二人はマスラオ

「なぁ兄者よ。何故ワシらは槍を構えて突貫せねばならない?」


 自分と瓜二つの、全身を鎧で包んだ大男が尋ねる。


「さぁな。だがワシらにできるのはそれくらいだからなぁ」

「やぁ、獲物がきたぞい!」

「ぬおぉおっ!」


 二人の通る後に敵兵が無残にも散っていく。


「なぁ兄者よ。少し芸がないとは思わないか?」

「芸?」

「いちいち槍で突き倒すだけじゃあ敵も飽きるだろう」

「そうかそうか、じゃあ……」

「やれきおったぞい!」

「ほぉぉおおっ!」


 二人は背中合わせに両手で大槍をぶんぶんと振り回す。すると敵兵もぶんぶんとあちらこちらに跳ね飛ばされていく。


「今のは少しよかった」

「だが弟よ、少しインパクトが足りぬ」

「うーん、それじゃあ……」

「ほいおでましだ!」

「きぇぇええっ!」


 弟が槍を地面に投げつけ、兄がその上に飛び乗り、二本の槍で敵を叩きつける。それだけで地面もろとも敵もぺしゃんこになってしまった。


「ふぅ。なぁ兄者。ワシらはなんでこうも楽しく戦うのだろうか」

「何」

「虚しくはないだろうか。わしらのお陰で大勢の人が死んでいく」

「馬鹿者っ」

「痛いっ!」


 兄は初めて弟を殴りつける。弟が倒れ込むと木々に止まっていた鳥たちが一斉に飛び出していった。


「そんなこと言ったら俺まで悲しくなるだろう!」

「ごめん兄者!俺が悪かった!」

「いや弟よ、俺もわかっていたのだ。だがそんなこと考えて何になる?腹でも膨れるのか?それより、ほうれ。また性懲りもなくきおったぞ」


 兄弟をぐるりと囲んで一個師団に匹敵する軍隊が集結してきていた。鳴り響く足音の最中で、兄弟は勇壮に槍を構える。


「きっと奴らは、ワシらのことが大好きなのだ!その思いに答えられずして、エルディアの戦士を名乗れようか!」

「そうとも兄者!ワシらは二人合わせて戦場の花形、マスラオじゃあ!」

(マスラオ!?)

「くわぁぁあああっ!」

「ぶるわぁぁあああっ!」


 二人の雄たけびが轟き、鋼の打ち合う音が戦場で奏でられる。その音は三日三晩続いたそうな。


「えぇ、首尾よく運んでいます。あの馬鹿共が暴れていれば、自然と兵力が分断されますから」

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