第19話 ブレイクスルー
「Nao、ちょっといい?」
俊樹は、奈緒をリフレッシュルームに呼び出し、モカブレンドを2つ淹れながら、話を切り出した。
「ぶっちゃけ、どうよ、RITSのプロジェクトとShinの役回りは。」
俊樹には、奈緒が最近仕事を楽しめていないように映っている。
「そうですねぇ。今は思うようにいかない時期ですかねぇ。Shinさんはいい感じですよ。そこは救われてます。でも、まだ相談に乗ってもらうところまではキャッチアップしてないですから。うん。」
話しながら、自分で納得している。というか、自分を納得させているという方が正しいようだ。このままでは、この多忙な中、精神的に参ってしまうことになりかねない。
「何と何と何がボトルネック?ジャパンのリソース、海外のリソース、RITSジャパン、RITS海外?スコープがぶれる?タイムラインコントロール?コミュニケーション?
予期せぬ横槍?いろいろあると思うけど。Naoが楽しく仕事するためにするべき対策を講じたいんだ。」
「えぇっとー。2つですかね。RITSジャパンのリソース不足。このせいで海外コントロールも効きにくいし、決裁が遅くなってます。
もう一つは、ビルフォーレンの海外コントロール。これは、私の力不足なのかと。」
「じゃあ、対策案は?」
「分かんないんです〜。ん〜。」
「今のNaoの環境とできるキャパシティ考えると、俺には3つ必要に思うなぁ。
Naoのいう一つ目。RITSは、今の課題だけでもリソースが足りなくて、人材募集かけてるけど、どういう人が本当に必要かもよくわかってない。だったら、うちからの出向者出したら?コントロールもきくし、彼らの内情も分かる。
二つ目、うちの海外コントロール。Naoは、夜中もだいぶ電話会議やってるよね。でも、きついんでしょ?主要どころ、行っておいでよ、リフレッシュも兼ねて。めいいっぱい彼らと話して、めいいっぱい遊んでおいでよ。旦那さんは大丈夫かなぁ?それなら、ニューヨーク、フランクフルト、シンガポール、上海かな。地球一周2週間コースぐらいで。RITS側にも会ってきたらいい。
3つ目は、Shinが相談相手になれるようにすることだな。一緒に海外回りしながら理解してもらうといい。で、帰国後、短期出向してもらう。出向が手続き的に難しかったら、派遣でも、常駐コンサルでもいい。最近のShinを見てて、やっぱりコンサルのバックボーンを持ってうちに来てるから、そういう動き方は慣れてるし、客のコントロールの仕方もわかってる。中に入ってもらうのがいいんじゃない?向こうでのShinの一部のロードはRITSの他のプロジェクトに振り向けることも考えるけど、その分をHiroにもう一歩入ってもらおうか?Shinが行けば、Kouの件でも役立つから、その分、Timの手を空けて、Hiroのオーバーフロー分を吸収してもらえないかな。あと3週間もすればNicoleのプロジェクトも一段落するし、手はまだある。
ゼロクリアで明日まで考えてみて教えてくれる?多少スケジュールが遅れてもいいから、スタックした状況を変えてNaoがEnjoyできる方法。
決まったら俺はすぐに動くから。」
そういえば、Nicoleの取り組んでる件、うちに来ればまたリソースが崩壊する。Royとの人員補強の交渉をJohnに始めてもらおう。
「Jake、もう一ついいですか?
高木課長から、海外大規模災害やテロの際の救出対策について検討しなくちゃいけないって昨日言われました。高木課長も手一杯なのに、フランスのテロをきっかけに、上から指示が下りてきたみたいです。」
「OK!俺が拾おう。
体制構築コンサルティングと保険かな?
Nao。いい関係を発展させていてくれてありがとう。君の功績は大きいよ。
この件は、最近ちょうど他で資料をまとめたところだから、転用がきく。」
RITSの状況の共有のためにもRoy-Richardの会食をまたセッティングするタイミングに来てるなぁ。その場で要員派遣も持ちかけるのがいいだろう。
俊樹は、One on One ミーティングのような形式ばった小さな会議を嫌う。仕事は生き物で、状況はどんどん変わる。2日後に1対1の面談などと言っていると、今の課題は致命的になっているかもしれないし、解消しているかもしれない。そんなものは、その場その場で解消し溜め込まないことである。そして、仕事を抱えないこと、追いかける環境を維持することでEnjoyしなければいけない。自分自身もそうだが、自分の関わるプロジェクトでは、全員がそうなければ、いい仕事を早期に仕上げることはできない。奈緒のようなサインは絶対に見逃してはいけないのである。
俊樹は、仕事とプライベートではこれができているが、家庭にいる時間が短くなりすぎている今、こうしたサインが見えず危険な状態にあると最近気になっている。
その頃、河合由美香は、純平と望のところに来ていた。
由美香は、損保の営業らしく、キチッとした出で立ちで、ミーティングルームに入っていった。整えたヘアーにはっきりした化粧で、黒のパンツスーツに紺のヒール。6人部屋の奥側の席を純平に勧められ、着席すると同時に、紺色のトートバッグからA4サイズのノートと、資料がぎっしりと詰まった青いファイルを机上に並べた。手前側に純平が腰掛けると、由美香よりも少し身長の小さな望がコーヒーを乗せたトレーと資料を不安定そうに持ちながら遅れて入ってきた。
「坂下さん、お久しぶりです〜!2年前のニューヨーク以来ですよね。その節はお世話になりました。ビルフォーレンさんにご入社になったって聞こえてきてましたよ。元気な会社にお入りになりましたね。お名刺、頂けますか?」
「河合さんと、こういう形でまた仕事ができるのは、本当に嬉しいです。いろいろと教えてください。」
「なんだ、知り合い?」
純平は、俊樹のことを慮って、距離感を迷った。
「純平さんは、私の親友の彼氏なの。」
「妙な取り合わせになりましたね。 っはっはっ。」
「ところで、RITSさんの件、45ヶ国分のリスク管理と保険の情報を集めるだけでも大変なのに、分析、提案までを3ヶ月でやり終えたんですか!ビルフォーレングループっていうのは、ハンパないですね!」
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