第25話 Win the Games

俊樹は、昼食後のコーヒーを淹れた紙コップを手にオフィスのデスクに腰を下ろした。デスクの上は、いつもであれば、PCと電話と小物入れとペン立てが整然と置かれ、目先必要な数件のファイルが片隅に重ねられている。今は、キーボードの上に分厚いプレゼンテーション用のファイルがある。

「Jake


西島テックRFP案件、Rogerにフォロー頂き仕上げました。添付の内容で提出しようと思います。

レビューをお願いします。


今日、プレゼンテーションの日程も決まりました。うちは3番手です。体制につき別途相談をさせて下さい。


Nicole」

望は初PM(Project Manager) 案件ということで、頑張って予定よりも半日近く早く仕上げてきた。競合相手は、最もバッティングすることが多い米系EXCOと独系Bash。米系EXCOが現行の契約先である。

一通りチェックをしたが、構成も視点もなかなかいい。これであれば、十分に互角に闘えるだろう。

「Nicole。 Good job!いいんじゃない?提出は締め切りギリギリまで待つんだよ。何か動きがあるかもしれないから。っで、提出後はフォローアップしてね。その状況次第でプレゼンのメンバー決めたいね。海外からは最低誰を呼ぶ必要がある?、、、彼らはBookingしておいて。

Roger。さすが!Thank you!」

さぁ、今日はとにかくあと2件。クライアントからの問い合わせは次々電話があるが、それでも、萱場自動車への提案書とRITSのBCP(大規模災害時などの事業継続計画)コンサルティングの提案書の下準備は終えたい。

「Jake!安藤製作所からお電話です。」

考えている横から、すぐに別件の対応を求められる。。。



「Nicole、Roger。まずは、お疲れ様でした!乾杯!!」

いつものように、Indigo Blueで労いの会と銘打った宴席が始まった。2つの4人席に別の客がいるにもかかわらず、みんな、ほぼ定位置の席に散らばって座っている。

「Nicole。どうだった?一発目のPM(Project Manager)は。」

ビールジョッキを片手に浩一が問いかけた。

俊樹は、ジュークボックスに向かった。これはどうかなっと思いつつ、AsiaのHeat of the moment”をオーダーした。

「十分楽しみました。楽しめたから、得られたものも多かったです。保険会社にいた時には、自分のところのことしか分からなかったけど、こんなにいろんなソリューションがあるんですね。Rogerのおかげで仕事の進め方も分かったし。Rogerは凄いですねぇ。色々アドバイスをくれて、私が進めて、危なっかしいところは、サッと方向修正してくれたんで、ほんと、やりやすかったです。」

「Roger、Nicoleはベタ褒めじゃん。なんか手を回した?」

俊樹のからかいに、洋平は、少し照れながら答える。

「いやいや、JakeとKouの見る目はやっぱり凄いですよね。こんな素晴らしい人材を採用するんだから。頑張らないと、こっちもおちおちサボってられませんよ。はっはっ。」

さすがに、卒なく返された。

それにしても、ディビジョン内の人間関係や仕事のやり方が概ねうまく回りだしたのが何よりである。有機的にそれぞれの強みを発揮できているし、一人一人が生き生きしている。

今度は、浩一が純平を捉えた。

「Jimmy、Nicoleコンビはどう?」

「俺はちょっと楽させてもらってますね。保険会社出身者だと、保険会社のカルチャー分かってるから、どのキャリアと打ち合わせても、話が早い。やっぱり、俺も、Kouさん、Jakeさんの人を見る目、尊敬しますね。」

「Shinも素敵ですよ!」

奈緒が続ける。

「私、2つのプロジェクトでShinとコンビじゃないですか。これって、波長が合わなかったら最悪だし、ましてや2週間海外出張ご一緒頂いて。ほんと、自然によく気がつくんですよね。仕事早いし、相手をなんて言うことなくいつの間にか自分のフィールドに引き込んでる。私、自分がズボラだけど、まぁいいや、Shinさんいるから、って思えちゃう。ぅふっ。やっぱり凄い人を採ったと思います。」

みんな、ふむふむっと聞きながら、なんとなく浩一と司を見る。

「中堅、若手と違って、Timの場合、そんなの言うまでもない、っていうか、俺が言うのはおこがましいわ。シンガポールとの専門的なやりとり、電話会議では俺はほとんど聞いてるだけ、Timが余裕でリードしてくれて。俺はR社側のコントロールに専念できる。Shinもお客さん側にいてくれるから、非常にやりやすいね。このフォーメーション考えたの誰?Nao?ものすごい効果的だったね。おかげで、俺は別件も追いかけることができてる。」

「何より、何より。日々Enjoyして、成果あげて、組織を大きくして、儲けてっていう終わりのないゲームだから、これは。」

俊樹が締めた。っと、iPhoneにLINEのメッセージが入った。紫からだった。

「今日、駐車場出る時に、坂の上から来た自転車がぶつかってきた。 (車のフロントの写真) 自転車の人は吹っ飛んだけど、大丈夫だった。その人、そのまま行っちゃった。ご報告まで。」

俊樹は、読みながら店の外に出て、紫に電話する。 、、、留守電。取り敢えず店に戻り、荷物を持って急いで帰路に着いた。この一年で6回目の事故。5回目までは自損事故だったが、今回はやばいか。

帰って、問いただしたところで、言い訳と百合の意味不明の大声の援護でろくな話にはならないが、こればかりは放っておくわけにはいかない。22歳にもなってこの体たらくの娘、ここ母にしてこの子あり、である。

この2人は一蓮托生、あと5年なのである。

「あと5年も。あぁ。。。」

俊樹は、呟きながら電車を降り、家に向かった。

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