人公につれない感じだけど、なんだかんだ色々と教えてくれるし、たまに世話を焼いてくれる良い子。


 負けても喚かず、主人公の補佐をやってくれるんだよね。



「あと、中世の貴族の学園物とか、実際にはなかったよな」


「魔法学園はあっても、攻略キャラクターの一人が貴族っていうのが精々だったよね~」


「あったかもしれないけど、俺らが知っている、もしくはプレイした乙女ゲームは、現代ファンタジーものか、歴史物だよな。あとアイドルとか、現代学園もの」


「歴史物流行っていたよね~」



 元祖歴史物乙女ゲームは、やっぱり平安時代のあれかな。わたしたちの世代じゃ、江戸時代だったり、戦国時代だったり、多かったのは幕末が舞台のやつかな。幕末は言わずもかな、新撰組が多かった。



「お前、乙女ゲームだと腐ってなかったよなぁ」


「NLも好きですしおすし。わたしくは固定カプ厨で、たまたま好きなカプがBLだったのが多かったですしおすし」


「乙女ゲーもお前、固定カプだったもんな」


「一さん×主人公以外興味ないぜ」


「そういう人もいるから、乙女ゲーって流行る気がする。乙女ゲーで二次創作している人って、基本主人公=自分じゃないもんな」


「主人公ちゃんと一緒にしたら、あかん。我々はあんな良い子ちゃんじゃない」


「主人公単体が好きな人もいるしな。キャラは好きだけど、主人公が嫌いっていうプレイヤーもいるくらいだし」


「乙女ゲーって攻略キャラもそうだけど、主に主人公がある程度良い子じゃないと、いけないよね」



 明らかにネタだったら、あばよ! って言っても許されるけどね。たとえば鳩が攻略対象の乙女ゲーとか。四月一日嘘のネタだったけど、マジでゲーム化して、とあるゲーム機のストアに売られるようになったんだよね。ですしおすし、はその攻略キャラの語尾だったりする。 



「乙女ゲーしていない人は誤解している人いるけど、乙女ゲーやっている人が全員、夢女子なわけがないのになぁ。お前のようにカプに夢中になる奴も大勢いるし」


「夢女子と腐女子をごっちゃで考えている輩もいたからねぇ」



 ここでおさらいをしよう。


 おおまかに言うと、腐女子は男同士のカップリングが好きな女子。


 夢女子は、キャラクターと自分の恋愛を妄想するのが好きな女子のことだ。


 だから、そこ! 間違えないように! 夢女子と腐女子を兼任している方もいらっしゃるが、基本、別の生き物です!



「つまり、わたしにとって乙女ゲーは、好きなカプを見守るためのものなんだよね」


「唐突に締めるなよ」


「あ~。あの乙女ゲーの続編、プレイしたかったよ~。ED後の推しカプの様子を見たかったよ~! あの漫画の推しカプの互いが一番必要を認めるシーンも見たかったよ、拝みたかったよ~! メルえも~ん!!」


「お前、本当に前世に未練ありまくりだな」


「なんだよ~! メルは未練なかったのかよ~!」



 コイツだって、続きが見たかった漫画とかアニメがあったはず。そんな区切りよく、死んだときに皆完結した、というわけではない。


 わたしと同様、次のジャンルに行ったりしていたからね。たとえ追っていた漫画が完結しても、また次の漫画に流れ着くものだからね。



「いや、別に」


「強がるではない、正直に言ってみ?」



 ここでメルは、実はありまくり、と言うはずだと思っていた。


 が、メルはわたしの予想斜め上の回答を口にした。



「お前がいないのに、作品を楽しめるわけないだろ」


「は……?」



 わたし、ぽかん。

 メルはさらに続けて言った。



「俺にとって、お前が最高の語り相手だった。お前がいないと、漫画もアニメもゲームも、面白いのに、すごく物足りなく感じた」


「お、おう」


「前世に比べて、この世界は俺たちにとっての娯楽が少ない。けど、お前と作品と語り合う今が、最高に楽しい」



 メルが頬をつきながら、わたしを真っ直ぐ見つめる。そして、微笑した。


 ど、どうしよう。

 すっごい、照れるんですけど!!



「顔、真っ赤だな」


「う、うるさいやい!」




 思わず、そっぽ向いた。メルの小さな笑い声が聞こえる。


 腹立たしいけど、やっぱり恥ずかしくて。


 わたしはしばらくの間、メルを直視できなかった。


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