170話〜資格喪失

 ここは東側の通路。クロノアがブラグジオスに向けている左手の前に魔法陣が現れる。その魔法陣から光の柱がブラグジオスへ放たれた。その後、光の柱はブラグジオスに当たる。


 するとブラグジオスの体が激しく発光した。



 ――ギャオォォォオオオオー……――



 辺りに途轍もない咆哮が響き渡る。


 “我はブラグジオス、汝に我の力の一部を分け与えよう――……”


 そう言うとブラグジオスは、クロノアの方へ体ごと向いた。その後、龍語らしき言葉を発する。すると光の柱を伝い細い光がクロノアの左手のドラゴンの紋章へ伸びて当たった。


 だが……それと同時に、クロノアのドラゴンの紋章が消える。


 それだけではない。光の柱や展開されていた魔法陣までも消滅したのだ。


「……」


 クロノアは絶句した。


「こら、どうなってるんや?」


 近くに居たクレイも不思議に思い首を傾げる。


「いったい何が起きた。いや、我の力が……クロノアを拒否したのか。そうでなければ、まだ我の能力を授かる器が整っていないかだが」


 クロノアとクレイに聞こえるぐらいの大きな声で、ブラグジオスはそう言った。


 それを聞いた二人は、ブラグジオスの側まで行く。


「それって、私に資格がないってことなの?」


「クロノア、それは分からぬ。まだドラゴンの紋章はあるか?」


「ううん、なぜか……消えてる」


 そう言いクロノアは俯いた。


「うむ、資格を失ったようだな。だが、再び証を得ることは可能じゃ」


「それって……どういう事?」


「今は無理だが。神々の塔での試練をクリアすれば手に入れることは可能。だが、それが同じ証とは限らない」


 そう言われクロノアは、左手の甲に視線を向ける。


「そっかぁ、そうなると……ここでは何もできない。どうしよう……」


「そうだな……我も、やることがなくなった。だが……今更、何もしないで元の世界に戻るのもつまらぬ」


「おいっ、まだやることはある」


 そう言いクレイは、寝ているディアナを指差した。


「そういえば、ディアナ。でも、どうするの?」


「そうだな……」


 ブラグジオスはそう言うとディアナをみる。


「……このまま、ここに置くのも危険。うむ、クロノア……ひとまず城の外に避難させろ。それと、お前たちもこの場を離れた方がいいな。我は、空で状況を観察する」


「ブラグジオス、でも……」


「クロノア、ブラグジオスの言う通りや。今、俺たちにしかでけへんことする。……ってことで、行こか!」


 そう言いクレイは、クロノアの腕を掴みディアナの方に向かった。


「う、うん……そうだねぇ。ディアナを外に避難させるのが先……」


 クロノアはクレイにそう言われ納得する。


 そして二人はディアナのそばまできた。


 するとクレイはディアナの様子を確認する。触れても大丈夫だと思ったクレイは、ディアナを抱きかかえたと同時に城の外に向かい歩き出した。そのあとをクロノアが追いかける。


 その後ブラグジオスは、二人が城外にでたのを確認すると大きな翼を羽ばたかせた。そして、空へと舞い上がる。


(さて、どうなる。我は暇になったので、高みの見物でもするか)


 そう思いながらブラグジオスは、遥か上空から名もなき城を覗きみていたのだった。

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