8話〜カジノでとんだ騒動《後編》

 クロノアはディアナとハウベルトをみたあと、黒いローブを纏った女に視線を向け睨んだ。 


『ディアナ、ハウベルト!! これって、どういう事……あなたは何者なの?』


『貴様には、関係ないって言いたいところだが。名前ぐらいは名乗っておこう。私の名はアリスティア』


 そう言いアリスティアは、クロノアに視線を向ける。


『そしてお前の実力が知りたくて、ここに来てみた。だが面白いことになっていたので、少しみせてもらったよ』


 そう言いアリスティアは身構えた。


『お前の力をみせてもらう……あのお方のためにな!!』


 するとアリスティアはクロノアに、魔法攻撃を仕掛けようとする。


『あ〜、今日はなんなのよ。もう仕方ない、それなら私も……』


 そう言いながらクロノアは杖を翳した。


 《ボルティクス オブ フレイ!!》


 そうクロノアは呪文を唱える。


 すると魔法が放たれた。その魔法は、炎の渦になりアリスティアにあたる。だがアリスティアには、それほど効果がない。


『フッ……この程度の攻撃とはな。それならこれは、避けられるか?』


 そう言い放つと前に手を翳した。


 《フレームス オブ ダークネス!!》


 そうアリスティアは呪文を唱える。


 すると闇の炎が現れた。その闇の炎が、アリスティアの手から放たれる。


 その闇の炎はクロノアへと向かう。それを避けようとしたがクロノアは、アリスティアの魔法を真面にくらった。そして地面に倒れる。


(このままじゃやられる。ん? ちょっと待って、闇の炎ってことは……)


 そう考えながら立ち上がり、体勢を立て直した。


(もし属性耐性が存在するなら、あの攻撃が有効かも。とりあえず試す価値はあるよね)


 やられたにも拘らず、笑みを浮かべるクロノア。それに対しアリスティアは、なぜか嬉しそうである。


『ほぅ、笑みを浮かべるとはな。余程、この状況が楽しいらしい。ならば……次はその笑みが浮かばないくらいに、痛めつけてやるまで!!』


『クスッ、その前に……これで終わらせる!!』


 《ホーリーライト アロー!!》


 そうクロノアは呪文を唱えた。すると翳している杖が光って、魔方陣が展開される。その魔方陣から、無数の聖なる光の矢が放たれた。


 アリスティアは油断した。そのため避けきれず、一本の光る矢が直撃する。


『クッ……こ、これは属性攻撃か。私をここまで追い詰めるとはな……まぁいい。お前の名を聞いておこう』


 アリスティアは急に態度を変え、そう問いかけた。


 そう言われクロノアは、少し調子を崩され困惑する。


『え、えっと……あーまぁいっか。私はクロノア・マリース・ノギア……一応は、魔導師だよ。って、そういう事だから!!』


 そう言い放ちクロノアは、杖を構え直した。


『そう慌てるな。今日は、ここまでにしておこう。だがクロノア、今のお前の実力では私には勝てないだろう。では、な!』


『待て!? この状況で逃げるって、どういうつもり!!』


『そう慌てるな。恐らく近い将来、嫌でも会うことになる』


 そう言われクロノアは首を傾げる。


『それって、どういう事なの?』


『まぁ、時期がくれば分かる。慌ててここで死ぬことはない』


 そう言いアリスティアは退却しようとした。


 だが、クロノアは納得いかない。なので、ここでアリスティアを逃がすわけにはいかないと呪文を唱え始める。


『馬鹿が!? この状況が、お前にとって不利だと思わないとは……』


 アリスティアは頭を抱え呆れた。


『フゥー、仕方がない。このまま退却するつもりだったが……』


 《闇極大魔法 ダークストーン ダスト!!》


 そうアリスティアが呪文を唱えると、建物の上空に魔法陣が現れる。そしてその魔法陣から、闇の石飛礫が無数に出現した。


『悪い、そうそう構ってもいられんのでな。また会う時を楽しみに待っているぞ!』


 そしてその直後、アリスティアはそう言い消えた。


 クロノアはその場の状況が分からないまま……。


『ちょ、ちょっと待てぇええー!!』


 そうクロノアが言った瞬間、アリスティアの魔法により酒場兼カジノの建物は崩壊する。


 ディアナとハウベルトは、そのショックで目覚めた。


 そしてクロノア達は辺りを見渡したあと、今の状況を把握する。


 三人はこのままでは大変な騒ぎになると思った。そのためお金以外の持ち物を全て抱え、その場を逃げるように街を出る。



 ★☆★☆★☆



 ……――そして現在。


(はぁ〜、でも何者だったんだろう?)


 クロノアはその時のことを思い返していた。


(確か、アリスティアって言ってたなぁ。闇の魔法を使ってた……。あれは、全く知らない魔法だったけど)


 そうクロノアが考え込んでいると、ハウベルトは思い出したように話し始める。


「そう言えば、この前のアイツ。いったい何者だったんだろうな?」


「何者かは分からない。だがそろそろ、ここから旅立ち……クロノア様には一刻も早く長に会ってもらわないと」


 ディアナはそう言いながら、夕食を手際よく作っていた。


「そう言えば、聞いてなかったんだけど? この国の名前とかって」


「そういえば、言っていませんでしたね」


 そう言うとディアナは、この世界の名前と国の名がブラックレギオンであること。


 そしてこれから向かう場所が、バブルスロック城であることを説明する。


「そこに我らが長がいます。いい加減、行かないと長が怒る頃かなぁ」


 慌てたそぶりもなく、アッサリとそう言った。


「ディアナの言う通りだ。確かに長が怒ると、大変なことになりかねないからなぁ」


 ハウベルトもアッサリと言い、それほど慌てている様子がない。


(怒ると言いつつ、なんでそれほど慌ててないの? んーまぁいいか、考えても分からないし。

 そのうち分かるだろうから、このことはあとで考えよう。んー、野宿は嫌だけど仕方ない食べ終えたら寝るか……)


 そう考えながらクロノアは、明日の準備をした。その後、しばらくしてから眠りにつく。



 ★☆★☆★☆



 その頃アリスティアは、クラフト村付近にある洞窟内にいた。


(クロノアか。私にここまでの、傷を負わせるとはな)


 そう思いながらアリスティアは、傷の手当てをしている。


(それにしても異世界人とは、みんなあんな感じなのか? 白き英雄のハクリュウが剣王ならば、黒き覇王のクロノアは魔導王と言ったところか)


 傷の手当てを終えると、パッと寝袋をどこからともなく出す。


(いずれにせよ……あのお方に報告せねばならない。明日は我が国に戻りお伝えしなくてはな)


 そしてその後、アリスティアは眠りについた。

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