エトセトラ

シャロウズ

アレとの戦い

 高く昇っていく照明弾を見つめる。戦いは終わったのだ。片手に握ったハンドガンを下ろし、青年は空を見上げた。

 

 都市機能は停止し、人々がシェルターの中でアレから隠れ住むようになってから五十年。もう戦っている理由などどうでもよくなるほど、人間は人間をやめていた。


 アレは人間にしか見えない。人それぞれ、異なる姿で現れ、人を惑わし、そして気付くと消えている。それがいつから現れ始めたのか、誰も正確に記憶していない。


 俺の目の前には、俺の妹が倒れている。先ほど俺が撃ち殺したのだ。俺は妹こそが、この変異の元凶なのだと気づいていた。妹は俺の家族を殺した。あんなに優しかった子が銃を家族に向けるなんて、信じられなかった。

 

「どうして」


 目の前で聞き慣れた声が聞こえた。それは妹とは似ても似つかない、俺の上官の声だった。


「あと、一歩だったのに……」

「もう見た目になんて惑わされない。お前たちは負けたんだ」

 

 上官は息絶える。金髪のショートヘアーが美しい大人の女性だった。最後まで俺の愛する者の姿をとるとは、よほどこの怪物は人間が憎いらしい。


「あと一歩だったのに」


 聞き慣れた声が聞こえた。背後を振り返ると、妹によく似た少女がそこに立っていた。


「これで貴方は人類最後の一人だけど、どうする?まだ私と戦う?まぁ私なんていないんだけど」


 少女は懐かしい笑みを浮かべると、砂浜に打ち寄せる波とともに煙となって消えていった。


 照明弾が、海岸線に消えていく。

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