第2章 THL - Team Heavenly Life

第16話 補強

俊樹たちのこの3ヶ月ほどの忙しさのお祭り騒ぎもやっと終焉を迎えられそうである。今日、中途採用3名が着任した。これまで、ディビジョン全体が、日中は多忙を極め、会社に泊まりこんだり、少なくとも終電で帰れないことは日常茶飯事になっていたが、これで日常が戻ってきそうである。

浩一は、自分の大きな案件を抱えつつ、ビルフォーレンジャパンの全社取組銘柄となってるRITSの120億債権回収事案のPMをこなし、奈緒は、RITSの副担当業務として、リスクマネジメント部の窓口とブラジルの会社買収事案を進めている。純平は、数多い自分の顧客対応の上に、RITSのグローバルリスクマネジメントのコンサルティングのサブPMといいつつ、PMの俊樹が、主担当としてRITSの全体を統括している関係で、かなりの負担を強いられている。和広と洋平は、RITS関連の隙間を埋め、他の二人が全員のしわ寄せをシェアしてきた。やっと、これで分担先が増やせるが、どのように組み直すか、新戦力3名を見極めながら、ディビジョンディレクターの樹と、浩一、俊樹の3人で模索し始めたところである。

今日は、珍しく、樹もIndigo Blueに顔を出している。ディビジョンのメンバー全員が揃ったのは、10時を過ぎてからだったが、今日も貸切状態である。今は、誰が言うともなく、実質的な歓迎会の様相を呈していた。それぞれ、定位置のテーブルにつき、新たな3名も思い思いの席に着いた。着く席からも3名の性格が読める。

遅れてきた広和と洋平にビールグラスが届くと、純平が口を開いた。

「では、我がディビジョンディレクターのJohnこと山田樹様に一言そして乾杯の音頭をお願いします。」

「それじゃあ。

Jimmyも偉くなったなぁ。ははっ。

まだ上期も終わっていないが、おかげさまで今年はうれしい悲鳴ですが、数字的には順風で、3人に入ってもらって上乗せされた数字も含めて着地が見えてきそうです。来年の玉も、RITSのKouプロジェクトがあるし。

かといって、新たな戦力3名にゆっくりしてもらうには、業務量が極限状態で、即、中に入っていってもらうことになるので、宜しく。

とにかく、今夜は、Enjoy!乾杯!!」

浩一は俊樹の耳元でいう。

「やっぱり、今日もまた家には帰れないな。っはっはっは。」

「そして、俺は今日も春麗のところへ帰る、か。」

俊樹はつぶやいた。


新たに来た3人の自己紹介が始まった。基本的に、全員、新規の案件を獲得して売上を伸ばし、利益を上げることがミッション、役割である。とはいうものの、相手があることでもあるし、同じ企業でも深堀りすれば、新規の案件は出てくる。これに付随した業務も決して少なくはない。

1人目は、田中真二。44歳。他の外資系コンサルティング会社でプロデューサーと呼ばれる、これからと同じような仕事をしてきた。樹が早々にShinと呼び始めたので、恐らくこのままニックネームとして定着するのだろう。

2人目は、高橋司。最年長の52歳。外資系の保険ブローカー、保険会社で営業と国際クレームのポジションを経験している。彼はクリスチャンで、すでにTimというミドルネームを持っていた。

3人目は、坂下望。この場で年齢は言わなかったが、俊樹が受け取っている履歴書によると35歳。俊樹がいた日系保険会社の米国法人採用で11年間仕事をして、離婚を機に帰国したところだという。向こうでは、Nicoleと呼ばれていたそうだ。採用前に、玉田を通じて彼女について内々に情報収集をしたところでは、頭の回転が早く、明るく、顧客からも信頼が厚い。社内でも連携がうまい、といいところづくめだった。離婚の原因は、仕事に没頭し過ぎて家庭を疎かにしたことだと言われていた。

樹、浩一、俊樹の今の心配は、一気に3人入ったことで、今のディビジョンのいい雰囲気がどう変わるか、ということと、3人をどう配置してより有機的に動ける組織にするか、ということだ、いずれも前向きな心配であり、基本のEnjoyスタンスは変わらない。それぞれが気負わず活動できる環境を作っていく、というのが3人の合意事項になっている。


時計を見ると、2時を回っている。このところの異常な時間感覚そのままに今日を迎えている。3人は少なからず内心驚いていることだろう。

「それじゃあ、3人も初日からこれでは気の毒なので、ここら辺で今日は中締めにするよ。

では、グラスを持って!改めて宜しく!!

Jimmy、精算頼むな。3人は、今日はここまでにして帰ること。解散!」


「やっぱりこの時間になっちゃったよ。どうしようか。。。いいの?OK。それじゃあ、30分後ぐらいだな。後で。」

俊樹がドアを開けると、純平が電話をしているところだった。明らかに葵との電話である。純平は少し慌てた風だったが、俊樹は聞こえていなかったふりをした。すぐに浩一と樹が出てきた。純平に挨拶をして先に行こうとすると、純平も表通りまで一緒についてきた。浩一と樹はすぐに来たタクシーを捕まえた。

「じゃあ、6時間半後にまた。」

続いてもう一台来たので、俊樹は純平に勧めた。

「早く行かないと、30分で着かないぞ。じゃあ。」

言い終わらないうちに、俊樹は対抗4車線の道路を渡り、流れてきたタクシーに手を上げる。

「中目黒まで。」

俊樹は、運転手に告げるとiPhoneを取り出し、電話帳を開いたが、止めた。春麗にはIndigo Blueに入る前に、真夜中に行くことだけ伝えておいた。眠っているなら起こさないでおいてやろう。

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