販売自粛

「検査結果が出ましたが。これは、あの病気ですね。自粛していて、病名は言えないんですが」


「……自粛? 死ぬ病気なので本人に言えないってことですか? だとしたら思いっきり言ってしまってますが」


「ええ、放っておいたら死ぬ病気です。けど、本人だから言えないってことではないです」


「えっと、あの、放っておきたくないから病院来てるんですが……」


「治療薬、あるにはあるんですが。今は販売や処方を自粛していまして……」


「けど、飲まないと死ぬんですよね。出して下さいよ。ていうか、シリアスさが伝わってこなさすぎて、コントみたいになってるんですが。本当に死ぬ病気なんですか?」


「病気を見つけた人がいましてね。特効薬も見つけたんですよ」


「ええ、はい」


「けれど、その人、覚醒剤をやってたんですよ。で、捕まって。病名も特効薬も自粛」


「え、そんな理由で! ふざけないでくださいよ」


「それだけじゃないですよ、調べたら、酔った未成年女性に強制性交していたことも分かったんです。さらにはツイッターでヘイトスピーチをしていることまで分かった! 本当に悪い人ですよ、彼は」


「確かにそうかもしれませんが。けど、薬ないと死ぬんですよね」


「私も、別に自粛までする必要ないと思ったんですけど。日本医師会と厚生労働省と製薬会社が決めたのだから仕方ない」


「仕方ないで済む話ですか」


「被害者女性やヘイトスピーチを受けた人たちのことも考えてくださいよ」


「いや、まず俺の気持ち考えてほしいわ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る