第24話 水平飛行

金曜日。Room ”Tokyo”の午後1時45分。腹に入った昼食もこなれ、西陽が差して睡魔が襲うこの時間、山田樹が、月に1度のディビジョンミーティングの内容の確認に入った。

「、、、ということで、ディレクター会議で指摘された点は、それぞれ対応を宜しく頼みます。

、っで、今は予算の行き足もいいので、まずは取りこぼしがないように。それと新しいパイプラインを増やしていかないと、この先苦しむことになるから、来月からトレース入れるので、これも宜しく。

さて、残りは、既存の大型案件の確認。

西島テックのRFPは、NicoleとRoger、あと2日半で締切だな。Roger、ナイスフォローって聞いてるけど、Nicole、なんかあるか?最後、Hiro、カバーに入れるか?、、、OK!

RITSは、まず、NaoとShin、世界一周出張、お疲れ様でした。体調は大丈夫?ShinはほとんどそのままRITSの社員になってるけど、グローバル リスクマネジメント戦略は巻き直せてる?Naoとしっかり連携して、宜しく。そろそろ、Henryのコンサルティングチームへの引き渡しを視野に入れて動き始めようか。

JimmyとNicoleのグローバルインシュアランスプログラム構築の件は?もうぼちぼち保険会社に正式なProposalを依頼をしないとまずいぞ。 、、、OK。じゃあ、来週中で。

そういえば、NaoとShinのコンビのもう1つ、ブラジルデューデリとリスクソリューションは?ニューヨークでTakashiと打ち合わせできた?基本はあっち主軸でしょ?

日本側は、2人でいいの?それとも、コンサルティングチームに引き渡す?、、、じゃあ、もう暫くこのままいこう。

さあ、KouとTim。債権回収プロジェクトはどう?これ、ロングタームだから、日常に組み込むしかないけど、取り敢えず見てる限りでは落ち着いてきたみたいだけど?

こいつは、コンサルティングチームに渡せないからなぁ。

、、、じゃあ、なんとか大丈夫そうかな?

最後、Jakeの海外Evacuation Planは?、、、わかった。Henryと打ち合わせてくれる?

っで、ボチボチこなれてきたから、Jakeの計画通り、BCP支援に入ろう。Shin、お客さん側の体制がないから、君が鍵だよ。入れそうかなぁ?、、、よし。それじゃあ、再来週めどでプレゼンに入る絵なんだな?、、、OK。」



店に入ると、俊樹には、少し冷えすぎているような気がした。JourneyのDon't stop beleivin”を聴いたのはいつ以来だろう。まだ暗闇が追いかけてくる途中の外とは別世界に思えた。Indigo Blueは、いつでも俊樹たちに仕事からの開放感を味わせてくれる。

「ミホちゃん、生2つとなんか軽くつまむもの、宜しく。」

取り敢えずオフィスを出る準備ができていた俊樹と純平は、一足先にここに来た。相変わらず、あと誰が来るかは来てみないと分からない。一番手前の4人テーブルに、3人のサラリーマンが陣取り、ジョッキビールを飲みながら談笑している。俊樹たちは、珍しく壁際の半円のガラステーブルを目指した。

「今日は、せっかく早いのに、”THL”は女子会ですよ。なんだかなぁ。」

「じゃ、女子会に乱入して来い。っはっは。んで、Jimmy達は最近どうなの?」

「えぇ。今週から一緒に暮らし始めましたよ。前の結婚でもそうでしたけど、一緒に住むと、今まで知らなかったことがいろいろあって面白いですね。洋服のたたみ方だったり、寝る前のストレッチだったり。」

「あぁ。うちではもうこれ以上は新しいことを知りたくもないけどな。知ってしまっても、ろくなことじゃない。アイロン掛けしなきゃいけないものがしまってある場所があるんだけど、こないだ偶然開けたら、ぐしゃぐしゃで、まるで汚いものを隠してるみたいだった。でも、春麗の家での新しい発見ってやつは楽しい。時には日本と中国の文化の違いだったりもするし。」

