第5話 発見だと思ったら……?

「まさか、あのオルタンス伯爵令嬢が転生者だったとは! しかも重度のオタクとお見受けする!」




 その子が可笑しそうに笑う。




「贖鐘はパンピーにとっては、マイナーなアニメだったからね! オタクの間では名作扱いだったけど」


「名作じゃなくて神作だろ? あの腐った者共の性癖を引き出すような神シナリオとキャラクター……監督を含んだスタッフはスナイパーだ。俺も貫かれた」


「お前、腐男子か! わたしもそうだけど! ていうか、わたしのこと知っているの?」


「当たり前だろ? あの浮き世流しているコンラッドが猛アタックしている令嬢って学園の中では有名だぞ」


「マジかよ」




 予想はしていたけど、腐男子の耳すら入るほど有名だとは! いや、噂云々は腐男子関係ないか。ちなみにわたしは、二次元しか興味なかったので噂には疎いほうですよー。取り巻きのおかげで、ホットな話題は知っている程度。




「あ、自己紹介がまだだったわね。改めてヴィオレット・オルタンスです。父が伯爵。長女。二組」


「俺はメルヒオル・オーランシュ。父が侯爵。三男。七組」


「で、で。前世はどこ住み? わたし、神奈川」


「俺も神奈川」


「おうおう奇遇ですなぁ」




 同じ転生者で同じ世界、腐ったもの同士で、しかも住んでいたところも同じとは。


 被りすぎだろ! それが嬉しい!




「横浜?」


「横浜」


「おお、そこも被っているとは」


「出身高校は愛蘭高校」


「わたしもわたしも! 中学は広末~」


「え、俺も」


「……小学は北羽浦」


「ミーテュー」


「……」


「……」




 いくらなんでも、被りすぎだ!




「ちなみに生まれは何年?」


「わたし、平成二年」


「俺も」


「…………」


「…………」




 ざわ、ざわ。


 これは、もしかすると知り合いか?


 メルヒオルもそう思ったみたいで、真剣な顔で私を見据える。




「……」


「……」


「せーのっ」


「境勝利」


「浅野有理」


「え」


「え」


「……有理?」


「勝利……?」




 知り合いじゃねぇ!! モロ幼なじみ! 我が心の友だ!!


 境勝利。幼稚園から高校まで同じの腐れ縁で、わたしと一緒に腐に目覚め、それ以降同じカップリングにハマり続けたわたしの一番の腐レンド。


 他の腐女子友達以上に仲良かった。


 まさか、まさか! 勝利と異世界で再会するとは!!




「お前wwwwかよwww道理でwwwwていうかお前が妖精とかwwwww擬態上手すぎwwww」


「気付いた時にはww美人で優雅な令嬢が板付いていたんだよwww」


「自分で言うなwwwヒーwwwヒー……」




 おや? 勝利の様子が……?


 へ? ちょ、なんか泣いているんですけど!? 笑ったままボロボロと泣いているんですけど!?




「ちょ、おま! なんで泣いているの!?」




 勝利が泣いたところなんて、見たこと……いや、アニメ漫画小説以外で泣いたところを見たことがないからびっくりよ!?




「うるせー……お前が言うなぁ~……」




 悪態ついても涙が止まらない。わたわたしていると、小さな声が聞こえた。




「勝手に死にやがって……俺がどんだけ……」




 ああ、そっか。その言葉で腑に落ちた。


 そういえばわたし、コイツよりも先に死んだんだ。コイツがいつ死んだのか知らないけど、わたしが死んですごく辛い思いをしたんだな。


 わたしが勝利の立場だったら泣くわ。うん、たしかにお前が言うなだな。




「うん。ごめんね」


「謝って済んだら警察いらねぇよ……」


「うん。悪かった。ライリッヒ×アヒムの漫画、描いてやるから泣き止み?」


「え、マジで?」


「立ち直るのはえぇ!」




 ぴたっと泣き止みやがった! コイツも相変わらず歪みねぇな!


 ちまみにライリッヒとアヒムは実在の人物で同学年でもある。幼なじみで、仲は険悪だけど、お互いに気にしているのがバレバレなんだよおおお! 仲直りしたいっていうオーラがね! おっと、失礼。


 まあ、泣き止んでよかったよ。


 ん……? あれ?


 わたしは気付いた。




 コイツ……理想なんじゃね?


 理想というのは婚約者の件。


 わたしの趣味を理解し、恋愛についても大して興味がない。浮気する心配もない。浮気する時間があるなら、BLを愛でるのがコイツだ。


 侯爵って言っていたから、身分も問題ない。三男って言っていたから、無理に子供を作らなくても大して問題じゃない。話も分かる。


 そして何より、コイツと一緒は楽だ。擬態しなくてもいいし。




「なぁ、メルたんや」


「なんだいヴィオたんや」


「おぬし、わたしの婚約者にならんかね?」




 勝利改め、メルヒオルが目を見開く。けどすぐに、にやりと笑ってみせた。




「ほう。つまり、コンラッド氏に立ちはだかる壁になれというわけですな」


「さすが。話が早い」


「婚約の先は結婚が待っているわけですが、俺と結婚しても問題ないかね?」


「大丈夫だ、問題ない」


「うむ、では父と母に話してみようかね」


「おなしゃす」




 熱く握手を交わす。


 この後、わたしとメルヒオルはそれぞれの両親に話をつけ、あっさりと婚約が成立したのだった。


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