第18話 晴れの披露宴会場で激怒する母 (後編)
そしてジタバタしてるユージとおろおろしてるミサエちゃんの前で仁王立ちのフミはもう一度言いました。
「200万の金持ってお父さんは展望フロアで何をしてるんだ?」
…私は仕方なく見たままを報告しました。
「…百円入れる望遠鏡覗いて東京も変わったな…」
「💢呼んで来~(怒)~い !!」
私の報告を遮り、フミはビル全館内に響き渡るかのような声で叫びました。
私はその勢いに圧されて慌てて階段を駆け上がり、最上階に走って行きました。
…息を切らして展望フロアに出て見ると、何とサダジはまだ望遠鏡を覗いていました。
「親父っ !! ユージから披露宴の金を預かってるんだって?」
私が訊くと、サダジはシレッとした顔で、
「あぁ、あるよ」
と言って上着の内ポケットのあたりをポンと叩きました。
私はあまりのサダジの脳天気ぶりに脱力しながら、
「あぁ、あるよじゃないよ!…下のレストランの方で大変なことになってるよ !! 」
と伝えると、
「あっ、そうなの?」
サダジは悪びれた様子も無くそう言って下の階にてぷてぷと向かいました。
「…う~む」
私はこれから階下のラウンジレストランで起きるであろうやり取りを思うとちょっとゲッソリしてしばらくはまだ展望フロアに残っていました。
…正直言って今までの森緒家の歴史上、サダジの行動には慣れっこではありますが、一生に一度の晴れの結婚披露宴の後で、金を持って何処かへ消える義父と激怒して叫ぶ義母…そんな家に嫁入りするミサエちゃんの胸中はいかばかりかと、先ほどのおろおろした眼でユージを見つめていた彼女の姿を思い出しながら私は哀しい気持ちになったのでした。
…その後、少しして私は現在の妻となるマキと知り合い、二人で家を借りて一緒に暮らすようになりました。
そして今度は私とマキの結婚式と披露宴をやることになり、会場を何ヵ所か下見したりして結局、当時東京上野に在った池之端文化センターに決めたのでした。
…親戚やら友人やらに招待状などを発送して一通りの準備が完了し、やれやれと安堵した後日、私が勤めを終えて家に帰るとマキから報告がありました。
「今日、あなたのお母さんから電話があって、あんたたち披露宴のお金は大丈夫か?って訊かれたの」
「はぁ、それで?」
私が言うと、
「大丈夫です、二人で用意してますって答えたら、披露宴のお金は必ず式場に前払いしておいてちょうだい ! って言うのよ!お願いねって、何かそれがお義母さんにとって深い意味があるのかしら?」
マキはそう私に訊いたのでした。
「あぁ、あるよ!…」
私は奇しくもあの日のサダジと同じ言葉をため息とともに返しました。
「…早めに式場に金を払ってお袋に連絡してやってくれ ! 」
私はマキに言いながら、そうか…これがお袋にとっては一番大事な準備だったな ! と、あの日激怒して叫んだフミの顔を思い出してそう呟いたのでした。…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます