第31話 Enjoy New Projects
俊樹が四葉記念病院から戻ると、望と洋平は、今日指名を受けた西島テックのグローバルリスクマネジメントプログラム更新プロジェクトの管理プランを打ち合わせていた。奈緒はRITSのBCPプロジェクトについて高木課長から夕方送られてきたRITS社内での検討中間報告と質問リストについて整理し、浩一にアドバイスをもらっている。純平は、コンサルティングチームの高橋とRITSのグローバルソリューションについて、保険会社から来ている質問リストへの対応を話し合っている最中だ。
真一が週一回のRITSからの帰社で樹に報告をしている。和広は、第一帝都銀行から新規に送られてきた、新潟火力発電所の融資に関わるリスクコンサルティングの入札要項を確認しているようだ。
俊樹は、オフィススペースに入りデスクについてPCが再起動する間に全体の状況を摑み、何もなければ、浩一から奈緒の相談を引き継ごうと思った。
PCが立ち上がり、メールを開く。大半は帰社途中にiPhoneで対応を終えてきたが、1件、萱場自動車のリスクマネジメント部の平野部長から新規メールが来ている。
「ビルフォーレンジャパン
竹内部長殿
本日は、貴重なプレゼンテーションをありがとうございました。
この件は、部内で検討して引き続き貴社と打ち合わせたいと考えております。
よろしくお願いします。
ところで、メールを差し上げた本題は以下の件です。
方策についてアドバイスを頂けないでしょうか。
内容やご対応如何では、事後になりますが、コンサルティングフィーなども検討させて頂きます。
=事案=
・メキシコのジョイントベンチャー(51%出資)の発電事業会社が税務当局から税金未払いで訴えられた。
・あと14日のうちに過去に遡って32億円を支払わなければ会社が差し押さえられる。
・詳細は添付のドキュメントをご参照下さい。
・本件は、海外事業本部米州部が管轄しており、現地法人の経営層の日本人と経理部門が担当。また、NYの北米部長が担当地域マターとして間に入っている。
萱場自動車 平野」
「もしもし、ビルフォーレンジャパンの竹内と申します。お世話になっております。遅くに恐縮です。平野部長はいらっしゃいますでしょうか。
、、、
平野部長。今、メールを拝見しました。
早速ですが、本件、対応策としては、裁判所にSecurity Bondを差し入れることで、期限の延長を認めさせることがまずやるべきことだと考えます。Bondは銀行、セキュリティ専門会社、保険会社などから取得することができますが、まず間違いなく、ご本社の保証が必要になります。差し入れ後には、事実関係の調査や、最悪の場合には、当局相手に訴訟も必要になるかもしれません。
この辺りの対応で、最大の課題は、御社グループ内での決裁及び実務の指揮命令系統と役割分担の明確化です。最終的には、ご本社決裁事項の規模になられると思いますが、如何でしょうか。、、、それであれば、Bondにご本社の保証も必要ですし、コントロールは、メキシコ現地でもニューヨークでもなく、本社で仕切るべきだと思います。本社内では、北米部から役員会というルートが最上流となるということを現地に理解させなくてはいけません。バラバラに勝手な動きをすると、混乱をきたすだけです。リスクマネジメント部は、Security Bondの手配についての決裁権限を確保してください。現地、ニューヨーク、本邦、さらにそれぞれも一元化されていなければ、これだけ大きな件ですからBondの世界マーケット内で本件について混乱をきたして発行が遅れたり最善のRateは取れず数千万円をドブに捨てることにもなりかねません。15日間というのは普通で考えてもPlacementにはギリギリの時間です。ましてや、ゆったりしたメキシコですから。
とにかく、ASAPでこの2つの決裁ラインを確定して頂くことです。
