第7話 予期せぬ展開。Enjoy !!

「もしもし。おはよう。どーも。」

「また、朝一から電話かい。ふふっ。今夜の会食のコンファーメーションということでよろしいでしょうか、玉田様。」

「YES、、、」

「そちらは、合計何人様になりますか?こちらは1人ですが。」

「3人だよ。俺と、ユミッキーとアオイちゃん。橘葵。ユミッキーの同期。揃って独身。合コンじゃないけどね。」

「ユミッキーってなんだよ。橘ってどんな子だっけ?ってか、合コンてのは、なんか懐かしい響きだね。ははっ。

じゃあ、予定通り、上野の龍田野に7時半っていうことかな?7時に上野に来れないか?折角だから、花見がてら、みんなで夜桜散歩してから店に行こうよ。」


俊樹は、オフィススペースのデスクに戻り、総合商社最大手の一角、牧田商事からメールされてきていた案件の対応を始めた。先週、マクレナンジャパンがリスクコンサルティング契約を獲得した案件である。ベトナムに新設される火力発電所の建設入札案件について、リスクアセスメントと保険コスト試算の提供を要請してきている。添付された圧縮ファイルを開くと、建設請負契約書(案)や図面など、10を超える英文のドキュメントが添付されている。一通りザッと目を通し、コンサルティングチームの高橋と打ち合わせた。その後、2、3件の電話対応と井上浩一と別件のショートミーティングを終え、シンガポールのコンサルティングチームと高橋のチームに分担を要請するメールを、独り言を吐きながら、書き終えると、もう昼を回っている。

「写しは、っと、JohnとKouでいいか、、、いや、JimmyとNaoにも入れておいてやるか、、、。送信っと。これで日本分が1,000万円。入札で取れれば、えーっと、年末までに5,000万円。まぁよし、か。」



「再会に、そして今夜が楽しい夜であるように。乾杯!」

「由美香ちゃん。先に言っておくけど、RITSの件は何も言えないよ。うちに決まったら、嫌でもいろいろ話さなきゃいけなくなるけどね。その時には、もう聞きたくない、許して、って言われちゃうかもな。ははっ。」

「竹内、ユミッキー。夜桜、良かったよな。散歩は正解だったね。遅刻の葵ちゃんは夜桜見れずで残念でした。」

「葵ちゃんは今どこの部署にいるの? 、、、」

「国際部でシンガポール、マレーシア、タイ、インドネシアとベトナム、ラオス、カンボジアが担当なんですよ。結構しんどい、ふふふっ。」

立教大学文学部卒、在学中シアトルに1年留学。27歳の時にプロポーズを断わり、それから男運が尽きて、この人と思える男性が現れないという。人懐っこく、可愛らしいが、芯のある、竹内結子のような雰囲気を持った彼女。ダークブルーのワンピースに少し低めのヒール靴。162、3センチの身長でスタイルも悪くない。この歳まで結婚していないのは、運がなかったのだと思える。



「竹内、俺そろそろ帰らないと、なんだけど。」

「私もなんですけど。。。RITSのことは、今夜は聞けそうにないし。でも、葵、こんな酔っぱらいで置いてくの、やばいかも。」

そう言われているにもかかわらず、橘葵は、まだ、ワイングラスを口に運んでいる。

「竹内さん、あたしも夜桜散歩したかった。これから行きましょうよ。そしたら酔いも覚めると思うし。」

「いいけど、、、大丈夫か?

じゃあ、俺、あと、葵ちゃん送るわ。」

「ごめんな。宜しく。竹内、襲うなよ!」



「竹内さん!やばい!吐きそぅ、、、」

橘葵は、店を出て歩き出したと同時に、顔面蒼白になっていった。飲んだビールと日本酒と赤ワインが今頃になって一層効いてきてしまっているようだ。花見どころではない。やばい子を引き受けてしまった。

「ちょっ、ちょっと、ちょっと待て!こんな街中ど真ん中で吐くな、、、」

逃げ込める路地も見当たらない。

、、、が、ホテルのネオンなら1ブロック先に見えている。しかし、元いた会社の、一回りも違う後輩、しかも今日までほとんど話したこともない女性を連れてホテルはやばい。。。


いかにもな雰囲気のホテルの部屋だ。こういうところには、酔いつぶれてくるものではない。

「葵ちゃん!とりあえず、この水飲んで吐こう!吐いちゃおう!

