決戦アキハバラ

 あたしは、横断歩道の手前から信号を見上げた。その向こうに建っているビルが、オーディション会場。

 ゴクリとのどが鳴った。横断歩道の前で立ち止まったあたしを、次々と人が抜かしていく。

 頭をポンと、後ろから叩かれた。

「ぴょえっ!」

「変な声出すなよ! ぐずぐずせずにとっとと行け」

「な、なんだよー、赤じゃんっ!」

「今日は歩行者天国だから、信号関係ないんだよ」

「しってるよっ!」

 浩司に言われるまでもない。周り見たら誰でもわかることだもん。

 あたしは改めて会場のビルを見上げた。

 秋葉原にある、大きめのイベントホール。前の大きな道は歩行者であふれている。あたしと同じくらいの子もいっぱい歩いてて、そのひとたちがみんなオーディションを受けに来てるように見える。

 あ、だめだ。また足が震えてきた。

「茉那ちゃん、足震えてるよ?」

 《美冬|みっふぃ》があたしの足を指さした。

「うううっさいな、ビ、ビビってないよ!」

「《美冬|みっふぃ》、そんなことゆってないけど……」

 うしろでおねえちゃんが吹き出して、振り返ったあたしと目が逢った。おねえちゃんは口元に手を当てて咳払いをした。あっきらかにごまかしてる。

 おねえちゃん、わらったなーっ!

「武者震いよね、茉那」

 ぽんぽん、とおねえちゃんはあたしの頭を叩く。

 ふーんだ。拗ねてやる。

「ほら、時間なくなるよ。早く行こ」

 おねえちゃんが、あたしの背中を押して歩く。

 肩にかけたバッグのひもをギュッと握る。バッグの中には、りさ姉の衣装が入ってる。

 はらたつー。あたしにはりさ姉がいるもん。もう、ぜったい受かってやるっ!

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