弊社では、この種のケースでのBond手配経験もあります。今年になってから、私自身もメキシコの件を対応しています。ただし、Bond手配の決裁ラインをリスクマネジメント部か、少なくともどこかに一元化出来ない場合には、弊社は基本的に本件からドロップします。もしくは、少なくともエキストラでフィーを頂かないと対応はできません。御社グループともトラブルになる可能性がありますし、セキュリティマーケットでの信用失墜などの問題も抱え、なおかつ、期限内に対処することができなくなり、海外スタッフを含めタダ働きとならざる得なくなるリスクが大きいからです。
一方的に申し上げており、恐縮です。今の内容は、別途メールをさせて頂きますが、とにかく今は、決裁ラインを今夜中にも明確にしなくてはいけません。Bondの決裁ラインは決まり次第、私の携帯電話にご連絡を頂けますか。何時でも構いません。指名状のフォームも別途お送り致しますので、ご一報とともにこちらにサインさえ頂けましたら、すぐに動きますし、まずは、このあとすぐに関係先とは連携をして準備は開始しておきます。」
「竹内さん。ありがとうございます。とりあえず、概要は理解しました。すぐに動きましょう。時間がいかにタイトかもわかりましたし、あなたの的確なアドバイスと経験をもって、本件はうちから同業他社には救いを求めませんが、信じていいですね。、、、分かりました。一心同体でお願いします。」
今、メキシコシティは朝6時過ぎ、ニューヨークは7時過ぎ。連絡が取れるまでに少なくともあと1時間半。叩きおこすのは、このあとの動きに逆効果な規模と判断。とりあえず、樹に報告したいが、もう帰っているので、明朝の報告にする。
「Rateを0.5%、コミッションを25%、本邦シェアを50%として、ジャパンに650万円プラス本邦のコンサルティングフィー250万円、かな。
さぁ、コーヒー淹れて、1時間はNaoの相談、俺の件だし、Kouから引き継ぐか。。。」
同じ頃、四葉火災海上保険の7階会議室には、RITS案件継続・拡大のために各部門から集められたメンバーか揃っていた。スクリーンには、主要各国のスタッフも顔を揃えている。
「時間になりましたので、始めさせて頂きます。企業4部副部長の玉田です。お忙しい中お集まり頂きありがとうございます。これから1時間で、RITS Corporationのグローバルプログラムの継続獲得と拡大についてのプロジェクトキックオフをさせて頂きます。
本件の事務局は、企業4部2課の河合と下田が同本社の担当として務めていきます。っで、本プロジェクトのマネージャーは私がつかせて頂きます。
では、配布しております資料の2ページをご覧下さい。」
23時半を回ったが、まだ萱場自動車から連絡が来ないので、一旦、平野部長に状況確認の電話を入れた。部長もまだデスクで調整をしているところだという。あと30分で国際会議の予定で、前もって北米部との打ち合わせは済ませ、同じ目線になっているとのことだった。
「ありがとうがざいます。では、続報をお待ちします。」
俊樹は、直ぐにビルフォーレングループのメキシコとニューヨークにメールで一報を入れた。
周りを見回すと、だいぶ落ち着いて来たようで、洋平は帰宅の用意をしている。奈緒と純平は、真一をIndigo Blueに誘ってオフィスを出た。俊樹もデスク上を片付け、浩一と高橋を誘いIndigo Blueに3人を追い掛けた。
「俺は、この後また戻らんといけないかもしれない。萱場自動車から、短期集中の飛び道具のおもちゃが来てる。全部で8、900万円ぐらいのスポット案件なんだ。今夜中にも動きがあるかもしれないから。」
結局、午前3時まで平野部長からの連絡はなく、タクシーで帰宅し、明朝はいつも通りの時間で出社した。そして、いつも通り、PCのスイッチを入れ、リフレッシュルームでコーヒーを淹れ、1日が始まる。平野部長からメールが来ていないのはiPhoneで確認済みだ。まずは、部長への電話からスタートか。この件には和広に参加してもらうことにしよう。
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