第1章 エンジョイ グローバルビジネス
第2話「あと5年」
今の俊樹にとって、家庭を振り返った時、「あと5年」は、「あと5年も」でもある。しかし、子供達が独り立ちするまでは我慢すると決めている。すでに仮面夫婦化してから20年近くが過ぎるのだから、この計画を全うしよう。絢也が大学を卒業するまで、あと5年。その翌月に俊樹は55歳になる。結婚29年目での離婚、そして新たな人生を踏み出すつもりだ。
いろんな意味で、生きたいように生き、家族を養い、どうにかここまで来た。人並みに挫折も味わったが、「充実」という言葉がまさに当てはまる人生を勝ち取ってきた。そして、年収1,600万円+αという、「一応の」ステイタスはあるが、この中途半端なポジションにはまだ納得はしていない。子供達も無事にここまで成長してきた今、次の人生設計を模索し始めているが、そこに妻の百合がいる必要性を一切感じない。
「そんな言い方しなくたっていいじゃない!じゃあ、自分で食事作れば!」
「レトルトのスパゲッティ、解凍しただけだろ。」
予想もつく、百合のいつもの反応だ。
専業主婦、49歳の妻は、女王様のつもりか、家族にはかなりきつい物言いをするのに、少しでも自分に風当たりがあると、逆ギレともいえる言動が始まる。
遅い夕食を食べ終えた俊樹と絢也は、百合に返答することもなく、いつも通り、呆れてそれぞれの部屋に入っていった。それでも、百合はまだ1人、大声で憂さを晴らしている。
「私のやることになんでいつも文句をいうのよ!」
文句ではなく、意見や質問が全てこうなる。時には、論点をずらして保身の発言を大声で繰り返す。毎日のこうした光景に心底辟易としている。
「あと5年、、、」
最近、一層これを思うことが増えている。リクライニングモードのパソコンチェアに一体化した俊樹の体が、大きなため息とともに微妙に上下する。隣の絢也の部屋からは、YUIの歌詞が少し絞った音量で聞こえてくる。大学受験勉強もいつの間にか自分から本格化させている。
反対側の紫の部屋からはいつもどおり物音はない。大学4年になった彼女は、何をしているのか、いつも午前2時を過ぎないと帰ってくることはない。趣味の悪い美大生のような格好と上手くない化粧から見て、夜の商売や悪い連中と遊び回っているわけではないようだ。しかし、就職活動は大丈夫だろうか。。。
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