死の商人
その商人は高い城壁の中で永遠と巨人を造り続けていた。鉄と炎で作られた巨人は城から外へと送り出され、必要な場所で相応の働きをする。しかし不可思議なことに、その巨人を作る商人はそれがなんの目的のために使われるか一切情報を得ていなかった。
今日も壁を乗り越え二本の巨大な足が都市の半分を覆うほどの影を落としていく。
「あいつ、動き鈍いな。まぁ安物の鋼鉄だから仕方ないか」
都市の中央に構えられた三角錐の屋根から黒い外套を纏った男が言った。都市の者たちはみなそれが当たり前の風景のように、むしろそれを嬉々とした表情で見守っていた。この都市に攻め込むものなどいない。そうとなれば全ての巨人が敵になるからだ。
「ごきげんよう」
高飛車な声色で一人の少女が車椅子に座りながら商人に話しかけた。後ろには彼女の従者が一人付き添っている。青いドレスにリボンを着飾ったいかにも裕福そうな少女は得意げに商人に小切手を見せびらかす。
「巨人を作っていただきたいの。約五十体ほど。我が国は良質な鉄鉱石の産出国。決して貴方にも悪い話ではなくってよ」
「うーん」
商人は考える素振りをしながら葉巻に火を点ける。
「アンタが気に食わない」
「は?」
少女は間の抜けた声で前のめりになる。
「鉄鉱石は欲しい。五十体も十分作れる。金も申し分ない。だがアンタがダメだ」
「なんですって?」
「俺は自分の好きで巨人を作ってる。それが何に利用されようが俺の知ったことじゃないが、アンタは自分の好きで俺を拘束しようとしてる。それじゃ割に合わないよな?」
「私に一体何の不満があるというの?わざわざこちらから出向いて謝礼も出すというのに、その態度は何様のつもりなのかしら!?」
商人は煙を吹き、少女にゆっくりと向き直る。モクモクとたちこめる白煙の背後から、黒い鉄の塊がゆっくりと天を覆っていく。商人と少女をすっぽりと影で包み込んで。巨人の手が屋根を鷲掴みにし、少女を正面から睨みつけるとたまらず少女は車椅子から転げ落ちてしまった。
「この巨人たちは試作機なんだよ。こいつらがいるお陰で国々が無益な争いをやめ、不自由な暮らしをしないで済むかどうかの。だから誰か個人の目的でこいつらを動かすつもりはない。だから、アンタはお断りだ」
少女は手を震わせながら商人を指差す。
「そ、そんなことを言って!あなたこそ巨人を意のままにしているのではなくって!?あなたが一度命令を下せば、巨人たちが一斉に攻撃してくるに違いありませんわ!あなたこそ、平和を脅かす存在よっ!」
商人は少し黙った後、片方しかない目で少女を睨みつけた。
「言いたいことはそれだけか?」
巨人がもう片方の腕を振るいあげ、鉄の指を丸め拳を形作る。そうなると少女は手足をバタつかせて従者に撤退するよう叫んだ。
「死の商人め!覚えておきなさいっ!」
少女らが商人の工房から逃げ出していくと、あたりは再び風と巨人の軋む音だけとなった。
「……俺には丁度いい名前だ。行ってこい、巨人。世界に恐怖と平和をもたらせ」
END
エトセトラ シャロウズ @Shallows9
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