吐く?待て待て!トイレはこっち!」

やっぱり、やばい。。。でも、もう遅い。とにかく寝かせよう。って、寝ゲロで喉詰まらせたら。。。

仕方ない。落ち着くまで、朝まで付き合うか。。。



RITS Corporationのリスクマネジメント オフィサー、つまり、本件を決める一番偉い人は、CEOに直接レポートする地位にある。彼はアメリカ人で、ヘッドハンティングされるまでにも、米系大手企業のリスクマネージャーを担ってきた。このRichard Hiscockの下、実務は、専務兼リスクマネジメント部長 加藤真一と課長 高野収、主任 滝川武、担当 島田竜平の3名が担った。加藤は現場叩き上げで英語もおぼつかない。他のメンバーもリスクマネジメントの経験は浅く、外から見ていても、日米間のギャップが心配にならざるをえなかった。

月曜日以降、加藤、高野とは情報交換を続けており、どうやらマクレナングループは上位層につけているという感触を得ていた。ただ、Richardには探りを入れるものの読み切れない。

俊樹が高野からの電話を受けたのは、RFP提出締切の翌週の水曜日。葵と妙な一夜を過ごした翌朝。しかも、朝一番のコーヒーも飲み終えていない。

「おはようございます。竹内です。ご厄介になっています。」

「竹内さん、朝一番からすみません。早速ですが、Richardが御社のご提案を見て、もう少し詳しく聞きたい、といってきました。

当初の予定では、スケジュールの問題もあって、各社ともプレゼンテーションは受けつけないつもりでしたが。っで、他社にはお願いする予定はないんですが、御社にだけ恐縮ですがお願いしたいんですよ。公平性の問題もありますので、追加資料は作らないで下さい。

しかも、Richardが来週水曜からニューヨーク出張で、その前にとのことでして。

で、帰国の翌々日には、選定会議になるんです。」

「Richardさんは、弊社の企画案について、どんなご反応なんでしょうか。」

「ご提案の体制、コスト、期間でできるのであれば素晴らしいんですが、実現性を見極めたい、ということのようです。

確かに、我々は必ずしも知識が十分とは言えないので、この支援内容は実態に合っていると言えますし、推したいと思っています。ご検討頂けますか。」

俊樹は、こんな大事な要請を、高野から、しかも電話で、というのはどうなのか、という思いもあった。しかしながら、圧倒的な優位を得るチャンスであるのも確かで、できることは全てやる。高野のいうとおり、プロジェクトリスク解消の落とし込みが課題なのかは、早速、RoyからRichardに直接探りを入れてもらおう。

「では、各国メンバーのスケジュールもありますので、来週の火曜日を仮予定として、いかがでしょうか。

一つ、お願いがあります。Richardさんのご出張については、他社にリークしないで頂けますか。」


大変な1日が始まる。各国の主要メンバーの来日調整と、プレゼンテーションの準備打合せに、ニューヨークでのRichardフォローアップもアレンジせねば、、、

「Kou、Nao、Hiro、Jimmy!RITSの件、すまないんだけど、至急でミーティングしたいんだ!」

いつものことながら、目ざといことに、みんな、電話を聞いていたのだろう、嬉しそうな顔で頷いている。Naoは、もう先約のアポイントの調整電話にかかっていた。


これで、今週も百合のことを考える無駄な余裕もなく、家に帰らないこともできるが、絢也と会話する時間や春麗とまったり過ごす時間も取れそうにない。


「竹内さん。」

緊急ミーティングの後半になって、業務部の田中和男が口を挟んだ。日系最大手の損保からの転職組で、保守的な仕事の仕方は明らかにマクレナングループの日本ビジネス拡大には向かない。

「大きい案件ではありますが、無計画すぎないですか?世界中が振り回されるんですよ。」

やはり、不毛な会話が今回も必要なのか。頭の中で想定される会話は、噛み合わない百合とのそれを思い出させた。

時間的にも厳しいし、グダグダ言いそうなので、田中の仕事は海外スタッフに要請して、田中は実質的に外れてもらうことにしよう。



Bar「Indigo Blue」は、俊樹たちのオフィスビルの裏手の地下1Fにある。30〜40m2程度の広さの店内は、むき出しのコンクリートの壁に、照度を抑えたオレンジ系の小さな吊り照明が20ぐらいあるだろうか。手前側にはダークウッドのテーブルを挟んで2人掛けソファーを突き合わせたボックス席が2つ、中央に丸テーブルの6人席が1つ、右奥には、半円のガラステーブルを壁に寄せ3つのハイスツールチェアをセットした席が2つ。そして、正面奥のすこし高めのカウンターは黒に白いマーブルの一枚板の石板。ハイスツールが5脚。置物や壁の絵画は濃いブルーが基調で、赤い椅子たちとの落ち着くコントラストを静かに放っている。誰がコインを入れたのか、ジュークボックスからダイアナロスの”If we hold on together”が流れてくる。

ここは、俊樹のいるディビジョンの行きつけで、メンバー8人と周りのディビジョンの気の置けない仲間の情報交換の場になっていた。毎晩のように誰かが来ている。6人程度で来た時も、他に客がいなければ、4人席、6人席、壁際、カウンターと、それぞれが定位置のように自由に座り、自然な大きな声でのメイントーキングと、声を落とし気味の2、3人のサブトーキングがシンクロしている。

料理もカクテルも上手い40才を過ぎたマスターは、年齢相応に落ち着いており、俊樹たちEnjoy組とは空気を異にする。オーダーやサーブは23歳の明るいマミちゃんがこなす。俊樹たちのグローバルな会話に興味があるが、やはり入りきれない。


今は、貸切状態。俊樹と浩一はハイスツールに腰掛けカウンターにもたれかかっている。岡田純平は6人掛けのセンターテーブルの定位置にいる。そして、若松奈緒は壁際のストールで、ベリーニのグラスを片手に純平の方に身体を捻りながら座っている。


いつものように、岡田純平がメイントークを始める。

「Kouさんは要領がいいですね。これだけ忙しくEnjoyしながら、お子さんのオムツ代えにも参加して、うまくやってますよね。」

「Jimmy。俺なりに苦労してるんだよ。妻との会話を必要以上に大事にして、目を見てあげて。でも、体力は落ちてくんだよね。最近すこし辛くなってきた。っていっても子供の成人まであと18年。ファイト、、、」

少し呆れ顔で奈緒が振り返る。

「確かにKouさんもJakeさんも生き方が若いっていうか、子供のままっていうか、その辺のおじさま方とは違いますよね。違いますけど、20歳も違うんですよ、私と。うちのやつの方が先に年を取りそう。」

俊樹の胸元でバイブレーション。玉田からだった。

俊樹はひとりドアを引き、外に出る。

「あっ。竹内?

こないだは悪かったな。葵ちゃんがやっと吐いたよ。って、そっちの吐くじゃないよ。お前と葵ちゃんがどこで花見したか。」

「あぁ、あーっ。それね。

まあ、報告するようなことはなく、泥酔した方を介抱しただけだから。」

「だいぶ手厚く介抱したみたいだな、ふふっ。

葵ちゃんから聞き出すの、大変だったよ。ふふっ。」

「俺も帰りたくなかったし。。。あっ、いやっ、純粋に、カミさんのいる家には帰りたくなかったし。」

「っで、葵ちゃんがお詫びにまた食事に行きたいって。

でも、花見の件、ユミッキーにはまだ言ってないらしく、2人はまだ微妙な空気感みたいだな。この役回りをあてがわれてて、いい迷惑だよ。っふっふっふ。

また4人で近々セッティングさせて頂きますので、よろしく。

また連絡するな。」

やっぱり少し厄介なことになりそうだ。

葵には13歳年下のギャップを感じてしまう。春麗には感じないのは、何も言わなくても分かり合える一体感のようなもののせいだろうか。

ビルの隙間に見えるMidnight Blueの空にSeashell Whiteの満月がいつもより明るく感じた。春らしい爽やかな風も俊樹の今の気持ちとはアンマッチだった。

今夜も春麗のところに帰ろうか。




「Jake。RITSのプレゼンは、このプロジェクトにアサインできたあれほどのエキスパートを並べて、全世界一枚岩感が出せたのが大きかったな。」

「Kouの進行アレンジ力にも敬服だよ。

そもそも、RoyがRichardからポイントを聞き出せて、NaoとHiroの海外情報収集があれほど早くに進まなかったら間に合わなかった。

外資他社にはない総合力っていう感じだね。

今夜はニューヨークでTakashiが Phillip Jordanと一緒にRichardと会食だから、明日にはもう少し安心できるかも。」

「やれることは全部やったし、今夜はProject Manager 竹内様と前祝いをしたいな。」

「ありがとう、Kou。でも今日は先約が。四葉火災の同期、大学の親友 玉田と会う予定で。」

「懐かしい名前だな。今度、俺も呼んでよ。」



銀座7丁目。新橋にもだいぶ近く、景況感もそれほど感じる場所ではないが、それだけに、この辺りは落ち着いて会食ができる。周りには無駄なネオンもなく、見上げれば、星こそ見えないものの、今日もMidnight Blueの夜空が俊樹を見下ろしていた。

俊樹が指定された割烹「和志田」は、路地を入ったビルの地下1Fにあった。こざっぱりとした細い階段を下りて金属製の少し重い引き戸を開けると、玉砂利が敷かれた通路があり、2、3歩で、すりガラスの入った木製の引き戸がある。中に入ると、左側が寿司屋のようなカウンター、右側には1m程度の高さの白木のついたての向こう側一面に、ゆったり6人が座れる一枚板のテーブルがみえた。そこに橘葵の笑い顔と、後ろ姿の頭が二つあった。

ついたてを回りながら、奥に目をやると、個室が二つあるようだ。真新しい店の作りと、静かだが明るい雰囲気が、俊樹は早速気に入った。

「竹内さん。こんばんは。こちらに座ってください。」

葵が爽やかな笑顔で迎えてくれた。そして、玉田と河合由美香の楽しそうな顔が見えた。

俊樹が座り、ビールに酌をした葵は、急に真剣な顔になり、少しトーンを落として口を開いた。

「先日は、大変失礼いたしました。

結局、そのー、朝までケアして頂いたみたいで。。。

っというか、ケアして頂いて。、、、朝のことは覚えているので。」

「俺は気にしてないよ。ババ抜きでババを引いた気分だったけどね。はっはっ。」

「37歳でこれをやっちゃうと、もうダメですよね。

でも、胃のあたりを押してもらいながら、吐ききった後、楽になったのは覚えてます。」

「竹内!そんなことまでしたの!?

っていうことは、葵ちゃんのお腹とかその辺とかガッツリ触ったってことか!」

「竹内さん、葵も私も婚期逃した原因の一つは、たまにやっちゃうこれのせいかと、、、

だから、若い男の子や歳の近い子たちはダメっぽい、、、」

「はぁ、なるほどねぇ。でも、これまで悪いことされてないのは、いい男友達が多いってことかな?っはっはっは。

じゃあ、素晴らしい男友達どもに乾杯ということで。」

そういえば、ホテルのトイレで後ろから抱きかかえていた時、葵の体は女性らしい柔らかさで、首筋から肩にかけての色気は大人だった。あれがトイレでなければ、酔っ払いでなければ、と今頃思う。


今度は、河合由美香が神妙な顔になった。

俊樹は、早く楽しく飲みたいのに、と思いつつ、ビールグラスを置き、由美香の顔を覗き込んだ。

「竹内さん、、、あのぅ、RITSの件、その後どうですか? 、、、板垣課長からも追及されてて、でも情報ないんです。」

「今、話せることは、まだ選考が終わっていないことぐらい。もしもうちに決まったら、すぐに連絡するから名刺くれる?ついでと言ってはあれだけど、葵ちゃんもある?今度、玉田抜きで誘うときに使わせてもらうから。

