第22話 麗しの慶子さんと運命のデート その②
…という訳で僕は何としても今回の人生初デートを成功させるべく、まず考えたのは本屋に行くことでした。
その目的はもちろん「デートの心得」みたいなものを事前に学習しようと思ったからです。
…普段なら全く見ることも無い「ティーンズ雑誌」を僕はむさぼるように立ち読みしました。
(…初めてのデートでは、何よりも会話が大切です!たわいない話題でも良いので、会話を続けて行くようにしましょう。…特に会話が途切れて3分以上沈黙が続くと、二人の間の雰囲気が重くなるので注意しましょう)
立ち読みした本にはおおよそそのようなことが書いてあり、
「なるほど…会話だな!よし、会話だ!」
と僕は自らに言い聞かせたのでした。
そしていよいよデートの前日、僕はC子さんから教えてもらった番号に電話して、慶子さんと初めての会話をしました。
「…もしもし、初めまして…えぇと、僕は…」
相手を確認しておずおずと話しかけると、
「こんにちは!…森緒さんね!慶子です!明日はよろしくお願いします」
と、受話器の向こうから明るい声が返って来て、とりあえず僕はホッとしたのでした。
「ウフフ… ! 森緒さんは話がとても面白くてハンサム君だって聞いてます!…逢えるの楽しみです!」
彼女にそう言われて、逆に僕は緊張感を覚えながら、
「それは…たぶん誇大宣伝されてると思うな…」
と応えました。
それでも電話でのファーストコンタクトはまずまずの感じだったかなと安堵して、翌日僕は松戸駅で彼女と待ち合わせしたのです。
…現れた慶子さんは、グラマーというレベルではないけど、ちょっぴりふくよかな健康的なお嬢さんといった感じの女性でした。
目立つ顔立ちではないのに、上品で綺麗な娘さんで、僕は何としても今日のデートを成功させて彼女と仲良し関係にならねば!と決意を新たにしたのでした。
(デートの心得、会話だよな!そう会話会話 !! )
心の中で僕は反芻して彼女と電車に乗り、東京の銀座に向かいました。
…電車の中ではとりあえずお互いの家族の話などしながら何とか無難にやり過ごし、銀座では二人で映画を観ました。
…実のところ、特に一緒に観たい映画があった訳じゃないのですが、要するにその間は「会話を続けなければならない」というプレッシャーから逃れられるからでした。…何しろ高校を卒業してまだ間もない十代の僕に、そんなに女性との会話がはずむような話題の引き出しがあるはずも無かったのです。
…映画館から出ると、すでにお昼を過ぎていたので、僕たち二人は自然に
「お腹減ったね!…」
と言葉を交わして笑顔を見せあいました。
そして銀座の街角を少し歩いて、僕の財布の状況もかんがみつつ、庶民的な店構えの中華料理屋を見つけて入ったのでした。
…すでに昼食時間帯のピークを過ぎていたためか、店内は空いていました。
二人で席に着くと、しかし僕の頭にはもはや会話のネタとなる話題が枯渇していました。
(話題だ話題だ、会話だ会話だ、話が途切れちゃいけないぞ!…)
すっかり会話呪縛に取り付かれた僕はただ頭の中をそのことがぐるぐると回り始めていました…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます