枝集め

 今日も今日とて、少女は枝を拾います。何の足しになるのかはわかりません。おばあさんと二人暮らし。ただただ健気に少女は枝を拾います。


「森中枝を集めるのは大変だ。私も手伝おう」


 親切な猟師がある日、少女に手伝いを申し出ました。少女は赤い頭巾を揺らしながら、かすれた声で応えます。


「いいえ、これは私の役目なのです。親切な猟師さん、この森にはあまり近付かない方がいいですよ」


 猟師は仕方なくその日は諦めました。しかし二日三日経っても、少女は健気に枝を集めているのです。


「お嬢さん、どうしてそんなに枝ばかり集めるんだい?私でよければ力になろう」


 赤い頭巾が左右に揺れます。


「いいえ、猟師さん。これは私が好きでやっていることなのです。今日はお引き取りください」


「しかし、あまりに不憫だ。放っておけないよ」


 そこで初めて、赤い頭巾の揺れが収まります。


「この森には、貴方のような親切な人ばかりがやってきます。私が枝を集めていると、それを心配して手伝ってくれる。……では、猟師さん、枝を集めて家にいらっしゃってください」


 猟師は喜んで枝集めを手伝います。赤い頭巾に隠れた少女の顔は、蝋で作られた様な白い肌に小麦色の髪が垂れかかり、それは美しいものでした。

 

 猟師は少女とともに森深くの小屋までやってきました。あたりには赤い葉をつけた木々が鬱蒼うっそうと生い茂り、帰り道がわからなくなるほど一面同じ景色でした。


「私はずっとこの森で暮らしていますが」


 小屋に入るなり、少女は頭巾を脱ぎ、木綿の上着だけの姿になると、そのたおやかな体つきに猟師は目を釘付けにされます。


「ここには枝と木々があるばかり。どうしてこんな場所にまで、猟師さんはいらっしゃったのですか」


 猟師は立ち上がり、唾を飲み込みながら少女の眼前にまで歩み寄ります。


「それは、やめたほうがいいですよ」


 少女は上着をはだけさせ、その柔肌が猟師の目に触れるようわざと見せつけます。


「美しいでしょう?その手で、自分のものにしたいでしょう?でも、そうしてこの森には美しいものが集まるんです」


 猟師はその時、小屋の中が様々な赤色の調度品や、水晶などのきらびやかなもので彩られていることに気付きます。


「これは」

「私のおばあさんの趣味です。ここにはそういうものしかありません。そうして森はどんどん色づいていくのです」


 そして少女は椅子に座り込み、残念そうな顔で俯きました。


「私はただ、普通の暮らしがしたかった。枝を集めるのだって、好きでやっていたことなのに」


 猟師はそこでただならぬ事情をくみ取り、少女の両手に手を重ねました。


「お嬢さん、この森を出ましょう。大丈夫、私が貴方を守ります」


「いいえ、猟師さん。私はこの森を出られません。きっと、あなたも今、森を出られなくなった」

 

 すると突然、けたたましく扉を叩く音が鳴り、外の木々が人知れずざわつき始めます。何事かと猟師が立ち上がろうとすると、少女は一筋の涙を流しました。


「私は枝を集めることしかできない。それがとむらいだから。猟師さん、貴方は――」


 少女が言い終わる前に、猟師は気を失いました。


 こうして森はどんどん、赤く色づいていくのです。

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