復活のステージ衣装
「ダンスだけ!? しかも顔出ししないの!?」
「お前、昨日何聞いてたんだよ!」
あっ、そういえば、
「え、ロイドルからアイドルになる、とかそういうのは、ないの!?」
「それはわからないけど……なんだよ、お前アイドルになりたいの?」
ストレートに聞かれて、あたしはグッと詰まる。
「なにさ。悪い?」
あたしは開き直って胸を張る。本当にそうなんだから、別に隠す必要なんかない。
だけど、浩司は僅かに、苦いものを舐めたような顔をした。一方で
「茉那ちゃんアイドルになるの!?」
「そうなれたらいいな、と思ってるだけだよ」
照れくさくて、すこし弱い言い方を選んでしまう。まあでも、あたしの中では、りさ姉のようなアイドルになる、という気持ちは既に揺るぎないものだけど。
「茉那、お前、りさ姉のこと――」
あたしは、黙って浩司を見る。
りさ姉が行方不明になったとき、美冬はまだ赤ちゃんだったから、あの時の騒ぎはきっと覚えていない。けど、あたしと浩司には、当然生々しく記憶が残っている。
だからこそ、あたしがアイドルになる、というその意味を、浩司は多分、おねえちゃんと同じくらい、重い意味を持って理解していると思う。
「――わかった」
浩司は立ち上げって、ポケットから鍵を出した。
「なら俺も、お前に話がしやすい。ついてきてくれ」
浩司の声に真剣さが宿っていて、部屋にすこしの緊張感が漂った。
「美冬、お前はここに居ろ。ついてくんな」
「えっ、やだ。美冬も行きたい」
「ダメだ!」
いつになく強い口調に、美冬がとたんに涙目になる。
あたしは美冬を抱きしめて、
「いいじゃん、浩司、連れて行ってあげよ」
「でも――」
「あたしがいい、ってゆってるんだから」
浩司は少しの間、迷った後、
「美冬、ぜったい誰にも言うなよ。約束しろよな」
美冬は涙目で、拗ねたような顔をしていたけど、無言で頷いた。
☆
「浩司、ココって……」
あたしが声を出すと、浩司は無言で口の前に人差し指を立てながら、部屋の鍵を開けた。
あたしはドアにかかっている、『りさの部屋』と書かれたボードを見た。明らかに、勝手に入っていい場所じゃないと思う。
「こーちゃん、ここ、勝手に入っちゃダメってつき姉ちゃんがいつもいってる部屋じゃないの?」
美冬がこそっと小声でしゃべる。
「だから、ぜったい秘密だって言ってるだろ」
浩司は音を立てないようドアを開け、するっと中に入ると、中から手招きをする。
いいのかな、ほんとに、と戸惑うものの、浩司の「早く!」とせき立てる声に押されるように、あたしと美冬も中に入った。
浩司は慎重にドアを閉めて、元通り鍵をかけ直す。中に入ると、浩司はまるで手慣れた泥棒のように、一目散にクローゼットに駆けより、中を探りはじめた。
「ちょっと、浩司! りさ姉の物を勝手に触っちゃ――」
声をかける間もなく、浩司は一着の服を取り出し、あたしに突きつけた。
あたしは息を呑む。これは――
フラッシュバックが起こる。様々な色のライトがステージを交錯する。押し寄せるような熱気を押し返すかのごとく、圧倒的なパフォーマンスを繰り広げる7人。
あたしは、ちっちゃかったあたしは、二階の特別席から、《それ|傍点》を着たりさ姉を見ていた。
間違いない。りさ姉の、ファーストライブの、衣装だ。
「うわぁ、かわいい服!」
美冬の声で、我に返った。見ると、浩司の差し出した服を、興味津々で食い入るように見つめている。
「そ、そんなもの、どうするの」
「サイズは合うか?」
「え?」
あたしはおそるおそる受けとって、服をあててみる。
「大丈夫っぽい」
すごい。あの時に見た衣装が、今の自分にはぴったりと合う。
ライブの後、ファンとの交流会みたいな場で、あたしはりさ姉と写真を撮ってもらった。そのときの写真は宝物として、あたしの机の中に入れてある。緊張したあたしの顔と、そばに寄り添うように座ってくれているりさ姉。写真のりさ姉は、いつも笑っていた。
「これを、どうするの?」
「今のお前には、それを着る資格があると思う。それを着て、オーディションに出よう。そして受かるんだ。その先に、きっとりさ姉と繋がる何かがある」
胸が高鳴る。
あたしが、これを、着る。そして、りさ姉と繋がる。
あたしは、意思をこめて、頷いた。
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