「へぇ。じゃ、もしかしたら、葵のこと以上に発見があるのかもしれませんね。」

ドアが開き、浩一や奈緒達4人が入ってきた。彼らは、カウンターと6人テーブルに散ったが、奈緒は定位置を俊樹達に取られ、少しふくれた顔を見せて、笑った。

俊樹は、カウンターの浩一の隣に移動し、奈緒に席を譲った。浩一は、マスターにバカルディホワイトのオンザロックとナッツを注文し、俊樹を見た。

「Jake。最近、Jimmyと仲がいいなぁ。なぜかは聞かんが、そろそろ俺にも紹介しろや。」

「誰をだ?Kouこそ、俺に紹介したい人がいるんじゃないのか?っはっはっは。」

今夜も、こうして、プライベートタイムが始まった。


純平のiPhoneから木琴のメロディのような着信音が鳴った。純平は、ちらっと表示を見て、隣の席の奈緒に一言言った後にドアの外に出て行った。

少しして、今度は俊樹のiPhoneがメールの着信を知らせた。外にいる純平からである。浩一から画面を隠しながら、メールを見る。

「Jake、


21時に四谷の”Haleiwa”に来て下さい。

ここは別々に出ましょう。


Jimmy」

前に1度だけJimmyと行ったスポーツバーが指定されていた。

「結局、俺の言った通りになった。。。」



「こっち!」

葵が手を振っている。

大音量で音楽が流れていて、どうにか声が聞き取れた。スポーツバーらしい大きなテレビ画面のある壁面のほぼ真正面。女性陣3人と玉田が8人掛けのカウンターテーブルにいる。珍しくボーイッシュな出で立ちが揃っている。由美香は、黒の七分袖のジャケットの中に白いブラウス姿で、開いた胸元にシルバーのネックレスが見える。黒のパンツスラックスにビジネスカジュアルなサンダル。ウェービーな髪を後ろに流している。葵は、白地に青っぽい縦縞のブラウスと明るいグレーのパンツの下に茶系のローファー。金色がかったカーリーヘアーと紺のイヤリングが明るい葵を一層華やかに見せている。いつも外では落ち着いた服装の春麗は、大きなパステル調の花を胸元にあしらった白いTシャツに、大きな石の連なるネックレスをして、スーパースキニーの薄い青のジーンズの下に淡いベージュのコンバーススニーカー。髪を後ろにまとめてクリップで束ねている。玉田も一旦帰ったようで、ポロシャツにスラックス。とにかく、純平のあのメール以外に情報がない中、スーツでここに来たのは場違いな気がした。

「おぅっ!女子会はどうだった?」

春麗と軽くハグしながら俊樹が聞いた。

「楽しかったわ!すぐそこの ”Green & Red”にタイ料理を食べに行ったの。辛かったけど美味しかった〜。」

「そりゃ良かったな。っで、二次会に俺たちをご招待か?

あっ、コロナビール、ひとつ。」

「そうよ。これからサッカー観戦。ワールドカップ予選のオーストラリア戦。9時半から。これ、うちで見ようって言ってたじゃない。」

「そうか、忘れてたよ。じゃあ、春麗が見たいって言ってこういう流れになったの?」

「そうなの。見れないってちょっと言ったら、もう、すぐに葵ちゃんがパッパッパッて、ここ予約して、Jimmyさんに連絡してくれて、由美香ちゃんが玉田さん呼び出して。

ねぇ?Jimmyさんは?」

相変わらず、微笑んだ目元がいい。

そういえば、だいぶ先に出たはずの純平がいない。9時20分を過ぎた頃に

彼はやっと、麻のジャケットにジーンズ姿で現れた。やはり自分のスーツ姿は場違いか。


試合は、1対0でかろうじて日本が勝った。

試合が終わり、それぞれ帰ることになった。俊樹と春麗は、タクシーで中目黒の春麗の部屋に向かった。今日も、帰る先は春麗のベッドである。

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