第3話 お呼びじゃねぇよ!!
そんなこんなで、現在十六歳のわたし。
わたしは今、貴族や商家の子たちが通うムーランス学園の生徒として、潜り込んでいるなう。
え? 記憶が戻ってからどう行動したかって?
簡潔に説明すると。
あの後、こっそり侍女に頼んだBL小説を読んでいたら、母君が登場!
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「本当に読んでいるとは……ついてきなさい」と無理矢理連行される。オワタ、とわたしガグブル。
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母君の部屋に行き、本棚に案内される。そこには大量のBL小説が!
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母君が同胞と発覚。好きに読みなさい、と有り難いお言葉を貰った。
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この人なら分かってくれるに違いない、と、将来はこういう本を出版したいの、とスケッチブックで拙い漫画を見せる。
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母君「よし、協力しよう。ただし、あなたが先駆けとなりなさい」と、漫画界の第一人者になることを条件に出し、わたし承諾。
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かつて絵描きだったことの意地で、画力を高めるため絵を描き続けた。
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その際、漫画を描くための原稿、ペン、トーン、カッターを発明させる。そして印刷技術の発展に貢献した。
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重なる苦労と試練の果てに、ついに漫画を形にした。母の名の下に設立された出版社から、世界初めての漫画を発行。
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バカ売れ。漫画家を目指す人が平民、貴族に関わらず殺到。わたしが講師になって、教室を開く。
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そして、メジャーなジャンルに昇格。
だいたいこんな感じ。
ほぼお母様のおかげです。持つべきものは理解のある身内ね。
さて、漫画界の第一人者であり漫画家なわたしだけど、学園では正体を隠している。
講師の時は、仮面をしたり髪を染めたりしてヴィオレット・オルタンスであることを隠した。
隠す理由は一つ!
腐女子は表立って出るもんじゃない!
と、いうわけでわたしが漫画界の第一人者『ユーリ・アサノ』と知っているのは学園内で二人しかいない。一人は弟だけど、中等部だから気にしない。
「ねぇ、ヴィオレット様はどなたが格好良いと思いますか?」
と、おっといけない。トリップしている場合じゃなかった。
今は高等部の入学パーティーの真っ最中だった。
この学園は中等部までは男女別々だけど、高等部になると男女共学になる。だったらはじめから共学にしろよ、という話だ。
最近まで同性しか接していなかったせいか、みんな少し浮きだっているみたいだ。
まあ、わたしは前世二十七歳の記憶があるから浮かれてはいない。辟易はしているけど。
「そうですね~……あ、リトラン子爵令嬢と踊っている方がいいですわね。将来性がありそう」
「さすが、お目が高いですわ。あの方、サリス伯爵家の長男で、とても優秀な方らしいですわ」
「ワタクシはあそこの壁にもたれ掛かっている方がいいですわ」
「あの方のこと知っていますわ。婚約者はいないはずですから、ずいずいと行ってきなさいな!」
「そんな、恥ずかしいですわ!」
きゃいきゃい、とはやし立てる友人らから目を逸らし、なんか男同士でハプニング起こっていないかな、とぐるりと辺りを見渡す。
ちらほら、イケメンがいるようだ。
青年×ショタも大好きだが、イケメン同士も好きだし、イケメン×平凡も捨てがたい。ていうか、そういったのはほぼ関係なく運命系ホモはいねぇかなぁ。
わたしは偏食だが、運命系には弱い。攻めが暗い過去があって、それを受けが救いあげてくれるようなシチュ。つまりは、お前だけが俺に光を与えてくれたんだ系ホモが大好物なんです!
わたしの腐女子心を潤してくれる、ホモはどこかにいないかなー! 今まで男しかいなかったんだから、男同士のカップルがいてもおかしくないでしょ!
前世でも男子校で彼氏できたっていう生徒いたし! 先生から聞いたよ!
ん? あそこにやけにイケメン男子がいるな。
綺麗な金色の髪に碧眼。あれだ、よく王子様キャラクターにいるような、有り得ないくらいのイケメンだ。眩しいイケメンだ。
「あ、コンラッド様よ!」
「まあ、あれがそうなのですか?」
マリオン・コンラッド。名門のコンラッド家の長男で、父親は伯爵。
女遊びが激しくて、なんでも五股したとかで令嬢同士で争いが勃発したとか。
しかも未亡人にも手出しているとか。人妻には手を出していないとかなんとか。ま、信用できない噂だけど。
見た目はああだけど、ロクな男じゃない。
「噂はともかくとして、見目麗しい方ですわ~」
「あの方なら、遊びでも許してしまうそうですわ」
うっとりする友二人に、内心ケッと反吐を出す。
「そうですか? わたしは浮気する男は絶対にごめんですわ」
「ヴィオレット様は誠実な方がお好きなのですか?」
「ええ。見た目が悪くてもいいから、浮気をしない方がよろしいですわ」
アイツみたいな輩はもうゴメンだわ。愛がなくてもいいから、他の女のところには行かない人がいい。わたしの仕事と趣味を理解してくれる人なら尚良し。
あー。久々にアイツのことを思い出したから、ムシャクシャしてきた!
「ちょっと喉が渇いたので、飲み物を取ってきますわ」
友人たちに会釈をして、その場を離れる。
嫌いじゃないけど、あの子たちと一緒にいると喋り方に気をつけないといけないから、気が張るのよね。
さて、いい具合に離れたことだし、飲み物取ってくるついでに、このムシャクシャが治まるまでどっかブラブラでもしておこうかな。
そう決めて、ウエイターさんを探す。
探していると、ふとコンラッドと目が合った。
相手は目を見開き、わたしを凝視する。
どこかで会ったかしら? うん、やっぱり見覚えがない。
なにがともあれ、あんな奴と関わるのはごめんこうむりたいわね。くわばらくわばら。
視線を逸らし、相手の視界から消える。相手の姿が見えなくなって、とりあえず安心。
よし、改めてウエイターさんを探そう。
歩きだそうとしたら、手首を掴まれた。
振り返ると、コンラッドがいた。
何故にわたしの手首を捕まっているんだ。訳わかめ。
コンラッドはわたしを見据える。その視線を返すと、コンラッドが顔を赤らめた。
うお……? なんだい、この状況。なんでこうなっているんだ。わたし、こやつと面識ないぞ?
「あの、どうかされました?」
離してほしくて声をかける。
すると、さらに顔を真っ赤にさせた。なぜに?
「あ、あの! お名前を!」
「相手に名を聞く前に、自分の名前を言ったらどうかしら?」
「し、失礼しました、私、マリオン・コンラッドと申します」
「ヴィオレット・オルタンスですわ」
「貴女があの、オルタンスの妖精……通りで美しいわけだ」
「あら、ありがとうございます」
にこやかにお礼を言う。妖精とかwww
自分で言うのもあれだが、こんな腐った妖精嫌だよぅwww
「ところで、手を離してはくれませんか?」
周りの視線が痛い。はよ解放せんかい。
「その前に私の話を聞いてくれませんか?」
「あら、なんでしょう?」
はよ話せ。私は目立つのは好かんのだ。
腐りし者は、影に潜むものなのだよ。
次にコンラッドが発した言葉に、背筋が凍り付いた。
「私、マリオン・コンラッドは貴女の美しいお姿に心を奪われました! 私と結婚してください!」
…………ワット?
いや、ワッツ?
どちらでもいい。
は? 大勢の前でなにプロポーズしているの? この若造。
「だが断る!!」
そう大声で断ったわたしは悪くない。
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