第8話 この世界について

 略奪愛宣言されてから、一週間が経った。


 表立って協力する人はいなくなったから、比較的平和になった。けど、裏で協力している人がいるらしく、メルがいない時にヤツと遭遇してしまうことがある。



「というわけで、メルの助言通り、護身術を学び始めました。おかげでネタがいくつか降りてきました」


「それはようございました。あ、誤字があったから修正しといたぞ」


「とてもメルシー」



 学園が休みの今日、わたしとメルは原稿を描いてきた。


 ちなみに恋愛物の短編だ。わたしは薔薇も大好きだが、ノマカプも好きなのですよ。ちなみに百合には目覚めていない。けど、否定はしません。いずれは目覚めるかもしれないし、自分の首を絞めたくないからね!


 百合に目覚めようが目覚めなかろうが、人の好きなものを否定するのはどうかと思うわけですよ。



「そういや、メルたんや。わたし、ふと思ったんだけどね」


「なんだい」


「わたしたちって要は、流行っていた異世界転生したわけよね」


「そうだな」


「ここが乙女ゲーの世界という可能性はありますかね?」


「俺が知っている限り、この世界と同じ世界観の作品はなかったと思うぞ。漫画も小説もなかった。それがどうかしたのか?」


「いやさ、もしも乙女ゲーだったらさ、わたし悪役令嬢ポジじゃない? って思ってさ」



 ライトノベルで転生先が悪役令嬢だったという設定が大流行していた頃があった。もしかしてさ、わたしもそれなんじゃないかなって思って記憶を手繰ってみたんだけど、それっぽい設定の作品知らないんだよね。


 勝利……メルと再会した時、もしかしてわたしの死後に発表された作品の可能性が浮かんだんだ。で、訊いてみたわけで。



「うーん。お前の容姿って、某美少女が変身して戦う幼女向けアニメ、ただし大人も夢中になるアニメでいうところの、味方のクールビューティー系ポジで、悪役ポジじゃないと思うが」


「わたしと同じ例えを……」


「中身は残念だけど」


「一言多いわ! 否定出来ないけど!」



 どうせ腐っている屑ですよーだ! よく蠅が耳元で飛んでいますがなにか?



「お前の本性、コンラッド氏に見せたらどうだ? あっさりと引くかもしれないぞ」


「見せて、それでも君が好きって言われたら、さらに面倒臭いことになると思わない?」


「たしかに。もう正面きって、生理的に無理って言ったらどうだ?」


「さすがに良心が痛む」


「明らか様に迷惑そうな顔しているのに、それを前向きに捉えている奴には、純度百パーセントの言葉をぶつけないと伝わらないぞ」


「純度百パーセントの言葉が、嫌悪百パーセントの言葉な件について」


「いいんじゃないか? お前の精神がすり減ってしまう前に、すっぱりと切ったほうがいい。大体、お前がそうだから前世だってあいつと別れられなかったんだだからさ、今世は貫こうや」


「一理ある……」



 確かに前世は、なあなあで折れたんだけど、今世は折れないで絶対に受け入れない。そういう道もあるわけだ。


 前世は情があったけど、今回は別にないし。強がりでもなんでもなく、ただ鬱陶しいだけだし。


 情けかける意味がないような気がしてきた。



(大体、わたしにああいうタイプは合わないのよね)



 キラキラしていて、多情で、積極的な男は。


 わたしに合うのは、さっぱりしているけど誠実な人だ。無口というわけでもないけど、黙っていても居心地悪くなくて、なんだかんだで包容力があって。


 そう考えると、勝利がまさしく理想だったわけだ。


 ジッとメルを見つめる。わたしもメルも、前世と性格が変わっていないから、気が合うのよね。



「なんだよ」



 視線に気付いたメルが、不思議そうに首を傾げた。



「いや。ただ、なんだかんだでメルが一番わたしと合うなって思って」


「今更気付いたのかよ」



 遅ぇよ、と軽く毒吐きながら嬉しそうに笑うメルに、かつての勝利の顔を重ねて、思わず釣られて笑った。


 少しドキッとしたのは、多分気のせいだ。


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