第19話 晴れの結婚披露宴の後で…封印された話 (前編)

 …という訳で私とマキの結婚披露宴は、2月中旬の肌寒い日ではありましたが上野の池之端文化センターでつつが無く行われました。

 フミの要望で費用も事前に支払いを済ませて晴れやかな披露宴でした。

 …新婦マキのお父さんの実家は九州宮崎県の日向市にあり、披露宴に出席頂いた身内親戚の方々もはるばる遠く九州からやって来られた人が多くいました。

 一方私の両親はともに新潟県長岡市出身なので、親族もせいぜい新潟から、新幹線なら長岡から上野までは一時間半ほどで時間的には大した移動ではありません。

 …宴もたけなわ、両家一族御歓談のとき、新婦側の親族の方からフミのところにちょっとした申し出がありました。

「私ら、九州から遠いところをやって来た者が多いので、実はこの後また別の会場で二次会をやることになってるんですよ!…それで、広く席を押さえましたんで、もし良かったら森緒家の方々もご一緒に如何ですか?…」

 丁寧な言葉にフミは戸惑いながらも隣席のサダジに、

「お父さん、…先様がお誘いして下さっていますけど、どうしますか?」

 と返事を促しました。

 するとサダジは、

「いや、こっちはこっちで二次会をやるからいいよ!」

 と言うのでフミは丁重に、

「有難いお誘いですが、こちらも二次会の用意をしてあるようですので…」

 と言葉を返したのでした。


 …やがて新郎新婦からそれぞれの両親に花束贈呈など型通りのクライマックスシーン等あって、披露宴はお開きとなりました。

 …各自帰り支度をして、森緒家の身内がロビー前に集まると、サダジはソファーからスックと立って、

「よし!じゃ行こう !! 」

 と言うと外へずんずんと歩き出しました。

 私やフミ、それに身内の叔父さん叔母さんたちもぞろぞろとサダジに付いて歩いて行きます。

 結局総勢11~2人ほどとなった一団がサダジの後ろをまるでカルガモファミリーのように一列になって上野公園の不忍池の脇をずらずらと御徒町方向に移動して行く格好になりました。

 …まだ冬景色の不忍池は寒々と冷たそうな水面に、水鳥が浮かんだり飛んだりしていました。


 時々吹き抜けて行く風に凍えながら上野公園の中を通り過ぎ、上野広小路交差点を渡って一団は松坂屋デパートの前にさしかかりました。

 …親父はいったい何処の店へ連れて行こうとしてるんだ?と私が思い始めたとき、サダジは急に向きを変えて今度はアメ横方面に入って行きます。

 …細かい個人商店がひしめくアメ横の中を、新潟から出て来た叔父さん叔母さんたちはキョロキョロしながら歩きます。

 …やがてもともと膝の悪いフミが辛そうな顔でサダジに言いました。

「お父さん!お店はまだなの?…私さっきからもう膝が痛くて…」

 すると振り向いたサダジはあっけなく言いました。

「良い店って、無いもんだな!」

「 !? ……… !! 」

 その瞬間、私たちはガックリと地面にしゃがみこみ、言葉にならない声を上げたのでした。

( 何のあても無くさまよっていたのか !? 俺たち…!)

 アメ横の中をまた冷たい風が通り過ぎて行きました…。



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