In My Dream

 部屋に戻ったあたしは、VR/AR兼用デバイススマートグラスをかけてVR空間にログオンした。

 ベッドに座って、VRメッセージツールVLINEジェスチャーで呼び出起動した。友達リストから浩司を選んでメッセージを送る。

【浩司、起きてる?】

 まあ、夜の9時過ぎだし、まだ起きてると思うけど。あ、既読付いた。すぐに、なんだよ、というスタンプがポップアップす帰ってくる。

 

 ほんとに、やるって言っちゃっていいの?


 ベッドに倒れ込んで、視界からVLINEのメッセージ画面を消した。VRパーソナルスペースマイルームの天井が見える。

 あたしの中に、動き出すことへの恐怖感がまだ残ってる。

 もちろん、オーディションだから決まるかどうかはわかんない。とはいえ、本当に決まったら、家のこともある。おねえちゃんのこともある。でも、りさ姉に近づきたいという気持ちもまた、あたしの中で確かにある。

 ポーン、と音がした。首だけ上げると、二つ目のスタンプがポップアップしている。早く言え、と言ってる。

 あたしは、意を決して、体を起こした。

【さっきの話】

【やってみようと思うんだけど】

 返事を待った。

 ドキドキと、音を立てて胸が鳴る。

 ややあって、[マジで?]という返事が返ってくる。

【うん】

[いいのかよ、家のことは]

【おねえちゃんと相談した。いいって】

[そっか]

[でも、〆切明日だから

[申し込みは明日済ませないと]

 えっ、そんなギリギリな話だったの!?

 ちょっとちょっと、浩司、そのへんは先にゆってよ!

「とりあえず]

[明日朝うちに来てくれ]

 あたしはおっけーのスタンプを送って、マイスペースからログアウトした。スマートグラスをはずして、寝転がる。

 

 VR空間とは違う、白い天井。何にもない天井をじっと見ていると、ぼーっと昔見たりさ姉のステージがぼんやりと浮かび上がってきた。


 やばい。ドキドキしてきた。


 行方不明になってもうずいぶん経つ。それにもかかわらず、こんなにはっきりとりさ姉のはまだあたしの中にいる。


 りさ姉になれる。あれほど憧れた、あのりさ姉になれる。たぶん、きっと。

 だってほら、目に、耳に、しっかりと焼き付いている。りさ姉のかっこいいダンス、心地よい歌声。あたしは、もしかしたら、それを再現するために生まれてきたんじゃないかな。

 ううん、きっとそう。


 だから、あたしは、ゼッタイりさ姉になれる。

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