、、、冗談、、、

どこが選ばれるにしろ、既存の起用先にしてみれば、このままというわけにはいかないけど、頑張ったらいいこともあるはずだよ。既存は情報量が違うんだから、でてきたコンセプトにあった設計をするための体制作りをしておくことだね。

さて、これで取り敢えず楽しく飲む準備は完了でいいですか?


じゃあ、再会とお二人の良き男友達どもに乾杯!

あぁ、、、沁みるねぇ。。。


そういえば、玉田。大学時代に一緒に遊んでた井上恭子って今どうしてるか知ってる?」



和志田の前で包まれたMidnight Blueの空と駅から自宅に帰る間に見るMidnight Blue。まるで別物に感じる。この黄昏感に苛まれながら歩く10分の道のり。そうだ、百合に頼まれた牧場印の牛乳と食パン1斤、どこで買おうか。


マンション7階に降り立ち、玄関を開けてリビングへ。百合は、いつも通り、定位置のソファに横になりテレビをつけて、携帯を弄っている。

どうせ返事はないので、ただいまと挨拶をする気もない。買ってきたものをダイニングテーブルに置き、寝室でスーツを脱ぐ。開けていたドアの向こうから絢也が声をかけながらリビングに向かう。

「おかえり。あぁ、この間の模試の結果、帰ってきたけど、評価の見方がいまだにイマイチわかんねぇ。」

「ただいま。風呂入ったら早速見せてもらうよ。」

少しホッとする。

「そろそろズボンプレスをかけないと。靴も磨かなきゃ。」

俊樹は小声で独り言を言いながらバスルームに入っていった。シャワーを浴び、湯船に浸かる。

「あと5年。。。

あと5年も。」



玉田は、帰る方向が同じ橘葵、河合由美香と電車に乗ったものの、葵が降りた後、ふたりで恵比寿駅近くのバーで飲みなおすことになった。

5段ほどの階段を登ったところに”Bar Sweet Heart”と書かれた楕円のプレートの掛かる重厚なドアがあった。扉を押し開けると、左奥のピアノで奏でられているラプソディ イン ブルーが、少し暗い室内の雰囲気を柔らかくしていた。2人はカウンター席に腰を下ろし、ドリンクとナッツをオーダーした。

「由美香ちゃん、浮いた話がないのはなぜ?

これ、真面目な質問な。だいたい君らぐらいになると、ボチボチ何かを諦めて仕事一筋って見える子が大半なのに、由美香ちゃんは、まだまだ恋も仕事もプライベートも、って人生謳歌のオーラじゃん。どーなの?」

玉田は、マッカランの注がれたロックグラスを口元から離し、横目で河合由美香の顔を見た。

ピアノの音が心地良く背中に当たっている。

由美香は、手にしたコリンズグラスのカクテル越しにカウンターの中を眺めながら、少し寂しそうに答えた。

「また、いろいろ悩むタイミングに差し掛かってきたかなって思ってますよ。でも、まだ恋もしたい。結婚もしたいかもしれないし、子供も欲しいかもしれない。仕事はきついけど楽しい。そんなことを思ってるうちに1週間が経ち1ヶ月が経ち1年が過ぎていってます。あぁ、私には人生の次の分岐点ってあるのかしら、って思いますよ。欲張りすぎてるのに受け身で、結局、何も手にできていないっていう感じですかね。」

「そうか。俺の40代もそんな感じで終わっていったよ。俺は離婚っていう分岐点は作ったけど、先には進めてないな。

必要以上に何かを怖がってるのかもな。」

「もう、この歳で傷つくぐらいなら、このままでもってことですか?

、、、そうなんですよねぇ、私も。」

曲がRound Midnightに変わった。急に大人の夜を感じる。

「由美香。。。」

今夜は、もう「ちゃん」はやめよう。

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